校長室
嘆きの邂逅(最終回/全6回)
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離宮編 第1章 高まる絶望 使用人居住区の方から、爆発音が響いた。 成果は兎も角として、爆破に向った者達が爆破に成功をした音だ。 だが、その音に不安を覚える者もいた。 「揺れの規模が想像より大きい。嫌な予感がする……」 東塔近くの前線で奮闘していた国頭 武尊(くにがみ・たける)は、爆破に向った仲間の姿を思い不安に駆られ、隊長の風見 瑠奈(かざみ・るな)に目を向ける。 「無線機で確認を取ってくれ。俺達は様子を見に行ってくる。神楽崎に連絡を入れて、東塔への増援を要請してくれ」 「分かったわ。でも待って今はまだ行かないで……っ」 振り向いて、武尊にそう答えた瑠奈の背に、敵魔道兵器が石の拳で強烈な一撃を与えた。 決して大きくはない彼女の体が、数メートル吹っ飛び、地に倒れる。 「風見……っ!」 助けに行こうとする武尊にも、敵兵器が絶え間なく襲い掛かってくる。 今、自分が離れれば、周りにいるヴァイシャリー軍の兵士、数名が命を落とす恐れがある。 そう多くはないが、東塔の防戦では死者も出ている。 兵士達の何倍もの敵をひきつけ、塔を防衛している武尊や契約者達が抜けるということは、死傷者の数が数十倍にも膨れ上がり、敵に押されて塔が破壊される恐れも出てしまう。 「救援、要請だしたから……もう少し、待って。お願い……」 倒れたまま本陣へ連絡をいれた瑠奈が武器を支えに立ち上がる。 「敵の突破を許すわけにはいかない……!」 浮上地点の調査の為に訪れていた朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)も外へと飛び出し、防衛に協力をしていた。 武器は刀1本しかない。 地上にはキメラが集まっていると聞いた。 転送されてここに1匹でも訪れたのなら、極めて危険な状況となる。 1匹、塔内への侵入を許してしまったら……それだけで、失われる命がどれほど増えることか。 「隊長に早く回復を」 「すまない……。シーリル頼む」 「はい!」 武尊のパートナーシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が、瑠奈にヒールをかける。 精神力にも余裕はない。 武尊は歯を食いしばり、共に死線を潜り抜けた仲間を想いながら銃を撃つ。 (頼む……早く、増援を……!) ジュリオ・ルリマーレンが剣を振り上げる。 途端、光が迸り、走って離脱しようとした契約者達の体を打った。 目覚めたばかりで混乱しているのか。敵に操られているのか。 判断は出来ないが、彼が自分達を殺そうとしているということだけは、感じ取れた。 「輪廻さん、こちらを優子副団長へ」 比島 真紀(ひしま・まき)が辛うじて確保できていた球状の封印の石を四条 輪廻(しじょう・りんね)に渡す。メンバーの中では彼が一番適任だと判断した。 「俺……は……」 少しだけ悔しげな顔をし、一瞬だけ輪廻は歯を食いしばった。 ジュリオが次の攻撃を繰り出す。迷う時間はない、待ってはくれない。 光がメンバー達の体を打ち、衝撃に皆膝を床についた。 光条兵器使い達も音と光に気付き、こちらに近づいてくる。 「……いや、了解した、任されよう」 言った後、輪廻は急いで眼鏡を外し、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)に投げ渡す。 「ありきたりですが、僕の大切な……お守りみたいなものなんで、貸してあげます。後で返してくださいね」 「……お借りしましょう、後で必ず」 エメは素早く受け取ったその伊達眼鏡をかけた。 そして、携帯電話で別邸にいるアレクス・イクス(あれくす・いくす)に電話で状況を伝える。 輪廻と白矢が封印の石を持って、別邸に向うこと、残りはジュリオと当たること。アレクスには直ぐに援護に来るようにと話す。 輪廻立ち上がると、真紀の頭を軽く撫でる。 「そっちは任せます……比島さんも、また後で」 言って、瞬時にパートナーの大神 白矢(おおかみ・びゃくや)と共に走り出す。 光がまた瞬いた。強い衝撃を受けながらも2人は走る。 「シロ、疲れてるところ悪いけど、もう一仕事いけるね」 「拙者はまだまだ元気でござるよ、四条殿こそ、メガネなしでも平気でござるか?」 白矢は走りながら獣化していく。 「大丈夫、流石にこんな状況ではオロオロしないよ」 その背に、輪廻は飛び乗った。 銃を手に持ち、迫る光条兵器使いを牽制する。 白矢は武器は持たず、攻撃も封印の石も輪廻に任せて、走り抜けることだけに専念する。 窓一つない、モニターと機器類が沢山並べられている部屋の壁に、大人一人が通り抜けられるくらいの穴が開いた。 モニターには離宮の様々な場所が映し出されている。 ジュリオ・ルリマーレンがいた部屋や、宝物庫奥に存在する部屋も。 ソフィア・フリークスは、あいた穴から地下道を覗き込む。 「やっぱり北側は崩れてしまっていて、たどり着けそうにないわね」 モニターにはこの付近の映像は映っておらず、地下に集めていた兵器の状態も、部屋の状態もわからなかった。 ソフィアは、部屋の中にあった適当な布や置物をあいた空間に詰めていく。 それから部屋にかけられている梯子に手をかけた。 「大人しく待っててね」 梯子を上ろうとするソフィアに――桐生 円(きりゅう・まどか)が駆け寄って、抱きついた。 ソフィアはビクリと体を震わせて、酷く驚き円を振りほどこうとする。 首を左右に振って抵抗し、抱きしめたまま円は語り出す。 「ねぇソフィア。ボクには、まだいいのか悪いのか解らない。だけどね、ソフィアが何かに憤ってるってのは感じるし、それがどうしても我慢できないことだって事もわかる」 動きを止めて、ソフィアは黙って円の言葉を聞く。 「ボクは君の頑固で融通が効かなくて、自分一人で抱え込んで頑張ってる所、好きだよ。でもパートナーだから、一緒に考えていきたい」 顔を上げると、ソフィアは眉を寄せ少し困った顔をしていた。 「だから一緒に行くよ、ボクはソフィアのことを信じてるから。ボクにとっても、友達と言うより、大切な人かもしれないし」 「……私はもう、後戻りは出来ないし、するつもりもないわ。あなたも出来なくなるわよ」 ソフィアのその言葉に、円はただ頷いた。 「分かった。行きましょう」 ソフィアは感情を表さずにそう言って、梯子を上り始める。 そして天井にある魔法陣のような模様に手を当てて、魔法の扉を開いてソフィアは地上に出る。 円も、後に続いた。 出た先は、使用人居住区内の一軒家だった。 家を出て、更に北へ――北塔の方へ歩いて向う。 「北塔の封印を解いたら、私はしばらくまともに動けなくなるわ。だからその前に、必要な転送は行っておかないと」 「キメラがまた送られてくるんだよね? どうやって操るの? ボクも敵って思われちゃったりしない?」 「キメラは私には操れないわ。私に出来るのは敵地に送り込んで暴れさせるだけね。ヒグザ様には操ることが出来るし、専用の装置を持っている仲間も多少指示を出すことが出来るはず。でもその仲間に何かがあったみたいだから、キメラを制御できるのはヒグザ様だけかもしれないわね」 淡々と答えて、ソフィアは北の塔の方へと歩く。 塔の側には人造兵器がずらりと集まっている。 「まずはあの兵器達を送って、それから北塔の封印解除。ヒグザ様を迎え入れて、ヒグザ様に地下の兵器を送ってもらうしかないかしら……。とにかく地上と連絡が取れないのが辛いところね」 ヒグザは通信機や物資など必要なものを飛空艇に乗せてきてくれたが、地上と離宮間の交信が出来るような高性能の通信機は用意できなかったようだ。 「送るってどこへ?」 「……別邸ね」 少し考えた後、ソフィアはそう答えた。 「兵士の集まっている東塔や南の本陣じゃなく?」 円もソフィアも、本陣が別邸に移動されたことは知らなかった。 「別邸は敵兵器の修理工場のような場所だから。敵の息の根を止めなければ倒しても復活されてしまう……それなら、復活させている場所をまず壊してしまわないと。本陣を叩きたくもあるけれど、南には増援が送られてしまう可能性があるし、私達はここに下りてきた者に降伏をさせたいのではなく、殲滅することが任務なのだから、本陣より別邸が先」 「凄い数だけど、一人で送れるの?」 「地上、離宮間と違って、封印という障壁がないから問題ないわ。ヒグザ様が転送術に必要なものも持ってきてくれたしね。だけど……さっきも言ったけど封印を解除した後は、まともに動ける状態じゃなくなるから……」 そこで言葉を切り、ちらりとソフィアは円を見た。 直ぐに視線を前に戻す。その台詞の先は言葉にしなかった。 「ただ、その別邸には私もヒグザ様も入ったことがないから、中に直接送り込むことは出来ない。東側にするか南側にするか迷うわね。その後本陣に向わせることを考えると、南かしら」 硬い表情、硬い声でソフィアはそう言った。