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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

リアクション

 
 
 今は亡きあの子への 
 
 
 ゆっくりと運ぶ足取りに合わせて、水桶の水がちゃぷちゃぷと揺れる。
(あれから2年……)
 あの時、今のように魔法が使えたのなら……。
 そんな風に考えなかった、と言ったら嘘になる。けれど、過ぎ去ってしまった時間に仮定の考察をしても意味は無い。
 今の自分に出来るのは、これ以上、目の前で誰かがいなくならないように精一杯の努力をするだけ……。
「なんてね」
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)はふ、と息を吐いた。
 隣を歩くエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)はと見れば、そんな唯乃の様子にも気づかず、うつむき加減に歩いている。
 墓参り、となると様々な思いが湧き出てくるものなのだろう。

 箒とちりとり、掃除用のブラシや雑巾も持ってきたのだけれど、墓の周囲は意外と汚れてはいなかった。
「叔父さんが掃除してくれたのかしら?」
 墓の周囲を軽く箒で掃いてしまえば、あとはそれほど掃除する箇所もない。墓石を水で清め、持参した花や水を供えれば、花の彩りが墓を明るく見せてくれた。
 妹の墓の掃除が終わると、すぐ近くにある両親の墓も掃除する。妹と違い、両親は死んだのではなく、失踪宣告によって死亡したものとみなされたものだ。墓はあるけれど、そこにお参りすることは両親が死んだと認めることのような気がして、唯乃はあまり積極的には近づかないようにしていた。けれど、お墓を放置もしておけない。唯乃は複雑な気持ちで掃除を済ませた。
 
 両親が行方不明になって2年、唯乃は家事を引き受けて両親の帰りを待った。
 その2年後、叔父に引き取られてドイツから日本へと移住した。
 そして……日本に来てから6年後の2018年、妹は事故に遭ってこの世を去った。
 墓に刻まれた名前は、四方天理乃。唯乃よりも4つ年下だったから、生きていれば13歳になるはずだけれど、理乃の時間は9歳の時点で止まってしまった……。
 
「まだ信じられないのです」
 封印が解かれた後、しばらく唯乃たちと暮らしていたエラノールは、つるりとした墓石を見上げて呟く。叔父さんの家に行ったら、ひょっこり出て来そうな気がするのに、もう会えないだなんて……。
 生者と死者。一方通行で戻れないその区切り。
 まだ割り切れていない部分もあるけれど、いつまでもくよくよしていたらいけないと、エラノールは自分に言い聞かせた。
 お墓参りにも作法があるというけれど、唯乃にはよく分からない。でもこういうのは気持ちなのだろうと、墓の前で手を合わせた。エラノールもその隣で同じように手を合わせる。
 墓に向かって心の中で語るのは、パラミタであったこと。
 お正月には巫女として、パラミタにある神社でアルバイトをした。夏には浜辺で雪だるま王国の資金の為にアイスクリーム屋さんをしたりもした。唯乃がはじめた下宿屋にも、楽しい下宿人が入ってくれた。
 唯乃とエラノールの周辺では、時は流れ続けている……。
 ここで留まっている理乃と動き続けている自分たちの間を埋めるように、2人は様々なことを墓に報告していった。
 どれだけでも語ることは尽きないけれど。
「また来るからね」
「また、なのです」
 振り切るように立ち上がると、唯乃とエラノールは手を繋ぎ、里帰りを待っているだろう叔父の家へと向かうのだった。