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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

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 三年ぶりの里帰り 
 
 
 空京から新幹線で上野まで、そこから羽田に向かい、空路二時間かけて東條 カガチ(とうじょう・かがち)はやっと地元の空港に降り立った。
 特に帰省したい理由があったわけではない。ただ、友達は皆帰るというし、パートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)エヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)もそれぞれに約束やらやりたいことがあるとかで、それなら自分も久しぶりに地球行ってみるのもいいかも知れない。そんな風に思ってしまっただけだ。
 なのに。
「おおい、こっちだべ」
 連絡も何もしていないのに、空港に降り立ったカガチに手を振るのは父の東條 泰博その人で。
 本当はこの辺りでもぶらぶらしていようかと思っていたのだけれど、折角迎えに来てくれているのに無視するのもまずいだろう。しぶしぶついて行けば、そこには父泰博愛用の軽トラが待っていた。
「なんか今日あたり、帰って来そうな気がしたんだべ」
 あっけらかんと言う父親に、もし帰って来なかったらどうするつもりだったのかと問う気力も失せた。クッションの良くないシートで揺られることしばし。カガチは山の中にある実家に到着した。
 確か妹も実家に帰るような話だったけれど、と聞いてみれば、妹はもうすでに母親と一緒に親戚の家に行ってしまったらしい。となると、家に残っているのはこの父親と祖母、か。
 そんなことを考えつつ車を降りれば、途端に声か飛んでくる。
「何だ帰ってきたんか。そんなら働きな」
 声の主は言わずと知れた祖母の東條 藤子だ。
「お前は出来損ないなんだからぼーっとしてないで草でも刈りな。まったくこの時季は草が伸びていけないよ」
 おかえりも良く帰ってきたねもなく、いきなりカガチに用事を言いつけるとせかせかと忙しそうに去って行く。けれど、そんないつも通りのおっかなさに、カガチは逆に安心した。
 一見普通の民家に見えるカガチの家だけれど、母屋から繋がる形で祈祷所が設けられている。その周りに、短い夏の間に一気に勢力を広げようとでもいうように、雑草が伸び出している。
「鎌はここだべ。始める前に何か飲んでおいた方がいいべや」
 父は草刈りを手伝いはしないものの、道具を持って来たり、茶を運んできたりと忙しくカガチの世話を焼く。
「親父も畑仕事あるんだろ?」
「まあこの時季はなぁ」
「そっちやってきなよ。俺は大丈夫だからさあ」
 カガチに言われ、泰博はそうだなあと一旦は畑に向かいかけたのだけれど。
「あんたは何世話焼いてんだい」
 母屋の角を曲がった途端、泰博はばったり会った藤子に文句を言われる。
「お義母さん、見てたべか?」
「あたしはそんなに暇じゃないよ。……ほら、あれだしてやんな」
「あれ?」
「西瓜だよ西瓜。冷やしてただろう」
 ふんと身を返す藤子を見送ると、泰博は笑みをかみ殺しながら西瓜を冷やしてある井戸へと向かうのだった。
 
 十分に身体を動かした後の食事は美味しい、のだけれど。
「お前もう呑める歳だべ?」
 食事よりも酒が先だと、カガチは泰博の晩酌に付き合わされることになった。
 向こうはどうだと聞いてくる父に、パラミタでの出来事のうちで当たり障りのなさそうなことを話して聞かせながら、注しつ注されつ。
「今度はお前んとこのちっこいのも一緒に来い。色々食わしてやるからよ」
 東條家では忙しい妻や義母に代わって泰博が家事全般を請け負っている。趣味は畑作特技は料理というだけに、食卓に上る食材は新鮮で、味も上々だ。ちみっこ達を連れてきたらきっと喜ぶだろう、と思って、ふとカガチは首を傾げる。パートナーのことを父に話した記憶はないのだが……気のせいだろうか。
 父子であける一升瓶。それが2、3本転がったところで、父親が陥落した。
 やれやれこれでやっとゆっくり食事が、と煮物に箸を伸ばしたところを今度は祖母に呼ばれた。
「そこに座んな」
 正座させられて、何だろうと思っていると藤子は呆れたようにカガチを見た。
「それにしてもあんた随分無茶したね」
 パラミタでドンパチやっていること、ゴーストやら相手に大暴れしたこと、そして大怪我して入院したこと。一言も話していないパラミタでの出来事を1つ1つ指摘しながら、祖母はぽん、ぽん、とカガチの背中を叩いていった。
 そのたび身体が楽になってゆく。
「あれ……?」
「血……腐った血の穢れだよこれは。ほら、少し祓っといた。これでちったあ楽になったろう」
 息が楽に出来る。出来るようになってはじめて、これまで息苦しかったのだと気がついた。
 代々祈祷師なんて怪しげな職業だと思っていたけれど、やはり凄いと感じる。
 幼い頃から才能を見出された妹と、落ちこぼれの自分を比べてやいのやいのと煩い親戚と、そんな自分自身に嫌気がさして家を飛び出して3年。結局1度も連絡をとってなかったけれど、きっとこの人たちには全部筒抜けなのだろう。
 それは不思議で奇怪で。
 でも何故かほっとする。
「ばーちゃんただいま」
 やっと言えた挨拶を呟いて、カガチは実家の空気を深く吸いこんだ。
 
 
「しかしカガチ、よく笑うようなったなあ。小さい頃は笑わない、静かな子だったのに」
 きっと上で良い出会いがあったのだろうと、泰博はしみじみと首を振る。
「……ま、あれはあれで己の『光』を見出し始めたんだろう。『出来損ない』なりの、自分の『光』をさ」
 人には見えぬ何かを見るように、藤子は目をすがめ、わずかに口元を緩める。
    それはカガチの知らぬ処でかわされた、
     手のかかる息子を持った父と、
     気にかかる孫を持った祖母の会話なのだった――。