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地球に帰らせていただきますっ!

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 母への追想 
 
 
 強い日差しにさらされた山道は、白っぽく乾いている。
 その山道を抜けた処に、東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)の母東園寺 楓の眠る寺があった。
 
「やっと帰って来られました」
 目指す母の墓まで来ると、雄軒は深く息をついた。
 雄軒にとって母は自分の中の支えだ。それは母がこの世を去ってからも変わり無い。
 母の墓を前に雄軒は語りかけた。
 
 母さん……。
 私は貴方さえいれば、他に何もいらなかった。
 他の家族など、どうでもいい。それどころか、あんな家族はいなければいい。
 
 雄軒の脳裏に、元気だった頃の母が浮かぶ。
 美しい黒髪と凛とした佇まいが印象的だった母。
 口調は厳しかったけれど、時折優しさを感じさせた。はっきりした性格をしていたが、それは同時に慈母の優しさも含んでいた。
 兄に虐められた雄軒が泣けば、母は叱った。けれどそれは徐々に優しくなってゆき、お前は優しい子だと何度も何度も言ってくれた。それこそが雄軒のよりどころだった。
 
 母さん……。
 出来損ないと言われ続けた私を、貴方は励ましてくれた。1つのことを極めて見返してやれと。
 私が泣いていれば、貴方は清らかで綺麗な黒髪を揺らしながら、いつもは凛々しく美しい顔を少し歪めて叱ってくれた。その後に、その凛とした表情を柔和な笑みへと変えて、優しくその胸で抱きしめてくれた。
 ……私には、貴方だけいればよかったのです。
 どうして貴方は、父親と呼ぶのすらおこがましいあんな男と結婚したのでしょう。
 あんな男に渡すくらいなら……私が奪いたかった。

 けれど、母は雄軒が成長しきる前に、病におかされた。
 母を助けたかったのに、雄軒も家族も何も出来なくて。それがとても歯痒かった。
 どれだけ治したいと思っても、雄軒にはその知識が無かったのだ。
 涙を流して謝る雄軒に、母は困ったような、それでいて優しい笑みを浮かべて言った。
「泣いたり、私がいなくなることを悲しんだりするくらいなら、それよりお前の進むべきことを。知識を得つくして、お前の望む分野を極めたその立派な姿を私に見せておくれ」――と。
 その後、母は逝去してしまったが、雄軒は約束した。
 必ずや、その姿を母に見せると。
 
 母さん……。
 貴方のいない処にいる意味など無い。
 だから私は家族を捨てて、新天地へと行きました。
 ……今はまだ極めていませんが、いつか必ず知識を極めます。そしてその姿を貴方に見てもらいます。
 ……そう。貴方ともう一度出会うつもりです。私は貴方をこの手に抱きしめる。必ず。
 たとえ……。
 どんな禁忌に手を染めても。必ず。
 
 
 微動だにせずに墓を見つめる雄軒を、焼け付く日射しが照らし続けていた――。