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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

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 神社の娘 
 
 
 福井にあるとある神社の鳥居をくぐりながら、熊猫 福(くまねこ・はっぴー)は懐かしく周囲を見渡した。この神社は、大岡 永谷(おおおか・とと)の実家であるというだけでなく、2人が出会った場所でもある。
「何か久しぶりだよね」
「……ああ。年に1度くらいは帰らないわけにもいかないし」
 対して永谷の表情は優れない。家に帰れば両親から言われることは分かっているからだ。
 家に顔を出す前に、まずは本殿へと向かう。
 今まで無事にいられたことへの感謝と、これからもがんばってゆく決意を神様に伝えると、実家の玄関へと向かった。
「ただ今、帰りました」
 声をかけると、家事をしていたらしき母の大岡 舞が手をふきふき出てくる。
「御帰りなさい。2人とも大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
 心配そうに舞が2人に根掘り葉掘り聞いているところに、
「永谷、福、帰ってきたのか」
 玄関での声を聞きつけて出てきたのは、父の大岡 実時
 頭を下げつつも身構える永谷に、案の定実時はこう続けた。
「もう気は済んだだろう。家に戻って、神社を継ぐ準備をしたらどうだ」
 元々実時は永谷がパラミタで過ごすことに基本的には反対だ。パラミタに行きたいという永谷の願いを認め、向こうに行かせてくれてはいるが、事あるごとに家に帰って来いと言うことはやめない。
「それは出来ません」
 尊敬もしている親だけれど、これだけは聞けないと永谷もいつもと同じに答える。
 親に言われた通りに神社を継ぐのが正しいことなのかどうか、自分の中でまだ結論が出ていない今、実家に戻って神社を継ぐことはできない。
 永谷同様、神社を継ぐために巫女修行をしていたことのある舞は、そんな2人を見比べる。母としては永谷が神社を継ぐことを承諾してくれたら嬉しい。けれど、自分もそんな生き方に疑問を持っていた過去があるが故に、永谷の自由意志を尊重したいという気持ちもまた強い。
「あらあらこんな玄関先で立ち話もおかしいわね。疲れたでしょう? お茶を入れるから上がってちょうだい」
 どちらも譲りそうにない様子を見て取って、舞は皆を促した。
 
「あたいもトトのお手伝いをするとは言ったよ? 言ったけど、子供対策とは聞いてないよ」
 実家にいる間は神社を手伝う、という永谷にならって、福も帰省中は手伝うことにしていたのだけれど、福の処に回ってくるのはいつものごとく、子供の相手。
「はい、ごはんですよー」
 親の用事を待つ間の子供と遊んでやるのが福の主な手伝い。とはいえ。
「笹の葉を山盛りにしてもらってもねぇ……」
 もっと普通の食べ物が好きなんだけど、とぼやきつつも子供のままごとの相手をしてやる。力加減もないし遠慮もないから、子供に付き合うのはとても体力が必要だけれど、嬉しそうに笑う様子を見れば、まあ仕方ないかと許せる気にもなる。
「ああダメダメ、そんなとこに泥をこすりつけたら、あたい、パンダじゃなくて黒熊になっちゃうよ」
 どこにでもいる悪ガキに苦戦しつつも、福は相手をしてやっていた。
 永谷はどうしているかと見やれば、巫女服を身に纏った永谷は普段教導団にいる時とは違い、丁寧な口調と態度で完璧な巫女として神社の手伝いや修行に勤しんでいる。
 娘の無事を祈ることも兼ねて、母の舞も永谷と共に巫女の修行をしようと、時間を作ってくれていた。そうして巫女の仕事をしていると、実家にいた頃のあの時間に戻って来たようだ。
「あら? その巫女服、随分傷んできているみたいだけど」
 パラミタに発つ時に新品を持たせたはずなのに、といぶかる舞に永谷は答える。
「向こうでも使っていましたから。そろそろ新しい巫女服が欲しいですね」
 遠い地にいても神社への思いは大きいことを窺わせる永谷の答えに舞は嬉しそうに肯いた。
「すぐに持ってくるからちょっと待っていてね」
 そんな永谷の様子に、実時はやはり諦め切れないのだろう。仕事をする永谷に寄って行っては、気は変わらないのかと何度も話を蒸し返す。
 それに対してはやはり拒否しか返せないのだか、実時はパラミタ自身にも興味があるらしく、あれやこれやと向こうの様子を尋ねてくる。こちらには永谷も積極的に話をすることが出来た。
「自分なりに頑張れているとは思います。一応、少尉に任官しましたし」
 そう報告できることは、恥ずかしいけれど誇らしい。
「おお、それは凄いな」
 娘の任官に目を細めるあたりは、やはり父親というところか。
 そうしてパラミタでの話をしているうちは、親娘の会話は穏やかなのだけれど。
 どうしても父親の頭から離れないのはこの神社のこと。ふとした拍子にまた話はそこに戻ってしまう。
「パラミタで充実した日を過ごしているのは分かる。だが、地球でもすべきことがあるのではないか?」
 代々続いてきたこの神社。永谷と同じく一人娘としてうまれた母も、偶然とはいえ神社出身の実時を入り婿に取り、神社を存続させてきた。神社の一人娘として生まれたからには、それも運命だと思って受け入れる必要があるのではないか、という実時に、それならば、と永谷は反論する。
「そんなに後継ぎが欲しいなら、私じゃなくて2人目を産み育てればいいのではないですか? 父上も母上も、まだまだお若いのですよ」
 出来ちゃった婚で永谷を産んだ母は今もまだ35歳。父はそれよりも1つ年上の36歳。まだまだ次の子供を望むことは十分に可能だ。永谷としても、弟や妹が出来れば嬉しい。これだけ歳が離れた弟妹が出来れば、さぞ可愛いだろう。
「2人目、か……」
 否定するかと思いきや、実時は満更でもないようでふむと考え込んだ。これはもしかしたら……と永谷は父親の表情に期待をかける。
 もしそうだとしても、その子が神社を継ぐことを望んでくれるか、それとも永谷と同じく言われるままに神社を継ぐことに疑問を覚えるのか、は分からないけれど。
 そこに舞が真新しい巫女服を持って戻って来る。
「はい。もしかしたら必要かと思って、準備しておいて良かったわ。……あら? どうかした?」
 つい、舞の顔を眺めてしまっていた父娘は同時に、何でもないと首を振り、それぞれの仕事に戻ったのだった。