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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

リアクション

 
 
メイドコンテスト開催
 
 
 蒼空学園の校庭の一角に、急ごしらえのメイドコンテスト会場が作られていた。
 体育祭用の大型テントがいくつも並べられ、そのうちのいくつかは垂れ幕で仕切られてスタッフの機材置き場や更衣室にあてられていた。並べられた長机のそばにはキッチンセットがおかれ、テントの端にはなぜか竹箒やハタキや皿などが大量におかれている。
「参加する方たちは、こちらで登録を済ませてくださあい」
 またもやバイトで駆り出された大谷文美が、わいわいと集まった生徒たちにむかって声を張りあげていた。
「さてと、準備はいいでしょうか」
「ばっちりです」
 ジェイドに聞かれて、アクアマリンが自信たっぷりに答えた。
「やれやれ、まったく面倒なことだ」
 ぼさぼさの髪にうっすらと髭のあるいかにも夜勤明けという感じを装ったオプシディアンがぼやいた。髪は黒く染めて、それまでの彼とはあまりにも印象を変えている。ジェイドも黒髪をオールバックにして銀縁メガネなどをかけていた。アクアマリンなどは、あからさまにカツラと分かる綿飴ヘアーだ。
 三人とも、いかにも何かの研究員といった白衣姿だった。
 彼らの後ろには、赤青黄の髪の色をしてヨーロピアンスタイルのメイド服を着たロボットが静かに並んでいた。
 ロボットといっても、人工皮膚で綺麗に覆われ、その顔立ちはほとんど人間と同じだ。ただ、髪の毛や瞳は人工物の冷たさを残して、あくまでも道具であることを強調している。そのため、ドールと呼ぶのがふさわしい雰囲気であった。機晶姫のような感情は持ち合わせてはおらず、あくまでも機械ということで、あえて操作はコントローラーによるコマンド入力式となっている。
「心がありませんね……」
「えっ」
 ふいにそんな声がして、アクアマリンが、驚いてキョロキョロと周囲を見回した。
「そのメイドロボには、心が欠けています。メイドには、そもそも心が重要なのです!」
 洒落たメイド服に身をつつんだ高務 野々(たかつかさ・のの)が、そう力説しながら姿を現した。
「そうはおっしゃいますが、我々のメイドロボットは的確な操作によって充分な働きをするように作られているのですよ」
 丁寧な口調でジェイドが言った。
「確かに、操作は開発したあなた方がするのですから間違いはないでしょう。ですが、最大の問題があります。それはあなた方がメイドではないということです」
「はあ?」
 力説されて、オプシディアンがジェイドと顔を見合わせた。
「つまりどうしたいと……」
「私がアドバイスいたしましょう。ヴァイシャリーの赤いメイド高務野々が、ロボットに心を吹き込んでさしあげます」
 高務野々が、自信満々でささやかな胸を張った。
「それはそれは。では、お願いいたしましょうか」
「おいおい、何を言ってる。もろに、操作の邪魔じゃないか」
 安請け合いをするジェイドを、オプシディアンが引き止めた。
「いいじゃないですか。では、副手くん、説明をしてあげてください」
「僕ですか!?」
 アクアマリンが自分を指さすと、その通りだというふうにジェイドが微笑んだ。
「しかたないですね。では、説明しますので。まず基本的にオートバランサーによって転倒するようなことはありませんが、移動は相対座標入力によるファジー反応によって決定されます。それに対しては音声コマンドを中心として登録コマンドに対応した行動パターンをカオス理論によってその都度構築し、ロジックを照らし合わせて作動するアポジモーターの選択とパワーの設定をします。対象物は高速度画像解析装置によって認識しますので、それに対する対応を登録パターンから選択し、コマンドとして構築して命令すれば、記憶槽から最適の……」
「ちょっ、ちょっと待ってええええ……」
 アクアマリンの説明にクルクルと目を回しながら高務野々がぺたんと地面にしゃがみ込んだ。
「ええと、よく分からなければメモをとりますか? 数学ノートなどに書き込めば……」
「うあああああぁぁぁ……」
 さりげないアクアマリンの一言に、高務野々のトラウマスイッチが入った。脱兎のように逃げ去っていく。
「おい、単純に命令すれば動くんじゃなかったのか?」
 なんでそんなに複雑になると、オプシディアンがアクアマリンに訊ねた。
「ええ。今の説明を一言で表すと、『歩け』と言えば歩きますよと言うことです」
 アクアマリンの返事に、もともとでたらめの説明だったんだろうがとオプシディアンが呆れた。
「今のはなんだったにゃ?」
 走り去る高務野々にあわや蹴り殺されそうになったシス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)が、冷や汗を拭うように顔を洗った。
「そこのメイドの下僕たち、俺様の提案があるにゃ」
 ぴょんとオプシディアンたちの前に躍り出て、猫の姿のシス・ブラッドフィールドが言った。
「今度はなんですか?」
「競技の追加にゃ。題して、『猫さんだっこしてまあかわいいスリスリ競技』にゃあ」
「ええと……」
 困ったように、ジェイドがオプシディアンたちと顔を見合わす。
「メイドに求められるのは慈愛の心にゃ。猫を優しくだっこしてあげられるのも重要な技術にゃ。もちろん、だっこする猫には、俺様のこの身体を提供してやるにゃあ!」
 自慢げに両手を広げながら、後ろ足で立ちあがってシス・ブラッドフィールドが言った。
「どうする。潰すか?」
 メイドロボコントローラーを持ったオプシディアンが、冷ややかな目でシス・ブラッドフィールドを見下ろした。
「まあまあ。後で何かお頼みするかもしれませんから、待機していてくださいな」
「分かったにゃ」
 説得に成功したと信じ込んだシス・ブラッドフィールドは、嬉々としてテント内の椅子の上にちょこんと乗った。
「まったく、お前はどうしてそういいかげんなんだ。俺が段取りをすれば、もっと巧妙に、丁寧に……」
「いいじゃないですか。面白そうですし。ちゃんと遊んであげましょうよ」
 頭をかかえるオプシディアンに、ジェイドは残酷な無邪気さで答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「それで、審査員を希望なされる方は、あなた方ですね」
「うむ。よろしく頼む」
 大谷文美にあらためて聞かれて、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)はうなずいた。
 本当はコンテストに参加しようとメイドとしての準備をしてきたのだが、なんの競技に参加するか決めてこなかったため、エントリーにもれてしまったのである。ならばということで、審査員に立候補したのであった。
「メイドの奥義、わらわが若輩たちに指導してくれよう」
「料理なら私に任せて。食べて食べて、食べ尽くしてあげるんだもん」
 なんだか、切羽詰まった感じで、琳 鳳明(りん・ほうめい)がお料理勝負の審査員を申し出た。
「ふっ、ただで御飯が食べられるチャンスよね。逃すはずがないんだもん……」
 陰に隠れて、琳鳳明はそうつぶやいた。
 一食浮く、しかも、コンテストに出てくるような美味しい(だろう)料理で。考えただけで、思わずじゅるりとよだれがあふれ出てきてしまうではないか。
「では、我は薔薇の学舎で培ったこのすばらしい美的センスを駆使して、メイドたちの作りだす美を吟味してさしあげよう。ちなみに、じゃわはマスコットを担当したい」
「にょー。マスコットなのです」
 ふにっとしたあい じゃわ(あい・じゃわ)をだっこした藍澤 黎(あいざわ・れい)が、任せたまえといった態度で言った。
「よかったですぅ。このまま私が審査員までやるのかと困ってましたあ。では、競技が始まりましたらお呼びしますので、待っていてくださいね」
 あっさり全員を審査員と認めて、大谷文美が言った。実際、司会として雇われたはずなのに、他に誰もいないので困り果てていたのだ。本来の審査員であるはずの山葉 涼司(やまは・りょうじ)が小ババ様騒動で急遽不参加となったこともある。売り込む相手が見ていなければあまり意味がないと思えるのだが、メイドロボットの開発者たちは蒼空学園の学生たちが見てくれれば充分だと、そのへんはあまり重要だと考えてはいないようであった。