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パラ実占領計画 第1回/全4回

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パラ実占領計画 第1回/全4回

リアクション



狩る者と狩る者


 現在、キマク各地で起こっているハスターによる四天王狩り。
 全日本の不良をシメたヘッドの蓮田レンが選んだ精鋭だけあり、パラ実生達は劣勢に追い込まれていた。
 ハスターが探しているのは、四天王の称号を持つ者。
 彼らの居場所を告げれば見逃してくれるようだが、パラ実生にもパラ実生の誇りがある。そう簡単に口を割ることはなかった。
 そして、また一人、兄貴と慕うリーダーのために舎弟が地に伏した。

 そこからだいぶ離れたところで、鉄パイプや角材、ナイフなどを手にしたハスターの一味に囲まれているドラゴニュートがいた。白く立派な髭からけっこうな年齢と見えるが、その瞳は覇気に満ちている。
「てめえ、本当に四天王だろうな? さっきそう言って騙してくれた奴がいたからな」
「試してみるか?」
 ランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)の挑発的な言い方に、襲撃者達はニヤリとして乗った。
「死ねオラァ!」
 ランゴバルトに一番近いところにいた男が角材を振り上げる。
 かなりの勢いで振り回されたそれに、ランゴバルトの横っ面が張り倒されるかと思われた時、ふわりと彼の体が宙に浮いた。
 空を切った角材の男は、勢い余ってつんのめる。
「ホッホッ、怖いのぅ。のう、ナコト殿」
「ええ、本当に……」
 突如、上から降ってきた女の声に、ハスターは驚きの声を発しながら上空を見上げた。
「いつの間に……!」
「ずっとここにいましたわ」
「下りて来い! 卑怯だぞ!」
 声をそろえて卑怯者呼ばわりするハスターに、ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)はわずかに不愉快そうにすると、仕方なさそうにゆっくり下りてくる。
 彼女が地に足を着くなり、ハスターの凶器が襲い掛かる。
「俺らをコケにしたら、女とて容赦はしねェぜ!」
「それがワルってもんよ! ギャハハハハハ!」
 ナコトは今度ははっきりと嫌悪を表すと、彼らに向けてサンダーブラストを放った。
 ピギャッ、とか何とか変な悲鳴をあげて、範囲内にいたため感電したハスター数人が倒れたが、ナコトもランゴバルトも妙な違和感を覚えた。
「やるじゃねェか。そう来なくっちゃな」
 魔法の範囲外にいた男が、ナイフの刃に舌を這わせながら楽しげに目を細める。
「血祭りにあげろォ!」
 彼の号令で地上のナコトは囲む四方から、浮いているランゴバルトにはボウガンらしき矢が放たれた。
 とっさに風の鎧で矢の軌道をそらすも、何本かはランゴバルトをかすめ、さらに何本かはその体に突き立った。
 包囲されたナコトには、先に肉迫したハスターを炎の聖霊が壁となって不運な彼らを炎に包んだが、すぐに後続が迫っていた。
 それらの攻撃を魔道銃で凌ぐナコトだが、さすがに背後までは手が回らず。
 来るであろう背の痛みを覚悟した時、フッと包囲が緩んだ。
 聞こえてくる殴られるような鈍い音の連続。
 それから、目の前のハスターの後ろで七枝刀から発する真空の刃で、次々と彼らから血飛沫をあげさせている……。
「マイロード……」
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)がいた。
 アルコリアは困った子を見るようにナコトに小さく微笑む。
「ナコちゃん、競技じゃないのよ。これは狩りなの。でも、倒すのは私よ。そうしないとカウントに入らないから」
「狩り……わたくしが倒しては、カウントにならない……」
 アルコリア達には通じている話もハスターにはわからない。
 そのことに彼らは苛立った。
 罵声を吐きかけた彼らに、ナコトの背を助けたシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が人の手には余る大きさのひしゃげた機関銃を地に突き立てて静かに割り込む。
「ボクが四天王だが……何か用なのか?」
 シーマは機関銃としては役に立たないそれを、直接攻撃用の武器にしてハスターを薙ぎ倒したのだ。
 その様子に低く笑いながら、空から降りてくるランゴバルト。
「シーマ殿。今日も元気じゃのぅ」
「ランゴバルトは手当てをしたほうがいいのではないか? それにしても……気に食わん連中だ。騎士道精神のカケラも感じられない……」
「シーマ殿、彼らはおそらく契約者じゃ」
 なるほど、と納得したように頷くシーマ。
 ただの不良にしては頑丈だと思っていたのだ。
 もう、立ち上がっている者もいるのだから。
 ランゴバルトは、ふとまだ若いハスターに知の道を説いてみようと思った。
「ヌシら、本を読んでみてはどうじゃ? よかったら一冊貸してしんぜよう。学ぶのは、いつからでも遅くないぞい」
「四天王か……あいつを狙え! ついでにジジイも本と一緒に古紙回収にでも出すかァ?」
 ハスターの一人の声に、馬鹿笑いが巻き起こる。
 大切に思っている本を侮辱されたランゴバルトの目に、剣呑な光が宿る。
「本も理解できねぇ蛆虫共が……!」
 どうやら踏んではいけない箇所を踏んでしまったようだ。
 そんなことはおかまいなしに、ナコトとアルコリアを無視し、ハスターはE級四天王のシーマと、自分達を騙そうとしたランゴバルトに的を絞った。
 片方は怪我をしているからすぐに片付くと思ったのだろう。
 しかし、それはアルコリア達には好都合だった。
 二人を警戒するわずかなハスターをナコトは高濃度のアシッドミストで包み込み、強い酸に喉を焼かれて咳き込む彼らに、アルコリアは容赦なく七枝刀から生み出した真空刃で切り裂いた。それでも倒れない者には奪銃のカーマインのトリガーを引く。
 そして、怒りのままに放ったランゴバルトの光魔法が、ハスターの上に降り注いだ。
 膝を着き、あえぐ彼らの一人がアルコリアを見上げて震える声で言った。
「……何者なんだ……」
 アルコリアは血まみれの彼を見下ろし、赤い瞳に酷薄な色を浮かべて妖しく微笑む。
「私が何者かですって……?」
 くすくす笑う彼女の、じょじょに変貌していく様に意識のあるハスターの目が恐怖に見開かれていく。
 頭部に生える二本の黒い山羊の角。禍々しい赤い影と骨のみからの羽。気まぐれに揺れる長い黒猫の尾。
 闇を、纏っていた。
「人間ですよ、ただの……」
 狂ったように笑うその姿に、彼らは完全に戦意を失った。


 元パラ実生としては、キマクを暴力で支配しようとしているという話は聞き捨てならなかった。
「やられる前にやれってな」
 今は空京大学に籍を置いているラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、倒されかけていた四天王らしき男を助けるために、喧嘩の真っ只中に飛び込んだ。
 彼の周りには、舎弟達が倒れていた。
 四天王にとどめを刺そうとしていたハスターの鉄パイプを受け止めたラルクは、銜え煙草でニッと笑う。
「おうおう、こんな乱暴はいけねェな。そんなんじゃ疲れちまうぜ」
「何だてめぇは!?」
「通りすがりの四天王だ」
「四天王だと? ハハハハ! わざわざやって来たのか!」
「探す手間がはぶけたぜ! しかもとんだ間抜けだ!」
 馬鹿にするような笑い声にもラルクは怒りの色ひとつ見せない。
「こんなことして、新生徒会も黙っちゃいないだろうな」
「なーにが生徒会だ! そんなもん捻り潰してやるぜ。その前に、てめぇだけどな!」
 ラルクに握られた鉄パイプを無理矢理抜き取り、彼はそれを真っ直ぐ突き出してきた。鉄パイプの先端は尖っている。串刺しにするつもりなのだ。
 ラルクはブライトフィストと怪力の籠手で立ち向かう。
 ドラゴンアーツで強化した筋力で鉄パイプを跳ね上げ、がらあきになった胴へ拳を叩き込む。
 呻きながら崩れる相手に、しかしラルクは訝しげに眉を寄せた。
 彼がここにいるハスターが契約者達であることを知るのは、もう数人と戦った後になる。
「なるほどな……。ま、やるならそれくらいじゃねぇと張り合いねぇよな」
「いつまで笑ってられるかねぇ」
 十数人に囲まれたラルクだったが、何も心配事はないというふうに好戦的な笑顔を見せた。
「後であいつと会うのが楽しみになったぜ……!」
 あいつというのはアルコリアのことだ。
 四天王狩りをする輩をどれだけ逆に狩ってみせたか、競争しているのだ。
 ラルクが勝ったならプロテインを買ってもらい、アルコリアが勝ったら桐生円の写真をあげることになっている。
 鳳凰の拳による強烈な二連打と、武道家として鍛えてきた格闘技の全てで戦うラルクの姿に、助けられた四天王は鬼を見たような心地になった。
 殴り合うごとに楽しそうに笑み、攻撃力を増していく。
 大学生になってから喧嘩をすることなどめっきり減っていたラルクだったが、久しぶりの大暴れに昔の血を思い出したのかもしれない。
 重い膝蹴りをお見舞いするその脇腹をナイフに切り裂かれても、ラルクの勢いは止まることはなかった。
「どうした? こんな程度じゃ俺は潰せねぇぜ。本気でかかってこいよ」
「なめんじゃねェぞ、クソ野郎が!」
 いきり立つハスターに、ラルクの口の端がニヤリとつり上がった。

卍卍卍


 あそこで何とかという四天王が潰された、向こうで何某という四天王が倒された、という噂がキマクのあちこちから不動 煙(ふどう・けむい)ヒロ・ブレードハイン(ひろ・ぶれーどはいん)の耳に届いていた。
「いったいどのくらいのチーマーがうろついてるんだろうね?」
「……戦いを挑むのか?」
「そうだね。四天王狩りを逆に狩ってやろうか!」
 斜め後ろをついてくるドレッドヘアーのパートナーを振り向き、楽しそうに笑う煙。
「それには賛成だが……」
「う〜ん、煙は四天王ではないし……」
 エサになるものがない、と腕組みして唸る煙。
 ヒロも難しい顔をして考え込んでいたが、ふ、と肩の力を抜いて開き直った。
「ここで考えてても仕方ないであろう。四天王を探すとしようではないか」
「……それもそうだね。んじゃあ、探そうか〜」
 そんなわけで勘を頼りに歩き出した二人。
 真っ青な顔で馬車を走らせてくる行商人に出会ったのは、それから十数分後のことだった。
 小太りの中年男性が話した現場へ駆け付けてみると、虫の息で転がっているパラ実生達と意地と根性だけで立っているような数人のパラ実生が、まだまだ軽傷で元気そうな何者かと対峙している様子が目に飛び込んできた。
「ヒロ!」
 煙の呼びかけに、ヒロはトマホークの柄に手をかける。その体躯はみるみる大きくなり、四メートル半強ほどの背丈となった。さらに二本の角も生えている。
「何だあいつら!?」
 と、驚くハスターにヒロは爆炎波を浴びせた。
 煙もまた鬼神力を発揮し、闇術を放つ。
 一瞬の闇に包まれたハスターの一人は、外傷は何もないのに顔面蒼白となって膝を着いた。
「おい、どうした!」
「うぅ……気持ち悪……っ」
「てめぇら何しやがったァ!?」
 木刀を向けてくる彼に、六本の角を持つ巨体となった煙が冷たく笑う。
「そっちこそ、何しちゃってんだか」
 鬼神力は隙ができやすいという弱点を持ちながらも、煙とヒロはうまく連携を取ってお互いのダメージを最小限に抑えた。
 煙の魔法で目晦ましなどを仕掛け、ヒロの怪力で一気に薙ぎ払う。
 突然の乱入による相手側の動揺もあったのだろう、終わった頃にはさほど大きな怪我は負っていなかった。
 助けられた四天王グループは、あんたら強いな、と感心した後、倒された仲間達に声をかけていった。
 元の姿に戻った煙は、四天王らしき男にみんなで手を組んでチーマーと対決しよう、と提案する。
「みんなで……手を組むだと?」
「そう。そのほうが効率いいでしょ」
 自分のことは自分でやる。我が道を行く。が、基本形のパラ実生達にはとっさには思いつかない発想だった。
 しかし、彼らとて馬鹿ではない。一時的にでもまとまって共通の敵を排除することの利点くらいはわかる。
「よし、そうしよう。そうと決まればお前ら、最近できた妙な宗教のことを知ってるか?」
 煙とヒロが顔を見合わせているのを見た四天王の彼は、二人を座らせるとその宗教について話して聞かせた。
 邪癌教というらしいその宗教は、ジャガンナートとかいう破壊神を崇めているそうだが、今のところその標的はハスターだという。
「得体の知れねぇ奴らだがな」
「ふうん。ま、どこにいるのかわからない他の四天王を探して彷徨うよりは見つけやすそうだね」
 行こう、と煙は立ち上がった。

 ハスターの勢いに押されかけていたパラ実生達だが、突如現れた邪癌教なる集団により一部では勢いを盛り返しつつあった。
 というのも、音にして読んだ場合、ハスターよりも強そうだからという実に単純な理由からなのだが。
 そして、その邪癌教を興した伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)は、鬼神力で羊のような一対の角を持った巨体でハスターと戦っていた。
 時折、舎弟達に的確な指示を飛ばす。
 その狙いは、捕まえること。
 捕まえて聞きたいことがあるからだ。
 しかし四天王に自ら挑んでいくだけあり、そう簡単に捕まえられなかった。
 膠着状態に陥りかけた時、遠くから接近してくる者達がいた。
 噂を頼りに邪癌教を探し出した煙とヒロ達だ。
 二人にこの存在を教えた四天王が鬼神力を発揮している藤乃に指差し、あれが邪癌教の教祖だと叫ぶ。
「加勢する!」
 四天王は藤乃に言うと、対峙しているハスターへ突っ込んでいった。
 思わぬ加勢に藤乃は勇気付けられ、すぐにハスター確保の算段をつける。
 逆に倍の人数になったパラ実勢に、このグループのリーダーはいったん引いて態勢の立て直しを考えた。
 じょじょに後退していくハスターを逃がすまいと、一人でもいいから捕まえようと藤乃は狙いを定める。
「おとなしくすれば無駄な暴力はふるいませんよ」
「ケッ、誰が! お前ら! バラバラに逃げろ!」
 リーダーの声にハスターはワッとそれぞれの方向に散っていった。
「あの人は無理か……そこの人を!」
 藤乃は最も怪我の多い一人を指差す。
 舎弟達が一斉に包囲に動いた。
 彼はうつ伏せに転ばされ、あっという間に後ろ手に縛られてしまった。
 鬼神力を解いた藤乃は幻槍モノケロスを捕まえた男の首すれすれに突き立てると、ドスンとその背に腰掛けた。下からグエッと悲鳴が上がるが、綺麗に無視して質問を浴びせる。
「さて、蓮田レンについて聞きましょうか。彼は何者なのです?」
 煙とヒロも興味深そうにじっと男の答えを待った。
 男は沈黙したが、それは藤乃の予想内だ。
 彼女は槍を少し傾ける。
 男の首筋に刃が押し付けられ、うっすらと血がにじんだ。
 彼が息を飲む気配が伝わる。
「早く答えないと首が切れますよ」
「……あっ、あの方は!」
 不自由な体でもがき、男は早口に言う。動いたせいでかえって刃が食い込んだ。
「池袋ウエストゲートから召喚された邪神なんだ! 俺らよりも強い黒い配下を連れてきている。そいつらは、蓮田のことを『坊ちゃん』と呼んでた! こ、これだけだ! 俺はあの方のことはほとんど知らねぇんだ!」
 嘘を言っているようには見えなかった。
 もう少し詳しいことは逃がしてしまったリーダーなら知っているかもしれない。
「まだそんなに遠くに行ってないはず。探そう。一緒に行くよ。途中で襲われてる四天王がいたら助けて手を組もう」
 煙の提案に頷いた藤乃は、下敷きにしている男に声をかけた。
「あなた、邪癌教に入りませんか?」
「ケッ、誰が入るかグハァ!」
 男を殴って気絶させた藤乃は、残念ですねぇと呟きながら、舎弟達に彼を近くの木に縛り付けておくように言った。運が良ければ仲間に発見されるだろう。
 邪癌教は煙達と共にハスター連中と戦い、勝利するたびに信者は増えるが、忘れてはいけないのは集まったのはあくまでパラ実生という点だ。今は邪癌教信者でも、明日には別のものになびいているかもしれない。