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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

リアクション


(・制御室)


 一方、天学柱学院の生徒達は先遣隊員とともに、制御室へ向かって疾走していた。
(彩華、そっちはどう?)
 天貴 彩華(あまむち・あやか)と精神感応で連絡を取り合う彩羽。
(後ろから一人来てるですぅ〜)
 彼女達にも黒の追手が迫っている。
(敵は接近戦に持ち込んでくるはずよ。距離が詰まったところに即天去私を撃ち込んでやりなさい!)
 彩華より後方から、彩羽は魔道銃を構えている。姉と違ってダークビジョンはないため、狙いは慎重につけなければならない。
 敵は驚異的な速さで彩華に斬りかかってきた。
「行くですぅ〜」
 そのナイフ捌きを得意の体術で避けながら、即天去私を繰り出そうとする。
 だが、敵はそれをかわし、跳躍した。
(彩華!)
 精神感応で彩華に指示を出しながら、跳んだ敵に向かって彩羽が引鉄を引いた。
「偏向!?」
 魔道銃から発せられた魔力を、受け流した。おそらくフォースフィールドのようなものだろう。しかし、それは陽動に過ぎなかった。
 彩華のアウタナの戦輪が、敵の背後からその首をはね飛ばした。そのまま暗闇へと消え去っていく。
 首は彩羽が精神感応で送った指示とは、魔道銃で敵の気をこちらに向けた瞬間に、戦輪をサイコキネシスで操作して攻撃せよ、というものだった。
 敵が超能力者だということで警戒しての行動だったが、これが功を奏した。
(彩華、この調子でいくわよ!)
 まだ敵は潜んでいる。制御室に誰かが着いても、まだ見えざる者達を追い出さない限りは安心出来ないのだ。

 彼女達同様に、勇もまた黒い装甲服と戦っていた。
(あのときの襲撃者と同じです……っ!)
 校長護送のとき、彼は一度目の前の敵と同じような相手を退けている。この空間に入ってからは空飛ぶ箒で移動しているが、敵の跳躍力は彼の高さに迫るものだった。
 タンカーのときよりも、相手の能力は向上しているようだ。おまけに、不可視の迷彩までも手に入れている。
(僕と同じようにダークビジョンを使っているとしたら……)
 迷いのない動きから、敵にはこちらがはっきりと見えていると予想。ならばそれを逆手にとることにする。
 ――光術。
 最大明度で発すれば、暗視モードになっている敵にとっては致命的だ。
 その間に、氷術を発動。動きを封じ、敵の武器を奪おうとするが、
(フォースフィールド!?)
 氷術が防がれてしまう。それでも、隙を生んだことに変わらない。
 突然、敵が石化し始める。何が起こったのか。
「隙あり、よ」
 雪香が隠れ身で移動し、黒の兵士の注意が勇に向いたのを機に、背後から斬りかかったのだ。
 しかもさざれ石の短刀。その効果が上手く発動し、敵を石化させるに至ったのだ。
「大丈夫?」
「ええ、ありがとうございますっ」
 どうにか二人も敵を倒すことが出来た。今のうちに、進むのがよさそうだ。
「敵の気配は……ありませんね」
 相手も自分達と同じように超能力者で、しかも精神感応持ち。近くにいればすぐに気付くが、逆に敵にも察知されてしまうのが難点だ。
「制御室を探すなら今のうちね……行きましょっ!」
 精神感応で、自分達と同じ超能力部隊の気配を追っていく。同じ天学生ならば気付けるように、学校で訓練を受けている。強化人間をパートナーとして持つ者には、これが必須なのだ。
 二人の感覚では、敵の戦い方はプロのものに感じた。鏖殺寺院と聞くと、もっと泥臭い戦い方をするイメージがあるが、そうではない。
 いや、そもそも校長護送のときからそうだが、彼らは自分達で「鏖殺寺院だ」と名乗っていたであろうか。
 現に、鏖殺寺院を名乗る組織がシュメッターリングとシュバルツ・フリーゲを所持しているのは学院の者が知ることになっている。だが、荒削りな戦い方をするところから、それこそ軍隊のように統率がとれたところまで、様々だ。
 今、自分達が敵としているもの。それは、ひょっとしたら単純に「鏖殺寺院」として片付けていい相手ではないのかもしれない。
 だからこそ、再合流するために先を急いでいった。

「格納庫、それに工場もある。なら、制御室もこの近くにあるはず」
 朝斗達は内部状況を確認しながら、制御室を探している。いくつか閉まっている扉があり、格納庫に入ったときのように操作出来るかと思ったが、こちらはダメだった。電源供給がなされている扉の方が少ないらしい。
 だからといって、破壊工作を行うのは防衛システムを起動させないとも限らない。とれるルートをとるしか術はないのである。
「敵だ!」
 ダークビジョンのおかげで、自分達に迫る敵の姿に気付いた。
「目標確認。排除します」
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が、朝斗の確認した黒い装甲服に向かって、遠当てを行う。
 だが敵の回避速度は高く、その程度の攻撃はものともしない。
「これなら、どうですか?」 
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が奈落の鉄鎖で敵の動きを抑えようとする。動きが鈍ったところで、氷術での足止めを図る。
 フォースフィールドによってそれは防がれるが、もう一つの重力干渉からはそう簡単に脱することが出来ない。
 その敵に向かって、朝斗がチェインスマイトを繰り出す。厳密には、彼に装着されているウィーダーが。
 辛うじて、敵はナイフでその攻撃を受け止める。そこへ、アイビスが爆炎波を繰り出し、後方へと吹き飛ばす。
 黒の兵士は空中で身体をひねり、着地しようとする。
 しかし、敵一人に対し、こちらは三人――正確には四人がかりだ。倒せないものでもない。
 着地の瞬間を狙い、ルシェンがまたも奈落の鉄鎖を繰り出す。バランスを失った敵は、態勢を崩し、そこにアイビスの遠当てが直撃する。
「排除します」
 そのまま接近し、壁に勢いよく敵を叩きつける。至近距離からの打撃を加え続け、敵は次第に動かなくなっていく。
「アイビス、もう十分だよ!」
 朝斗が過剰に攻撃し続けるアイビスを制止する。
「まだ完全に沈黙していません」
「それ以上やったら、死んじゃうよ」
 もう敵は両腕、両足を折られ、身動きが取れない。それに、自分達のすべき第一優先は、あくまでも制御室の確保で、敵の戦闘能力を奪いさえすれば、無理に殺す必要はないのだ。
「私は排除すべきものを排除するまでです」
 朝斗が何を言おうと、アイビスには理解が出来ないようだ。それは彼女が感情を持ち合わせていないからであろう。
「とにかくもういいから、行こう」
 半ば無理矢理アイビスを止める。
 だが、今回に限ってはちゃんととどめを刺しておかなければならなかったのだ。
「――!?」
 敵は這いつくばりながら、折れた腕でアイビスの身体を掴み――自爆した。
「アイビス!」
 反射的に遠く当てで衝撃と爆風を緩和しようとする。しかし、片脚を大破させられてしまった。
「まさか……」
 朝斗は敵の行動に衝撃を受けた。同時に、完全に沈黙させたのを確認していればこんなことにはならなかった、と思う。
 自分とアイビス、どちらが正しいかは分からない。いや、おそらく正解はないのだろうが、それでも朝斗にとっては、戦いの現実を突きつけられる出来事となったのは間違いない。

* * *


「こっちだ」
 トレジャーセンスを用いて、樹月 刀真(きづき・とうま)は制御室を目指していた。
「刀真。これ、最新の内部地図」
 銃型HCを操作し、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が最新のマップデータを刀真の籠手型HCに転送する。
 内部のマップデータは、他の先遣隊からも海京情報支部のロザリンドの元に送られ、リアルタイムに更新されていく。
「近くにいるな」
 殺気看破で敵の存在を察知する。
 光精の指輪の人工精霊を先行させ、囮と光源にして進み行く。敵は壁を縦横無尽に駆け回ることが出来ると報告がある。
 そして、その通りに光の前に突如として降りて、刀真達の行く手を阻む。
 だが、敵は目に見えるだけではない。
「邪魔するな、殺すぞ」
 静かに呟き、光条兵器「黒の剣」を構えたまま突き進んでいく。
 敵はおそらく全員がダークビジョン持ち、これも無線で伝わってきている。ならば、突如その効果が切れたら?
 光に映し出された影に向かって神子の波動を放ち、視界を奪う。その上で、光条兵器で斬り伏せ、突破した。
「集中。狙い……撃つ!」
 マシンピストルを構え、月夜が敵を狙う。刀真の視線を見、その方角に敵がいると判断し、スナイプによって確実に倒そうとする。
 暗闇である以上、目視による射撃を行うのは難しく、気配に頼るしかない。見えない兵士は銃弾を食らうと、吹きさらしの中に消えていった。
「キリがないな」
 敵の気配は未だに消えない。このままだと制御室までむざむざ案内することになる。
「敵は……少なくとも四人。ここは任せて」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がブライトマシンガンを構え、敵に向かって銃撃を行う。ダークビジョンと殺気看破で、不可視の迷彩を起動している相手にも対処しようとする。
「美羽さん、まだ他にもいます!」
 美羽が察知している敵だけで全てではない。ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)のディテクトエビルで、他にもいることが分かる。
 敵の迷彩装置は脆いということは連絡が入ってきている。壁を跳躍してきているだろう、敵に向かって、ベアトリーチェがファイアストームを放つ。
「早く、制御室を!」
 迷彩が解かれ、敵の姿が露とあった。
 その数は六。どうやら、制御室の近くに来るまで攻撃に出ず、ここで一気に仕掛けてきたようだ。
「いくよ!」
 ブライトマシンガンによるフルオート連射で、装甲服の兵を撃っていく。敵のナイフでは、光条兵器による攻撃は防げない。
 さらに、ベアトリーチェがファイアストームで炎の壁を生み出す。
 
 二人が敵を食い止めている間に、刀真達は制御室に辿り着いた。
「扉のロックは……かかってない?」
 不思議に思いつつも、制御室の中に足を踏み入れる。
「皆さんは、制御室のシステムの起動を頼みます。俺は敵を駆逐してきます」
 制御室の中は、先遣隊の他のメンバーに任せ、彼は制御室の外へ出る。
「刀真さん、お守りです」
 封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が銀の飾り鎖を刀真に手渡す。それには、彼女が禁猟区とパワーブレスをかけている。
「行ってくる」
 刀真は内部にまだいるであろう装甲服を倒して回るつもりだ。
 入れ違いで、美羽達が制御室に入ってくると、白花が制御室にロックをかけ、禁猟区を施した。
「プラントを稼動させる」
 クレアがプラントの機器を操作し、施設の起動を図る。
「多分、これが主電源」
 月夜が一つのスイッチを発見した。それを押すと、制御室内に明かりが灯った。そして、メインモニターには古代文字が表示された。

『システム、再起動致します』

 どこからともなく、女性の声が響く。
 そして、制御室の中には――