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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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(・残された者達)


 プラント制圧後、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はことの経緯をロイヤルガードの一員として、西シャンバラ政府に連絡した。
『はい、そうです。ただ、プラントの管理体制についてですが――』
 一つは、ただの無人の遺跡かと思ったが、人工知能を持ったシステムが稼動と同時に再起動したこと。
 もう一つは、アクセス権を認められた者に西シャンバラのロイヤルガードがいること。
 また、権限を持つのがシャンバラ教導団、蒼空学園、天御柱学院に一人ずつであることも含め、西シャンバラ政府の管理下に置き、これにPASDを擁する空京大学を加えることによって、西シャンバラの各学校で共同利用した方がいいと提案する。
 葦原明倫館がないのは、『鬼鎧』がイコンと同じ性質なのか、それとも異なるのかが判明していないからだ。
 そのことを、代王であり友人でもある高根沢 理子にも知らせ、対応を仰ぐ。
 天御柱学院のイコン予算については、日本政府と極東新大陸研究所ということになっている。だが、シャンバラを中心にするなら、西シャンバラ政府に組んでもらう方がいいかもしれない。
 今日明日で結論が出る問題ではないが、方針としてはさほど問題ないだろう。
 教導団は試作型のイコンを完成させるため、天御柱学院に技術提供を求めている。今はまだパイロットを擁する唯一の学校、天御柱学院にプラントを委ね、ゆくゆくは西シャンバラの共同拠点として使用する。
 それが実現するのは、もしかしたらそう遠くはないかもしれない。

* * *


 天御柱学院。
 プラント確保に出た機体も、ベトナム偵察に行った機体も帰還した。もっとも、ベトナムに行って帰って来たのは四機だけだったが。
 教官も含め、一小隊が全滅したのは大きな痛手だ。
「旧友が二人、同じ日に亡くなって君が辛いのも分かる。それに、あの二人は当学院でも双璧を成すほどのパイロットだった」
 女性教官――教官長の元に、一人の男が現れた。
「科長……どうされました?」
 毅然と振舞おうとする、教官だが、涙を拭った跡がある。
「今回プラントに出撃してきた鏖殺寺院機の発進元が判明した。ここだ」
 シャンバラの地図を広げる。
 印のある場所は、パラミタ内海にある孤島だ。
「『軍』と呼ばれる組織の拠点と言われていたが、どうやらその正体が鏖殺寺院だったようだ」
「それで、これがどうしたのですか?」
「敵は疲弊している。装備を整え、三日後に襲撃するということで我々の方針は一致した」
 早過ぎる。そう思ったが、決定は覆らないようだ。
「今回の部隊の活躍。それに多少損傷しても、新たにプラントが手に入った。そちらのイコンによって不足分を補填すればいい。場合によっては、あのプラントに明日から入り、一部の生徒には先行してもらうのも――」
「待って下さい!」
 上層部の判断に、声を荒げる教官長。
「これは決定事項なのだよ。それに、内部には今度は強化人間部隊の投入も検討されている。パートナーのいない、ね。今回ので超能力部隊の有能さも証明されたことだからな」
 続いて、一人の青年が入って来た。
「風間君、説明を」
 強化人間管理課の風間だ。
「貴女の言いたいことはよく分かりますよ。ですが、敵は手強い。学院の子達は強くなりましたが、その分敵が弱くなっているわけではありません。酷でしょうが、疲弊している今がチャンスなのです」
「そのために、強化人間を解き放つというのか」
「ええ。契約者を持たぬ者も、比較的安定しております。それに、天御柱学院製第一号、検体名『設楽 カノン』も興味深い経過を辿っている。おっと、零号も少し面白くなってきましたが」
 まるで実験動物について語るかのような口調だ。
「ああ、大丈夫ですよ。万が一のときは『オーダー13』を発動するだけですからね」
 その言葉に、教官長は沈黙せざるを得なかった。
「では、部隊編成と生徒への連絡、頼むよ」
 そう言って科長は教官室を後にした。
 この学校を支配しているのは、コリマ・ユカギール校長ではない。彼は権力に縛られず、自分の興味の向くままであり、学院上層部を事実上放任している。
 ドン、と机を殴りつけ、憎むように吐き捨てる。

「お前達は、生徒を……私達を、道具としか見ていないのかッ!!!」

* * *


『アレンさん、本日はありがとうございました』
 ロザリンドはヴァイシャリーに戻ると、代行を任せていたアレンと連絡を取っていた。
『ホワイトスノー博士、不審な動きはなかったね。一応、今は学院に協力しているみたいだし』
 パソコンを起動し、アレンとのデータのやり取りを行う。
 プラントやイコンに関するデータは、アレンと天学に『預けて』ある。彼女のことを、アレンもホワイトスノーも信頼してはいるが、東シャンバラ所属であるため、イコンに関する情報は体面上持ち込ませないようになっている。
『ホワイトスノー博士、経歴はまさに才女って感じだよ。だけど、一つだけ気になる記事が見つかってね。まあ、それは後になって訂正されたんだけど……』
 アレンがその事実を告げる。

『ホワイトスノー博士、2012年に一度死亡記事が出ているんだよ。今助手を務めている、イワン・モロゾフ氏も同日付けでね』

* * *


「大佐、ベトナム偵察隊の持ち帰ったデータですが、やはり……」
 モロゾフとホワイトスノーは、深刻な顔で青いイコンの画像を眺めていた。
「それと、黒い装甲服の敵兵の顔です。同じ、ですよね」
「クローンだろう。技術的には可能だ。ただ、今は世界条約で禁止されている」
 様々なデータを検討し、ホワイトスノーは核心した。
「中尉、気付いているだろうが、この敵の背後にはおそらく――ヤツがいる」
「ええ、間違いありませんね」
「そこでだ、三日後に現地到着でチャーター機を手配してくれ」
「『匣』の解析はどうします?」
「今は後だ」
 そして、彼女はモロゾフに告げる。

「行き先は、『ベトナム』だ」

* * *


 カンボジア。
「間もなく、ベトナムとの国境ね」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)達は、現地に入り、カンボジアから偵察に赴いていた。
 そのとき、ベトナムの密林地帯の方から、轟音が響いた。
「戦闘……偵察部隊だろうか?」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が、音のした方角を見る。だが、特に何か見えるわけではない。
「はわ……町で聞いた『軍』とは関係あるのかな?」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が呟く。
 三人は森に入る前に町で情報収集した。
 それによると、二年くらい前から傭兵やゲリラを雇い、ベトナム・カンボジア両国が公認した『軍』なる組織の基地があるとのことだった。
 もっとも、敷地内には軍所属以外の人間は入れず、それ以外の人間は近付いただけで装甲服の兵士に排除されるため、現地の人間は誰も近付かないという。
「装甲服っていうと、あのときのを思い出すわね」
 タンカーで見た、あの紺色の襲撃者。一応、現地の人に絵を描いてもらったが、どうにもそれらしい。
 彼女達は、そのままベトナムへと足を向けていく。

* * *


 ベトナム。
「みんな、無事か?」
 孝明は、周囲の状況を確認する。
「まったく、生きてるのが奇跡だぜぇ。あと十センチずれてたら、これの中でお陀仏だ」
 景勝のすぐ後ろには、地面がなかった。
 いや、厳密には巨大なクレーターとなっているため、平坦ではないということである。
「教官、しっかりして下さい!」
「何、血は止まった。命に別状はない」
 五月田教官は、右腕を失っていた。むしろ、あれだけの攻撃を食らって腕一本というのも、奇跡だ。教官のパートナーも、全身を強く打ってはいたが、命に別状はない。
「これも、女王の加護のおかげ……でしょうか?」
 シャンバラ女王の加護を受けていると、普通は死ぬような目に遭っても生き残れるというが、今回はどうにもそれらしい。
「だけど、これからどうする? 機体は全部あの中だ」
 クレーターを、紫音が指差す。加えて、通信機は使えない。携帯電話もだ。
 そのとき、上空に青い機体とシュバルツ・フリーゲが交戦しているのが見えた。
「デイブ……!」
 もう一機の教官機は、青い機体を翻弄しようとするも、原理の分からない力によって、吹き飛ばされる。
 そして、次の瞬間には跡形もなく消し飛んだ。
「一体、あの機体はなんだ……ッ!」
 その正体は分からない。だが、教官機を破壊した青い機体は、そのまま基地まで帰還した。
「オリガ、大丈夫か?」
 そんな中、オリガは震えていた。圧倒的な力の前に、今度は自身の死を間近に感じたからだろう。
「ここは敵の領域だ。おそらく、すぐに追ってが来るだろう……ぐっ!」
 ならば、どうするか。
 大人しく捕まるか、それともなんとか脱出するか。
「敵の基地に行こう」
 孝明が言う。
「おそらく、カンボジア政府も、ベトナム政府も敵とはグルだ。町に出たところで、俺達が安全だという保障はない」
 すでに、彼らが撃墜されたのを敵は知っている。顔は割れていなくても、今の彼らは不審な外国人だ。
「それに、あの中ではイコンに乗ってくることはないだろう。こっちにとっては厳しいけど、上手く侵入し、あわよくばあの青い機体を破壊、もしくは奪取出来れば……」
 それは簡単に出来ることではない。
「無謀かもしれない。けど、それであの化物を何とか出来るなら――俺は行くぜ」
 紫音が覚悟を決める。
「もうこれ以上、わたくしは誰かが死ぬのを見たくはありません。行きますわ、行って、敵を止めてみせますわ」
 これも何かの運命だろう。あるいは一つの試練か。
「俺達は全部で十人。たった十人だ。けどよ、この人数で敵の基地一つぶっ潰せたらカッコイイじゃん?」
 景勝が立つ。
「アイツらをギャフンと言わせてやろうぜ」
 かくして、特攻野郎Aチームは、追い詰められた状況下で、覚悟を決める。
 
 その先で、彼らを待ち受けるのは一体何なのだろうか――