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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

リアクション


第一曲 〜海神は天空の大地へ〜


(・最終調整)


 地面を叩く音が響き渡る。
 緊急放送を受けた天御柱学院パイロット科の生徒達が、イコンデッキへと駆けている音だ。
 デッキは本校舎と繋がっており、整備を行うハンガーもまたその上にある。「イコンデッキ」というのは、校舎とは別にイコンに特化したこの施設全体を示す言葉として、学院では用いられている。
 今、生徒達はハンガー内へと集まりつつあった。
「現在、機体の最終調整を行っている。急がねば、という気持ちは分かるがもう少し待て」
 イコンを整備出来る人間は教官、生徒ともに限られているが、いつでも出撃出来るように常日頃から万全の整備は行っている。
 とはいえ、機体は個人の所有物ではない。だからこそ出撃の度に、パイロットに合わせた機体の調整が必要になってくる。
「アル、中の機器類は大丈夫だぎゃ。あとは外の調整だけだぎゃ」
「ええ、ヨタカ。では、とりあえず迷彩と関節カバーをお願いしますね」
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は、コームラントの調整を行う親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)に自機の調整を任せた。
「いよいよですね、マスター」
 機体から離れようとするアルテッツァを、六連 すばる(むづら・すばる)が見上げる。彼女の顔が強張っているように見えたのか、
「……どうしましたか、スバル? この状況に怖気づいたんですか?」
 と問う。
「怖気づいてはいません! ただ、この戦闘に勝てばマスターのためになるんですよね」
「ええ、そうです。ボクのために戦って下さい」
「はい! ワタクシ、命に代えても頑張ります」
 アルテッツァは自らのパートナーに微笑を向ける。それが彼女への返答であるかのように。
「さあ、集合場所へ向かいましょう」
 彼らが機体から離れた後、夜鷹は指示のあったように整備をし始めた。
 大荒野に合わせた迷彩塗装を施す。ただ、関節カバーに関しては追加装甲という形になりそうだった。
 もっとも、コームラントの場合元々イーグリットよりも装甲が厚いため、多少の攻撃なら受け止めても大丈夫である。
 その後は実弾式の汎用機関銃の取り付けに入る。機体の整備は基本装備で行われるため、追加装備はこの最終調整で機体編成に合わせる必要があるのだ。
 

* * *


「よし、あとは実際に起動しての確認だけだ」
 ラグナル・ロズブローク(らぐなる・ろずぶろーく)が傍らのパートナー、エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)に告げた。
「意外とすんなりと終わりましたね」
「あぁ? こう見えても、案外手先が器用なんだよ。驚いたか?」
 エルフリーデ達、海洋生物研究会――作戦時におけるダークウィスパー小隊は事前に校長経由で、試験導入を許可してもらったある「システム」を機体に組み込んでいた。
 今回の作戦行動における小隊の目標、それは天御柱学院のイコン部隊として敵を退けることもそうだが、このシステムの有用性を証明することにもある。
「DW―C2もあとは調整だけだよ。他は大丈夫」
 クローディア・アッシュワース(くろーでぃあ・あっしゅわーす)シャーリー・アーミテージ(しゃーりー・あーみてーじ)の二人も、システムと機体の調整を行っていた。
 とはいえ、コームラントはこの二ヶ月で大分整備方法が変わった機体だ。
「従来よりも欠点は減りましたが、その分整備が大変になりましたね」
 シャーリーが機体を見上げる。
 コームラントの大型ビームキャノンは、手持ち式のものであった。武器自体は変わらないが、現在はグリップを握るわけではなく、腕部に専用のアタッチメントを用いて取り付けられている。
 これにより、それぞれの手に取り付けられたビームキャノンは従来以上の安定性を実現し、また移動時は邪魔にならないように後部にスライドさせ、マニピュレーターで何かを掴んでも砲身が邪魔になることはない。
 汎用機関銃を装備出来るようになったのも、そのためだ。その分、機関銃からビームキャノンへの切り替えをどれだけ行えるかが重要となる。
「武装追加出来るくらいまでイコンの仕組みを解析出来たんなら、新型機も出来たりしないのかな? 二人だけじゃなくて、それ以上でも乗れるようなのが」
 武装を変換しても機体が正常に起動出来るようになったということは、イコンに組み込まれたプログラムの書き換えに成功したという事実を示している。
 あとはサロゲート・エイコーンの機体構造さえ完全に判明すれば、新しい機体が出来る日も訪れることだろう。
「部隊記章のマーキングはこれでよし、と。フェル、ミーティングは任せたよ」
「了解……仕上げ、よろしく」
 十七夜 リオ(かなき・りお)フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)を集合場所へ向かわせ、残りの調整に取り掛かる。サブパイロットとして機体にも乗り込むが、彼女は整備科だ。優先すべきはあくまで機体の整備である。
「アルマ、こっちも三人で仕上げておくから、お願い」
「分かったわ」
 天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)アルマ・オルソン(あるま・おるそん)を向かわせる。彼女自身は、クローディア、シャーリーと共に機体調整を行う。
「沙耶くん、システムの調子はどう?」
「起動はちゃんと出来てるよ。後はデータリンクのチェックかな」
「その辺は他の機体と合わせて確認した方が良さそうだね。出撃前に乗り込んだときにする事になりそうだよ」
 そろそろパイロット科が本科の生徒はミーティングの時間だ。調整はいいペースで行われている。
 イーグリットとコームラントではコームラントの方が整備に時間がかかるため、イーグリットの整備が終わったらコームラントの手伝いを行う。
 整備科の生徒は両方の整備方法を学んでいるため、どちらでも対処出来るのだ。
「これを見る限りだと、敵のイコンに比べて学院のは性能的に上だよね」
「だけど、性能差はパイロット力量で埋まるものだよ。悔しいけど、前に僕はそれを味わってる」
 タンカー護衛戦を思い出すリオ。今、かつてあったその敵との差はどれだけ埋まったのか。
 そしてもしまた出てくるなら、今の自分の――いや、チームでどれだけ対抗出来るだろうか。