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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

リアクション


(・飛翔)


「パイロット科、これで揃ったようだな」
 女性教官が生徒達の前に立ち、全体を見渡している。今回も彼女が説明を行うようだ。
「既に聞いているように、今回の任務はシャンバラで発見されたイコンの製造プラントを確保することだ。もっとも、別働で超能力部隊が直接内部制圧に向かっているから、イコン部隊の目的は『敵イコンの足止めと地上の契約者達の侵入ルート確保、及び敵随伴歩兵の排除』だ」
 スクリーンにイコンの製造プラント周辺の地図を投影する。
「プラントはパラミタ先進調査機構からの最新情報によれば、地下にあるとのことだ。入口は偶然発見されたものであり、そこからイコンが侵入するのは不可能。また、入口はそこと、敵が入って来たであろう場所の二つが存在するとされている。敵が見つけた入口はまだ確認されていないが、プラント内部にはイコンで侵入出来ないものと考えた方がいい」
 もっとも製造プラントである以上、イコンの発着が出来る設備はあるはずだが、それの確認は内部の者が行う手筈になっている、と教官は付け加えた。
「敵もプラントは欲しいだろうから、下手に破壊しようとは考えないだろう。こちらは先遣隊に加え、超能力部隊を直接送り込める。内部制圧の戦力は十分だ。だからこそ、外からの応援を食い止められるかがカギとなってくる。相手はプラントに到達したら、イコンを乗り捨てでも内部に侵入するぞ」
 教官が恐れるのはそれだった。乗り捨てようと、プラントを確保しさえすれば新たな機体は手に入るようになる。
 だからこそ、イコン部隊の任務は単なる足止めではないと念押しする。
「最後に、無理に敵を撃墜する必要はないということを頭に入れておけ。今回の任務はあくまでプラントの確保が最優先事項だ。目的を見失うなよ」
 説明が終わると、小隊編成が彼女の口から発表された。
「整備科も兼ねている者はもう知っているかもしれないが、搭乗予定表はこの通りだ。既に小隊を編成し、登録申請している者達以外は、いつものように訓練データを元に決定している……おや、小隊編成の一部がバランス悪いな」
 登録小隊以外の基本編成はコームラント二機、イーグリット三機で今回は処理しているはずだが、アルファ小隊が四機で、エコー小隊が七機となっている。おそらくは一度アルファに組み込まれた者が何らかの事情で搭乗出来なくなり、データから削除されたのだろう。
「しかもエコー小隊に至ってはコームラント一に対し、イーグリットが六か。そうだな……霧雨、ルクサリア、両名はアルファ小隊に変更だ」
 霧雨 エルセレーヌ(きりさめ・えるせれーぬ)レイジ・ルクサリア(れいじ・るくさりあ)は、教官の指示でアルファ小隊に組み込まれた。
 これで、四小隊は全て同じ編成で統一される。
「あとはエコー小隊のコームラントだが、さ……」
 名前を呼びかけたところで、気付いた。コームラントの扱いには慣れた人物だが、彼は別任務に出ている。
「野川教官に出てもらう。全体の指揮は彼が出すが、あくまでも小隊行動が基本になることを忘れるな。それと、追加武装に関するリクエストは搭乗する前に提出すること。では、解散。健闘を祈る」
 

* * *


「作戦としては、コームラントは連携して敵機牽制とイーグリットの援護に専念、というのがいいでしょう。あとは、東側の土地に立ち入らないようにすることくらいでしょうか。今は東西の壁は薄いとはいえ、今回は軍事行動とみなされているでしょうからね」
 アルテッツァは同じ小隊の仲間と作戦を立てようとする。
「しかし、今回が初戦になる人も多いのか、緊張している様子が窺えますね。機体に向かう前に、さあどうぞ」
 ティータイムでお茶を用意し、まずはリラックスしてもらう。
「初戦でも、何度か戦っていても、それぞれ何か思うところはあるでしょう。ですが、それは『ヒト』として当然ですし、誰でも同じです。それを自覚して、戦いに挑むことが大切なのですよ」
 彼自身も、戦いのプロではない。教員であっても教官ではない以上、機体に乗れば一小隊員であり、生徒達と同じなのだ。そのことを自覚した上でそう言うのだろう。
「それでは先生としての言葉はここまで。頑張りましょう、皆さん」
 教官の説明が終わった以上、あとは出撃を待つわけだが、このわずかな時間の間に各人で最終確認をするのは重要だ。
「解析資料集、コピーしてきたよ」
 葉月 エリィ(はづき・えりぃ)が鏖殺寺院イコンの解析資料集のコピーを取り出す。機体の中でも、攻撃担当の人なら現地までの間に読む時間はある。
「あ、ありがとうございます」
「助かるでござる」
 端守 秋穂(はなもり・あいお)フォックス・エイト(ふぉっくす・えいと)がそれを受け取った。
「戦場に着くまでに目を通しとくといいよ。結構詳しく書かれてるからね」
 とはいえ、彼女はまだほとんど目を通していないのだが。なので自分もちゃんと読むことにした。

「ついに出撃だね……」
 霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)が、不安げな顔をしていた。おそらく、初出撃に際して、恐怖を感じているのだろう。
「大丈夫よ、沙霧くんだって一緒に訓練を乗り越えてきたじゃない。それに、私達は一人じゃないわ。寺院の部隊に遭遇しても、みんなと力を合わせて頑張りましょう?」
 館下 鈴蘭(たてした・すずらん)が沙霧を励ます。その言葉通り、ここにいるのは彼女だけではない。
「ボク達だって今回が初めてだけど、一緒に頑張ろうねっ」
 水鏡 和葉(みかがみ・かずは)だ。そして、
「機体の整備は万全だよ。イーグリットでの戦い方も聞いといたから、うまく連携していこうね」
 祠堂 朱音(しどう・あかね)である。彼女達が、デルタ小隊のイーグリットに搭乗する。
 出撃前に作戦を再確認し、各自機体に向かっていく。

「いよいよだな」
「どうした、翔。緊張しているのか?」
 {SNM9998857#辻永 翔}とアリサ・ダリン(ありさ・だりん)は搭乗機体に向かうところだった。
「まさか。これが初めての戦いってわけでもないんだ」
「だが、やはりあの機体のことが気になるのだろう? パイロットについても、判明したようだからな」
 あの黒いイコン、シュバルツ・フリーゲを駆る男は、かつて薔薇の学舎のジェイダス観世院の親衛隊であるイエニチェリの一員であったカミロ・ベックマンという男であるという。
 その者がどういった経緯で寺院入りをしたのかは分からないが、その過去を踏まえても只者ではないのは確かだ。
「あいつはまた出てくるのか?」
「さあな。だが、あのイコンを超えるために訓練を積んできたんだ。私達の力を見せてやろうではないか」
「気合入ってるな、アリサ」
 負けず嫌いな翔以上に、アリサも二度にわたって辛酸を舐めさせられたのが悔しいらしい。
「翔、アリサ!」
 そんな二人に声を掛けるのは、同じ小隊に配属となった天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)だ。
「同じ小隊になったな。宜しく頼むぜ」
 鬼羅は今回が初の実戦だが、緊張しているようには見えなかった。翔達と組めて嬉々としている様子や、早く出撃したくて勇み足になっているあたり、おそらく早く戦いたくて仕方ないのだろう。
 彼は二度に渡って敵の指揮官を退けている翔達を強者として見ていることもあるようだ。
「気合十分なのはいいが、空回りしないよう気をつけろよ?」
 その後ろから声が掛かる。
 小隊の指揮を執る野川教官がやってきたのだ。
「まさか、自分が呼ばれるなんてな。とはいえ、君達に伝えておきたいのは一つだけだ。独断で突っ走るなよ? イコン戦はチームプレイだからな」
 若い男性教官はにっ、と笑ってみせる。
「もう一機のコームラントは笹井達か。そんな堅くなるなよ」
「私はいつも通りです、教官」
「そうそう、昇はいつもこんな調子だぜ? それに教官、生徒が大事だからってあんまり無理しなさるな。『命は大事に』っすよ」
「デビット、教官に向かってなんて口の聞き方を」
 笹井 昇(ささい・のぼる)デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)をたしなめる。が、教官はさほど気にした風でもなく、
「はは、自分は教官長みたいに気にする人間じゃないから構わないぞ。パイロット科の人間は、教官も生徒も関係なく、貴重な存在なんだ。『犠牲になってでも』なんて考えの方が愚かしい。それに、自分達は軍隊じゃない。引くときは潔く引いてこそだ」
 くれぐれも馬鹿なことは考えるなよ、と言ってパートナーと共に野川教官は機体へと向かっていく。

『あー、テステス。全員聞こえてるッスか? 分かってると思うけど、家に帰るまでが作戦ッスからね。そこのことだけは忘れないようにっ……さあ、寺院の連中のケツを蹴り飛ばしに行くッスよ。野郎共、覚悟はいいかっ!?』
 機体に乗り込んだ狭霧 和眞(さぎり・かずま)は無線のチェックを行う。各無線、正常に機能しているようで、いろいろな声が帰って来る。
『ワン・フォー・オール! アンド・オール・フォー・ワン!……だ。一機も欠けることなく戻るぜ!』
 リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)だ。全員で無事に戻る、それも出撃する者達の目標だ――いや、絶対にやり遂げなければならない。
「って、オレも気合入れないといけないッスね。ルーチェ、準備はいいッスか?」
「はい、兄さん!」
 ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)を見遣る。
「いよいよですね。そういえばコームラントって名前付けていいのでしょうか? ん、アキ君、シャチの名前……オルキヌスっていうのはどうかしら」
「うん、いいね。でも、TACネーム、【ジャック】で登録しちゃったんだよなぁ」
 高峯 秋(たかみね・しゅう)エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)は、機体の中でそんな話をしている。
「と、まあそれよりも、今日まで訓練を積んできたんだ。だから、前よりもみんなを守れるようになっているはず――頑張ろう!」
 

 パイロット全員が機体の動作確認を終えた小隊順に、出撃する。
 搭乗した機体はカタパルトから射出され、空へと飛翔していった――