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静香サーキュレーション(第1回/全3回)

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静香サーキュレーション(第1回/全3回)
静香サーキュレーション(第1回/全3回) 静香サーキュレーション(第1回/全3回)

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【×6―2・発言】

 三時すぎ。
 調理実習室で高原瀬蓮とアイリスは、秋月 葵(あきづき・あおい)イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)と共にお菓子作りに励んでいた。
 いや、作っているのは瀬蓮とアイリス、葵だけで。
 イングリットはフォークとナイフを持ってワクワクしながら試食待ちしていた。
「今日は何かにゃー。早く食べたいにゃー」
 その隣には、例の行動を今か今かと待つカトリーンの姿もある。もちろん珠もいる。
(時間的にそろそろのはずなんだけど)
「さあできた! 今日はザッハトルテを作って見たよ〜♪」
「わーい! おいしそ……うにゅ?」
「初めてなのに上手く出来てるでしょ〜。さぁ食べて見て☆」
 ニコニコ顔の葵に勧められるまま、なぜか怪訝な顔でパクッと食べてみるイングリット。
「うん、おいしい! おいしい……」
 味は確かにおいしいのだが、どうにも奇妙な感覚になるイングリット。
 カトリーンもしっかりザッサトルテをいただきながら、アイリスに目を向けるとその表情は「瀬蓮、怪我なんかしなかったぞ」的なものになっていたが、そのとき。
「いたっ! 指、はさんじゃった」
 エプロンをしまおうとした瀬蓮が、誤って戸に小指をはさみ痛そうにしていた。
 驚くアイリスと、してやったりなカトリーン。
 しかもそのいっぽうで、
「おかしいにゃ? 初めて食べるのに……この食べ飽きた感じ……にゃんでだろ?」
 イングリットがかくりと首を傾げていた。
 ちなみに、そう言いつつすでにホール半分食べ終わっていたが。
「イングリット、やっぱりコレ何回も食べてるにゃ……何か変なんだにゃー!!」
 叫びに指摘されて、葵もおかしなことに今更ながら知る。
「そういえば、初めて作ったはずなのに手順覚えてた……」
「んー、言われてみると、瀬蓮もなんだかいつもよりちゃんとできてたかも」
 ざわめく一同に、カトリーンは「だから言ったでしょ?」的な表情をアイリスにお返しにしてやる。
「どうやら、僕が間違っていたみたいだね。悪かったよ、ループの話は本当だったんだな」
「わかってくれればもういいよ。それより、これからのことだけど」
「それなら、静香校長に相談するのはどうかな。なにか手がかりを知ってるかもしれないし」
 ふたりの会話に葵が進言し、それで話はまとまった。
 瀬蓮と珠は、話がよくわかっていないようだったが。とりあえず流れで頷いておいた。
「待って、みんな!」
 直ぐに部屋から出ようとした一同を制止するイングリット。
「ど、どうしたの?」
 深刻そうな彼女に、緊迫した空気が張り詰め――
「これ食べ終わるまで待って欲しいにゃー」
 全員がくずれ落ちた。

 そのころ小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、空京で買ってきたミスドのドーナツ袋を手に、パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と共に百合園を訪れていた。
 だがやってきてきみれば、あちこちから聞こえてくる静香の様子がおかしいという噂。
「なにかあったみたいだね」
「そうですね。どうします、美羽?」
 美羽は、数秒だけ悩んだかと思うと、
「そうだ、瀬蓮ちゃんと一緒に静香を助けてあげよう!」
 はっきりと迷い無く言い放って、協力を求めるべく瀬蓮の元へと向かうのだった。
 ベアトリーチェはむこうみずな彼女に苦笑しながら、それでも後を追いかけた。
 そして。
 ここにいると聞いてやってきた調理実習室では、ちょうど瀬蓮たちが出てくるところだった。どうやら本当にイングリットが食べ終わるのを待っていたらしい。
「来たよー、瀬蓮ちゃん!」
「あ、美羽ちゃん!」
「ごめんね遅くなって。もうドーナツのぶん、お腹あいてないかな?」
「ううん。へーきだよ。ちゃんとあとで食べるから! どうせなら今からでも」
「こらこら。今はそれどころじゃないんだって」
 出会って早々意気投合しだしたふたりを、慌てていさめるアイリス。
 ベアトリーチェはここでもまた苦笑をこぼしつつ、
「えっと。それでなにがあったんですか?」
「詳しいことは道すがら話すよ。今ははやく、静香を探したほうがいいみたいだから」
 目的が同じと知るなり美羽とベアトリーチェは頷き、皆で捜索を開始――
「あ、いた! あれ静香だよ!」
 ――する前に、いきなり見つかっていた。
 美羽が指差す先。
 理科室の前で、
「どうしたの? なんだか深刻そうな顔してるけど」
 静香は亜美と話をしていた。後ろにはオルフェリアの姿もある。
 近寄っていくとはっきり話が聞こえてきた。
 夢のことやループのこと。静香としては、今回だけ黙っているのもどうかと思ったので、これまでのようにきちんと説明をしていった。
「それは静香の願望かもしれないわね。静香はいつも、ラズィーヤのオモチャにされているじゃない。ひょっとしたら、酷い目に遭わせて自由になりたいんじゃないのかしら?」
 変わらずに告げられる亜美からの質問。
 けれど、今。
「違うよ」
 初めて。静香の口から、ハッキリした否定の言葉が出ていた。
「確かに僕は、ラズィーヤさんにたくさんろくでもないことさせられてるよ。正直迷惑に思うし、いい加減にしろって怒りたいときも何度もある」
「だったら」
「でもさ。今日……いろいろなことがあって思ったんだ。僕はそれでも、ラズィーヤさんを大切なパートナーだと思ってるって。失いたくないって思ってることに気づいたんだ」
「…………」
「色んな人達と接して、話して、困惑して、絶望して、やっと気づけたことだけどさ」
 このときの静香は、普段の泣き虫で頼りないのが嘘のように。
 はにかみながらも晴れやかで誇らしい顔をしていた。
「そう」
 亜美はそれを聞いて小さく頷き、くるりと踵を返して去っていった。
 そのあと美羽たちが静香をいろいろ冷やかす中。
 ディテクトエビルで亜美を探っていたベアトリーチェは、思う。
(なんでしょう……今、悪意のような、善意のような、奇妙な感覚がしました)