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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
●精霊指定都市イナテミス
 
「大地クンおっかえりー!
 いやー、気付いたら寝ちゃってたみたいで、結局どうなったか分かってないんだけど、大地クンが帰ってきたってことは上手くいったってことなんだよね?
 あたしたちで頑張って芋焼いた甲斐があったんだねー!」
 イナテミスに戻って来た大地を、プラが飛びつくようにして出迎える。
 豊かな胸の膨らみ(プラ曰く、「ここだけがあたしの取り柄だからねー」らしい)を当てられ、大地がなんともいえない表情を浮かべる。
「……プラ、身体で表現するのはよくない。精霊長様も言ってた、想いが大切だって」
 はしゃぐプラをずずっ、とフェードアウトさせようとするアシェット、かくいう本人の胸は、まあ、語らずに置いておく。
(……どうしよう。今、凄いこの子に親近感のようなものを覚えたわ。だけどここでこの子の味方をしてしまったら、私が……ああ、ダメ! 口にしてはいけない!)
 そんな二人を見た千雨が何かに悶えるような振る舞いを見せ、笑顔を浮かべてシーラが見守っていると、コルト他イナテミスの住民たちがこぞって集まってきて、宴の準備が出来たことを告げる。
「そうそう、あたしも頑張って色々作ったんだよ! 大地クン、行こっ!」
「あ、あの」
「……プラだけに任せると、何するか分からない。私も付いていく」
 プラが左の腕に絡みつくようにくっつき、アシェットが右の腕に控えめにくっついて、戸惑う大地を引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ! ……違うの、大地が過ちを犯さないように見張ってるだけ! 気になるとかそういうことじゃないんだから!
 三人の背後を、自分に言い訳のようなものを呟きながら千雨が追い、あらあら、と笑顔を浮かべたままシーラが続いて、宴の会場であるイナテミス広場へと向かっていく――。

「ちょっとー、そこ僕の場所なんだけどー。ていうか君、フィリップのなんなのさ! 話次第では、僕も黙っちゃいないよ!」
「フィリップ君は……フィリップ君は、私の大事な人です!」
 フィリップの両脇で、ルーレンとフレデリカが向かい合い、バチバチと火花を散らせる。
「……あのー、僕のこと忘れてない?」
「「フィリップ(君)は黙ってて!」」
「はい……うぅ、どこに行っても結局こうなるのかなぁ……」
 
「いやいや、先程まで街の存亡がかかっていたとは思えないな」
 広場に足を運んだカラムが、賑やかな住民と生徒たちの振る舞いを目の当たりにして、驚いたような表情を浮かべる。
「カヤノを始めとした精霊、そしてメイルーンとヴァズデルも、紆余曲折あったけど友に、仲間になった。なら、ニーズヘッグもそうなる可能性がある。
 ……イオテスと話して回りましたけど、案外すんなりと受け入れてくれましたよ?」
 傍に控えていた祥子がカラムに説明し、そうでしたね、とイオテスが同意する。
「町長、サラを見かけなかったか? もう回復したと聞いたのだが、まだ姿を見ないのだ」
 そこへ、セイランとケイオースが姿を見せる。二人は、『希少種動物保護区』を守り切ったサラのその後を知らないか、町長に確認を求めに来たのであった。
「ああ、今しがた連絡がありました。サラさんはイルミンスールへ向かったそうです。親友を見舞いに行く、と言っていました」
 撤収の準備を整えた刀真から、サラの言葉が伝えられる。この時既に、ケイが倒れイルミンスールに運ばれたことは生徒たちの知るところとなっていた。サラも生徒から、その話を耳にしてしまったのだろう。
「……君たちの話は、だいたい聞き及んでいる。事情を知らぬ私たちがかけてやれる言葉は少ないが……私たちは君たちのおかげで今こうして幸せな時間を得ることが出来ているのだということを、忘れないようにしなければならないな」
 カラムの言葉に、ケイオースとセイランも頷く。生徒たちの少なからぬ尽力があって、この街は成り立っているのだ。
「よかった、皆さんここにいたのですね」
「はぁ……終わったーって思ったら、どっと疲れたわ……お腹と背中がくっつきそうよ」
 やがて、セリシアとカヤノも合流し、ニーズヘッグがエリュシオンの精霊の存在を示唆したことを口にする。
「そうか……これだけの騒ぎを起こしたのだ、もしかしたらいずれ、向こうから接触を図ってくるかもしれないな」
 『ヴォルカニックシャワー』の発動は、近隣諸国にも見えているはずである。それによって、例えばエリュシオンに住んでいる精霊が、何らかの目的を以てこの街にやって来ることは、十分考えられた。
「ま、今から慌てても、騒いでも仕方ないでしょ。私たちに出来ることは、そのエリュシオンの精霊が訪れた時に、今日この時の行動をさらりと話せるようにしておくくらいではないかしら」
「……そうですわね。相手がどう思うかを考え過ぎても、いけませんわね。わたくしたちはこの街でこのように暮らしています、それを見ていただいて、それからですわね。
 さ、せっかく祥子さんとイオテスさんが準備なさってくれた宴です。失うものはあったかもしれませんが、わたくしたちはまた一歩を踏み出すことが出来ました。そのことを皆さんで讃え合えたいと思いますわ」

 セイランの言葉に一行が頷き、宴の場へと繰り出していく――。
 
 夕暮れ迫る病室の一室、その扉が外から叩かれる。
 ディートハルトが入室を促すと、悠とルアラ、マリアの姿が中に入ってくる。
「……ただいま、です。ディートさん」
「ああ……おかえり、悠。……いい顔をしている」
 上半身を起こしたディートハルトの、掌が悠の頬に触れ、その手を両手で握って、悠が嬉しそうに微笑む。
「……あたし、何でそこまでしてオッサンが悠おねーちゃんを守ろうとするのか、まだ分かんないんだけどさ……」
「ええ」
「ちょっと、考えてみよっかなーって、思う。
 ……悠おねーちゃんがあんなに生き生きして、嬉しそうなら、きっと大切なことなんだって気がするし」
「ええ。それでいいのだと思います」
 呟くマリアに頷いて、ルアラがこの、苦労の末に訪れた一時の平和な時間を、幸せな気持ちで享受する――。
 
「オウ! コレがイナテミスの露天風呂デスカー! ……アァ、なかなかいい湯加減デース」
 ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が、イナテミスに出来たという露天風呂で疲れを(主に、美央から逃げてきたことによる)癒していた。
 しかし、そこに別の人影が現れる。しかもどうやら女性のようであった。
(オウ、ここは混浴でしたカ! ぜひともお近づきになりたいところデスガ……もしバレて話が美央に伝わったら、ミーの命はありませんネ! 悔しいですが、隠れるしかないようデスネ!)
 ジョセフが物陰に隠れた直後、ロザリンドがタオルだけを羽織って露天風呂に姿を見せる。
(……誰も、いない、ですよね? よかった……)
 混浴と書いてあったことでドキドキしつつ、ロザリンドが湯に身体を沈める。
 もしサラが入っていたら大分熱いお湯になっていだだろうが、今はいないため、ちょうどいい温度になっていた。
「はぁ……」
 頬を染め、ロザリンドが此度の戦いを思い返す。生徒同士の争いと結末、身を捧げるが如くの生徒の行動、それらを思い返すと、どうしても表情が沈んでしまう。
 それは決してロザリンドが弱いことではなく、生徒の殆どがそう思って仕方ない事態であろう。全員が無事である(死んでない、という意味で)ことは連絡として伝わっていても、やはり、心に引っかかりを残すであろう。
(……でも、それら全ては、自分のできることを全力でやった結果、ですよね?)
 ロザリンドの思う通り、皆、全力だった。全力であるが故に、結果は影響の大きいものとなった。
 その結果を客観的に見れば、複雑な感情が渦巻くかもしれないが、大事なのは当人がどう思っているか、ということである。
 もしここで本人が結果に満足していれば、第三者は口を挟めないのである。
(私も、その時が来れば……)
 自分のできること、やれることの中で全力を出せるだろうか。そしてそれがどんな結果でも、満足できるだろうか。
 そんなことを思いながら、ロザリンドが夜空に浮かぶ星々を見上げる――。
 
 なお、隠れていたジョセフがこの後風邪を引いてしまったのは、仕方のないことである。