校長室
薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)
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「どうぞ」 エレンディラがテーブルに、パン菓子を置いた。 「材料的にあまり変わりませんし、ちょっと試しに作ってみました」 それは、シュトレンというパン菓子だった。葵の料理作りを手伝いながら、こっそり作っていたのだ。 「ん? たしかこれって……クリスマスを待つアドベントの間、少しずつスライスして食べるものじゃなかったっけ?」 「そうなのですか?」 途端、エレンディラは顔を真っ赤にしてシュトレンを隠そうとする。 「いいじゃん、パラミタでは関係ないって」 ゼスタがくいっとシュトレンを引っ張って、パン切りナイフでスライスすると自分の口に放り投げる。 「甘くて美味いぜ。クリスマス気分味わえなかったし、クリスマス料理くらい食いたいよな」 言って、ゼスタはシャンメリーの栓を抜き、皆のグラスに注いでいく。 グラスを受け取ったエレンディラは、まだ赤い顔を葵の方に向けて、ちょっと恥ずかしげに葵と微笑み合った。 「いいよ、そういうことは俺がやるから。先生だとホストクラブのホストみたいだ」 笑みを浮かべながら、スレヴィがゼスタの手から、シャンメリーのビンを奪い取る。 そしてビンをトレーに乗せた後、鹿のローストと野菜をテーブルに並べていく。 森で狩ってきた鹿を捌いて、軽く塩を振り、ハーブで臭みを消してある。狩って間もない肉なので、凝った味付けはしないでおいた。 野菜は管理していた畑から採ってきたものだ。 つまみ用のラディッシュは、辛味を抜き、切れ込みにバターをいれ、塩を少しかけてある。 これがとても美味しいのだ。 他の野菜は茹でただけだが、油っぽいものも多いため、これくらいが丁度良いだろう。 「スイーツばっかり食べてるイメージだけど、普通に料理も食べるんだ」 「ま、食わなくても問題ないけど、美味いモンは食わなきゃ損だろ?」 言って、ゼスタはスレヴィの料理や繭達が作ったクレープをとても美味しそうに食べていく。 ネージュが用意したカナッペは、ツナサラダを選んでいた。 「ところで、この合宿所、合宿が終わった後はどうなる? 皆で作業した畑の管理くらいは継続したいんだけど」 「また使う時まで、閉鎖だなー。畑の管理は続けてくれりゃ、助かるけど、薔薇学からはかなり距離あるし、難しいんじゃないかと思うぜ。一応管理人の募集はかけてみるんで、物好きなパラ実生が何人か残って、温泉共々管理をしてくれる可能性もあるけどな」 「そっか。とりあえずは冬休み中は管理を続けることにするよ」 それじゃまた後でと言い、飲み物をトレーに乗せてスレヴィは別のテーブルへ向かった。 温泉に近いテーブルに、百合園生が集まっていく。 「伝説の果実を使って作ったフルーツケーキだよ。どうぞ!」 セシリアが今回作ったのは、4種類の伝説の果実を使ったフルーツケーキだった。 「味見をしましたけど、凄く美味しかったですぅ」 メイベルがナイフで切り分けて、フィリッパとシャーロットの皿に乗せていく。 「いただきますわ」 「いただきます!」 2人がケーキを口に運ぶ姿を見届けてから、セシリアとメイベルもケーキを一切れ、口に入れた。 そして、一斉に4人の顔に笑顔が浮かぶ。 「こちらも召し上がってください」 「とても美味しいですわよ」 有栖とミルフィがカップケーキとヨーグルトをトレーに乗せて、近づいてきた。 「いただきますぅ〜。こちらもどうぞ〜」 メイベルは有栖が作ったスイーツを受け取り、代わりにセシリアが作ったお菓子を、有栖のトレーに乗せた。 そうして交換しあって、互いが作ったスイーツを食べていく。 4つの笑顔が6つになった。 「こっちも食べてね。現地産のものばかりだよ! メイベルさん達が採ってきてくれた山菜も使わせてもらったの」 ネージュが料理を持って現れて、カナッペをテーブルの中央に並べていく。 「甘いものばかりだと飽きますし、助かりますぅ」 メイベルは喜んで、タンドーリチキンを選び口に入れた。 「辛さも丁度よくて、美味しいですぅ〜」 嬉しそうな彼女の顔に、ネージュも嬉しくなっていく。 「こちらもどうぞ」 繭とルインも現れて、生クリームを沢山使ったクレープやプリンをテーブルに並べていく。 「美味しそう!」 セシリアは早速プリンを手にとって、沢山の生クリームと一緒に口に入れていく。 「ミルミも一緒にいい?」 「私も」 ミルミとライナも手を繋いで、こちらに向かってくる。 「ケーキ作ってきたです」 「すみません、場所開けて下さい」 その後から、ヴァーナーが大きな箱を手にあらわれて、セツカと一緒にどーんとテーブルの上に乗せた。 ぱこっと蓋をあけると、にぎやかなケーキが顔を出す。 沢山のフルーツに、沢山の文字。沢山の手作り人形の乗ったケーキだった。 「うわーっ、楽しそう」 「うきうきするね」 美味しそうという言葉より、そんな言葉が皆の口からあふれ出て、沢山の少女達の笑顔が――華が咲いた。 「さて、百合園の代表を務めてくれた、ミルミちゃんにプレゼントがありまーす」 突如、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が手を後ろに回しながら現れた。 隣には、到着したばかりの南西風 こち(やまじ・こち)の姿がある。 「表彰状」 リナリエッタは隠し持っていた紙を前に出して、内容を読み上げる。 「ミルミ・ルリマーレン殿。あなたは白百合団員として、この東シャンバラ主催の合宿で、百合園代表を務め、立派に役目を果たしたことをここに表します。白百合団団長、桜谷鈴子」 「……え? ほえっ!?」 ミルミはお菓子を口の中にいれたまま、驚いている。 「鈴子さんからの手書きの表彰状よぉ。どうぞ」 リナリエッタがミルミに表彰状を差し出した。 「あ、ありがと……。ホントだ。本当に鈴子ちゃんの字だ……」 ミルミは驚きながら表彰状を受け取って、ライナにも見せる。 「いいな……いいな……」 ライナにはそれが何であるのかよく解っておらず、鈴子からの手紙と捉えていた。うらやましそうに覗き込んでいる。 「うふふ、良かったわねぇ」 ニヤニヤ笑みを浮かべながら、ミルミを見守っているリナリエッタの名を呼ぶ者がいた。 振り向けば、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)の姿がそこにあった。 シーマはミネラルウォーターをリナリエッタに投げて渡す。 それから、手を胸に当てて頭を下げた。 「リナリエッタ、感謝する。コレからもよろしく頼む」 ミルミの面倒を見続けてくれたことに対しての礼だった。 「いいのよぉ。ありがとぉ」 リナリエッタは受け取ったミネラルウォーターを一口、飲んだ。 「さて、皆のお世話しなきゃねぇ」 世話をしたいわけではない。 百合園はできる女の集まりだとアピールするために、リナリエッタは給仕に向かう。 シーマは礼をして見送り、ライナの護衛に戻ることにした。 こちは、リナリエッタの後に続きながら、鈴子の様子についてリナリエッタに報告をした。 最近は、白百合団を率いるようなこともなく、彼女は内務に徹しているようだ。 諸問題に追われているようだが、元気そうだった、と。 「それはよかったわぁ」 リナリエッタはいつものように、ニヤニヤ笑みを浮かべながら報告を聞いていた。 「マスターも頑張りました」 こちの労いの言葉に、リナリエッタは「ありがと、こち」と、こちの頭をぽんと叩いた。 そして、リナリエッタはティーポットを持って、茶を注いで回っていく。 こちはリナリエッタについて回りながら思う。 鈴子に、リナリエッタが頑張っていたことも伝えてあった。 ミルミにだけではなく、リナリエッタにも何かしてあげて欲しいと、お願いをしてきた。 こちのお願いに、鈴子は「わかりました、考えておきます」と答えてくれた……。 (百合園に戻ったら、きっと何かしてくれます) リナリエッタが喜ぶ姿を想像しながら、彼女のお手伝いをするのだった。