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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

リアクション



【?7―3・解明】

 アリア・セレスティは、もう何度目かという辱めを受けていた。
「んああああ! んっ、あぁ、はぁ……やめて、やめてぇ……」
 リセットされるループを自覚していないため、逃れることは絶対に叶わず。いつもいつも同じ空き部屋に連れ込まれる結果となっていた。
 しかも毎回新鮮な反応に興奮するアリアに、黒長髪と緑髪コンビも責めをかなりエスカレートさせてきており。今などは全身をがんじがらめに縛られ、しかも身体のそこかしこが叩かれたように赤くなっていた。
「ふうー。にしても気持ちいい時間は、過ぎるのが早いねー。もう何度目だっけ?」
「6か7くらいじゃなかった? それよりも……さっきのループで蝋燭はすませたしぃ、コスプレはとっくに終わってるでしょ? 次はなににしようかしら?」
 自分達の欲望を解消することしか頭にないふたりに、アリアはわずかに残っていた怒りの感情でかすかな反撃を口にする。
「こんな事して……ただじゃ、すまないよ……! 絶対に、捕まえて、貰うんだから……」
 だが。ふたりは逆におかしそうに微笑み、
「あららー。それは困るなー、だとしたら俺らも非道な手を使わないとねー」
「ウフフ……後ろにあるアレ、なにかわからない?」
 不敵な言葉につられながら、目を向けると。そこにはビデオカメラがあり。
 その機械が意味するところに気付き、アリアは今度こそ頭が真っ白になる。
「そ。これまでの様子、ぜーんぶ録画してるんだー」
「でもアレは保険なんだから。脅すなんてこと、アタシ達にさせないでよ? あのビデオはあくまでも、アタシ達がシュミでタノしむためのものだしね」
 緑髪はそう言うと、アリアの耳たぶを軽く噛み。そこから少しずつ少しずつ歯に力をくわえていく。アリアは刺激の中の快感に、身をよじらせて悶える。
「もう……いや……ぁ……あぁあっ……!」
「ふふふ。いいなー、その表情。どうしよう、俺もう我慢できないかも。いい加減本気でやっちゃいたいなー」
「待ちなさいってば。アタシ、前フリは長めにイキたいタチなの。もうちょっと遊ばなくちゃ勿体無いわよ」
「でもさー。そろそろこのループも解決しそうな気がするんだよねー。勘だけど」
「いいのよ。そうなってもこのまま解放せずにタノしむんだから。何より、また別のループが始まってくれたら、今度はもう無制限ノンストップでやりたい放題よ? そう考えたらゾクゾクするじゃない」
 アリアはもう、ふたりが何を企んでいるのかさえ、耳が拒絶して聞いておらず。
 そのまま意識を失わせていった。

 望むと望まざるとに関わらず、時間は刻々と過ぎ去っていく。
 そろそろ夜の帳が降り始めるころ。カトリーン・ファン・ダイク(かとりーん・ふぁんだいく)と、そのパートナー明智 珠(あけち・たま)。それとエレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)、更に亜美を加えた四人でカフェでお茶をしていた。
「わたくしとしては、もうすこし人が集まってくれればよかったんですけど」
「クリスマスも近いし、みんな忙しいんでしょ。ワタシもそろそろ行く用事あるし」
「そうですわね〜。わたくしも〜いろいろ忙しい身ですから〜」
「あ、まあまあもうちょっと話そうよ。ね?」
 カトリーンとしては、亜美から話を聞くのが目的なのでもう少し伸ばしたく思い。
 珠はループとかまったく気付いていないので、ただ会話を楽しんでいた。
 エレアは、ここにいないパートナーに思いをはせていた。
「亜美様は、静香様とはいつ知り合ったのですか?」
「あー、二ヶ月くらい前だったかな? なんだか面白い人だったから、すぐに友達になったわ。パートナーはアレだけど」
「は、はは。そうよね。あ、そういえば亜美のパートナーって今はどこにいるの?」
 便乗して質問するカトリーンは、微妙にぎごちない感じがした。
「さあ? あの子、恥ずかしがりやだから滅多に人前に出ないからね。ワタシの家にでもいるんじゃないかな」
「……なんだかそっけない言い方ですけれど。自分の契約者について、どう思っているのでございますか?」
「そうねー。あんまり考えたことないな、契約のときもなんとなくだったし」
「パートナーに対して、そんな風でよろしんでございますか?」
「そうですわね〜。もうすこし〜配慮をすべきかと思いますわ〜」
「亜美のパートナーって、ひとりだけなの?」
「ん、まあね。さてと……そろそろ時間ね。じゃあ、ワタシはいくから」
 亜美は自分の勘定ぶんを置いて、足早に歩いていってしまった。
 そしてそれをカトリーンは珠と共に、エレアに挨拶をしてから護衛も兼ねて追っていく。
 状況が掴めない珠は不思議そうな顔をしていたが、説明する時間がもったいないので今は放置することにしておいた。
 あたりが暗くなってきたので、ノクトビジョンを使うカトリーン。
 事前に覚えておいたループ時間まで、まだかなり余裕はあるが。気は抜けない。
(大丈夫。もしものために、事前に携帯電話で『放課後、事件が起きるらしい』事をアイリスに知らせておいたし。なにかあっても、きっと大丈夫)
 昨日の一件が終わった後、番号を聞いておいてよかったと心底思うカトリーンだった。
 もっともちゃんと来てくれるかどうかは、まだわからなかったけれど。

 一方。カフェに残ったエレアの元に、パートナーである神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)と、さらにプロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)アトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)達がやってきた。
「まったくもう。なにをしているんですの、身辺調査をしている相手と直に話したりして。なにか悟られでもしたらどうしますの、ひやひやしましたわ」
「ごめんなさい〜。別のおふたりと話していたら、そういう流れになってしまいまして〜」
「エレン。そのへんにして、お互いに集めた情報を交換しておくべきなのだよ」
「そうだよ。なにか起こるなら、このあとすぐなんだから」
 言われて、エレンは早急に頭を切り替えることにした。
「そうですわね。えっと……これはわたくしが事前に根回しでラズィーヤさんと白百合会に話を通して、特別に資料室を探らせてもらって得た確かな筋の情報なのですわ。心して聞いてくださいませ」
 一度そこで言葉を切り、まとめた情報を口にする。
「西川亜美。17歳。性別は女性。
 東西にシャンバラが分裂してからやってきた生徒で、以前は日本の百合園に通っていた。
 実家は金貸しをしていて、かなり金持ちらしい。ただ父親が強引なやり方も辞さない人で、多くの人から恨みを買っているという噂があり。そのせいで、あまり仲はよくない。
 あと、この実家は静香の実家とさほど遠くない場所にあるらしい……ですわ」
「パートナーについては?」と、アトラ。
「種族は魔道書らしいんですわね。けれど書類が破かれてて、データもプロテクトがかかってるんですわ。なんでも、かなりの秘密主義だとかで」
「ああ〜そんなこと言っていました〜とっても恥ずかしがりやさんみたいですね〜」と、エレア。
「ふぅん。怪しいな」と、再びアトラ。
「怪しいと言えば〜、聞き込みをして気がついたんですけど〜百合園の皆様〜、西川亜美様について〜不自然なくらい〜愛想がいいと言っていましたね〜。こういう場合〜なにかよからぬことを考えている、かもしれません〜」と、再びエレア。
「やはり彼女にはなにか裏があるのであろうか」と、プロクル。
 そのときアトラが思い出したようにポンと手を叩いた。
「あ、そうそう。朝方に亜美の住居を見に行った時、気になる話を聞いたんだった」
「え、なんですの?」
「ある人が担保として持ってきた秘密のアイテムの話なんだよ」
「「「秘密のアイテムぅ?」」」
 アトラ以外の三人の声がハモった。
 胡散臭いのはアトラも承知の上だったが、続ける。
「それが、その人結局お金が返せなくて、アイテムは取り上げられちゃったらしいんだけど。面白いのは、どうやら亜美がそれを持ち出したらしいってことだよ」
 それを聞いて、全員の目の色がかなり変わった。
「へぇ、たしかに面白いですわね。で、それはどんなアイテムなの?」
「さあ。そこまでは……元々の所有者が借金のせいで雲隠れしちゃったらしくて、情報が無いんだよ」
 全員の目の色が、いっきに残念そうになった。
「なんにしても。彼女自身の故意によるものでないとしても彼女に絡む何かが、この事態を引き起こしているのは間違いないでしょう。こうやってつついて回っていれば案外大きな魚が釣れるかもしれませんわ」

「そうかな? たいしたものは釣れないと思うけど?」

 エレン達が突如かけられたその声に振り向くと。
「他人のプライバシーをのぞくなんて、あまり感心できないわね」
 当の西川亜美が、いつの間にかそこに立っていた。