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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

リアクション



【◎1―1・絶叫】

(ん……)
 静香は、目を覚ました。
 くらくらする頭をおさえながら、目をしばたたかせると、小窓から入ってきたわずかな光がまぶしく。思わず目をつむってしまった。
(あれから、どうなったんだっけ)
 亜美を捕まえようとしたあと、閃光が走って。
 それ以降の記憶が静香にはなかった。どうやら気絶していたらしい。
(そうだ。ループは? それに身体のほうも)
 次第に目を開くのが怖くなって、そろそろと胸元へ両手を近づけると――柔らかな感触が掌に伝わり。がくりとうなだれる静香。
「なんだ。また元に戻っちゃったのか…………あれ?」
 ぼやいたその声。
 なんだかいつもと違うように耳には聞こえた。自分の声質より、わずかに高い。
 もう一度胸元に手をやってみれば、膨らみもこの前より小さい。かと言って自分の胸板でもなかった。嫌な予感がした。
 それでも目を開けないことには、事態がわからない。
 何秒間かの葛藤の末に、目を開くと。
 そこは自分の部屋ではなかった。
 壁や天井のつくりから百合園女学院のどこかだとはわかったが、なぜ扉が格子戸になっているのかはわからなかった。まるで牢獄かなにかのようだ、とぼんやりと考えた。
 もう一度部屋を見渡してみると、壁に張り付いた鏡が目に入った。
 そして。そこに映っていた自分の顔は、
 焦茶色をした三本編おさげが印象的で、育ちが良さそうでどこか厳しそうな印象のある顔だった。瞳も青ではなく緑色をしている、その顔は。
「あ、亜美…………?」
 鏡に映ったその顔も、身体も、声も、すべてが西川亜美のものだった。桜井静香のものでは、なく。
「な、なにこれ。どうなってるんだ!?」
「ああ。目が覚めたんだね、西川亜美、さん」
 振り返れば、格子戸のむこうに桜井静香がいた。
 気が遠くなりかけた。
「なんてね。驚いた? 静香」
「も、もしかして、亜美……?」
 これは夢かどうかと迷いながら、静香はとりあえず思いついた選択肢を告げてみる。
 自分が亜美の姿になっているのなら、目の前の静香は亜美ということになるだろうという単純な発想。そしてそれは正解のようだった。
「とりあえず、一応ワタシの思いを伝えておこうと思ってきたの」
「な、なに? もしかしてなにかのドッキリとか?」
「アナタがワタシを否定するなら、もうアナタのために力は使わない」
「え、っ」
「ワタシは……ワタシの望みを叶えるわ」
 亜美の言葉はそれだけだった。
 その意味を静香が理解する前に、誰かが近づいてくる靴音がした。
 現れたのはラズィーヤだった。
「静香さん。いつまでこんな場所にいるつもりですの? 今日も仕事が山積みですのよ」
「あ、ごめんねラズィーヤ。話はもう終わったから、いこう」
 ラズィーヤは、自分ではない相手に静香さんと呼びかけ、こちらに見向きもしなかった。
 当たり前だった。今の自分は西川亜美で、桜井静香は向こうにいるのだから。
「ま、待ってラズィーヤ!」
「? なんですの?」
「僕だよ! 僕が桜井静香なんだ! そこにいる僕は西川亜美なんだよ!」
 数秒の、沈黙の後。
 ラズィーヤはやはり、静香の顔をした亜美のほうに喋りかけた。
「静香さん。この方はなにを仰ってるんですの?」
「さあ? 僕にもよくわかんないや。もう行こう」
 あっさりと、それ以上取り合うこともせずに、ふたりは行ってしまう。
 静香は混乱しっぱなしの頭のまま、逃げられたくない一心で格子戸にしがみついて叫ぶ。
「待って! 僕だよ、ラズィーヤ! ラズィーヤ! 待って! 僕が、僕が静香なんだ!」
 しかし。
 無情にも足音は遠ざかって、すぐに聞こえなくなった。
「なんなんだよ、これ……一体なにがどうなってるんだよ!」
 静香の絶叫は、もう誰の耳にも届きはしなかった。

                                    つづく

担当マスターより

▼担当マスター

雪本 葉月

▼マスターコメント

 マスターの雪本葉月です。
 今更ですけれど、今回も皆さん楽しいアクションばかりでしたので、それだけにこちらとしてもネタをもっと出しておくべきだったかもと悔やんでいたりしています。
 連続するシナリオなので、あまり色々やりすぎるのもどうかと思ったのですけどね。
 まあそのあたりは今後の参考にするとして。
 いよいよ次で静香サーキュレーションも最終回です。
 今回のラストで自分のすべてを奪われ、大ピンチの静香。このあと一体どうなってしまうのでしょうか?
 ……自分で書いておいてなんですが、こんな思いもかけない終わりかたで次回大丈夫かな??

 おおまかに考えているネタとしては、
 囚われた部屋からの脱出劇とか、
 亜美(静香)を捕まえようとするNPC達からの逃走劇とか、
 本性を見せた西川亜美との劇的な対決などをできれば、面白そうだと考えています。

 というネタバレな予告はこのへんにして。
 それでは次回をお楽しみに……。