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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・実戦訓練


『時間はいつもと同じ、十分だ』
 パイロット科長からの通信を、菜織は不知火の中で受けた。
「行こう、美幸」
「はい、菜織様」
 有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)と共に、機体を駆る。
 相手は学院最強のイーグリットパイロットとコームラントパイロット。野川教官にしても一般教官とはいえ、両機共に操れる実力者だ。
『これより陽動を行う』
 後衛からのビームキャノンとミサイルによる援護に合わせて、一気にパイロット科長達との距離を詰める。
 だが、事はそう簡単にはいかない。
(動きが……読めない!?)
 ビームライフルの射線は分かる。だが、【不知火】もイーグリットだ。今でこそビームライフルではなくアサルトライフルを装備しているが、標準武装のことくらい知っている。
 機体特性を相手が知っていることを前提としているから、科長が射撃のタイミングをずらしているのだ。
(加速か)
 ブースターの起動音から、科長機が飛び込んでくると予測。
 しかし違った。ブースターで加速すると思わせて、急停止。そしてビームライフルを放つ。
『速さを生かして飛び込むだけがイーグリットの戦い方ではない』
 機動力があるということは、相手の行動が予測出来ればギリギリの距離でも攻撃をかわしたり、フェイントを行ったりすることが出来るということだ。
 ギリギリで科長からの攻撃をかわしながら、菜織は対策を考える。

(さすが……まったく隙が見当たらないぜ)
 同じく前衛のイーグリット【ブレイク】の薫も、なかなか攻めきれずにいた。
(かーおーるーん、スマイルスマイル〜)
 リディアからの精神感応が伝わってくる。
(そうやって真面目な顔してると、シワ増えるよー)
 パートナーの声に、気持ちを落ち着ける。気負いすぎるあまり、意識せず強張っていたらしい。
(そうだな、オレらしくねぇ。行くぜ、リディア!)
 科長に対する先入観を捨てる。確かに強いが、エヴァンほどではない。
(科長に勝てないようじゃ、エヴァンに勝ったなんてとても胸を張って言えない)
 しかも、覚醒――イコンが真の力に目覚めたからこそまともに戦えたようなものだ。それがなければ、到底倒せたとは思えない。
 だからこそ、もっと強くならなくては。覚醒を使わずとも、純粋なパイロットとしての実力でエヴァンを超えられるまで。
 後衛のコームラントに援護を任せ、まずは【不知火】と協力してパイロット科長の撃破に務める。
 五月田教官機が積極的に前に出てくることはない。野川教官はこちらの晴人とアンジェラが駆るコームラントとの戦闘に入っている。
 寺院との戦いを思い出す。
 話に聞いたところ、グエナとエヴァンは最初二機で連携しながら戦っていたという。目の前にいる科長、五月田をかつての強敵に置き換えて戦い方を考える。
「まずは、これだ!」
 ビームライフルによる牽制射撃を行う。
 相手の動きが鈍ったら加速し、急接近し――
「止まらねぇ!」
 ビームライフルを撃っている間も、科長は速度を緩めずに回避しながら距離を詰めてきた。
「わわ、やっぱり教官さんってすごいねー」
 などと言いながら、オペレートしてきた。
(かおるん、よけるよ!)
 しかし回避は間に合いそうにない。
 ビームサーベルを引き抜き、科長からの斬撃を受け止める。
『手は二本あるということを忘れるな』
 薫達のサーベルを払い、片手持ちに切り替えた。
 即座に二撃目が来るが、それを受け止める。
(かおるん、下がるよ!)
 その指示で急加速し、離脱を図る。
 相手はもう片方の腕でビームライフルを構え、射線を合わせていたのだ。辛うじて距離をを取るも、実戦だったら撃墜とまではいかないが相当なダメージを被っていただろう。非殺傷性だが、命中した部分くらいは分かる。
『残り二分だ』
 科長から告げられた。

 自分達が戦った相手は、強かった。技術的にも、精神的にも。
 それを倒した以上、今度は向こうがこちらを超えようとしてくるだろう。自分達がそうだったように。
 それでも、もう負けられない。ならば自分達の意志を示すまで。
 敵だけではない。教官達にも、仲間達にも、後輩達にも。少しでも、ここにいる皆の力になれればと。
(美幸、不知火。今から無理を通す! 付き合って欲しい)
 菜織の呼びかけに、美幸は応じた。
(ごめんね。無茶させて、でも、後でちゃんと謝るから)
 【不知火】に向かって呟いた。
 不規則な動きで、科長は【不知火】の背後に回りこんでいた。
 攻撃をギリギリまで引き付け、機体が軋むほどの勢いによる緊急回避を続ける。
「もう少し、もう少しだ!」
 空中での失速域に突入し、それまでの回避行動からの反動から一気に【不知火】が減速する。
『ほう、そう来たか』
 一方の科長機も減速するが、【不知火】を追い越していった。すぐに旋回し向き直ろうとする。
 だが、【不知火】は失速する瞬間に覚醒状態に移行していた。
 エネルギーを解放し、一気に加速して科長機に迫る。
「ぁぁぁぁあああ!!」
 ビームサーベルを引き抜き、一閃しようとする。
「く……!」
 だが、科長の反応速度も尋常ではない。ビームサーベルの光条が衝突する。覚醒状態によって威力、強度も増したサーベルの光によって、科長機のサーベルを弾き飛ばした。
 そのまま二撃目を繰り出す。
 型部のスラスター接合部から斜めに刃を振り下ろす――袈裟斬りだ
『見事だ』
 実戦だったら、間違いなく致命的なダメージとなっていただろう。
 そうして、模擬戦の時間は終了した。

* * *


「では、移動訓練を始める」
 約束通り、移動訓練を行うことになった。
「さあ、乗って下さい」
 見学者の中から救助者としての参加意思を表明した――イコンに乗ってみたいと思っている者をコックピットの救助者用シートに招く。
 美幸がヴェロニカに呼び掛けた。
「すごい……空を飛ぶのって感じだったんだ」
 ヴェロニカは目を輝かせた。
「パイロットになったら、こうやって飛ぶことになる。この光景、目に焼き付けておくといいだろう」
 機体のカメラを通してだが、それでも彼女には新鮮なものだ。
(兄さん達も、こうやって空を飛んでいたのかな……)

* * *


 そして、午前中の授業と学校見学終了の時間となった。
「やっぱり教官は強いな」
「でも、『覚醒』を使わずによくやれたとおもうよ!」
 リディアは薫を励ました。
 なんだかんだで、連携してではあるが、科長には有効打を与えられたのだ。
「リディア、どっか行くか? 付き合うぜ」
「じゃあ、海京に出て食べ歩きでもしよっか」
 ちょうど今日は、次の授業まで結構時間がある。
 教官達の機体と共に、天沼矛のイコンベースへと帰投した。