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Entracte ~それぞれの日常~

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・授業風景 〜超能力編〜


 カーリン・リンドホルム(かーりん・りんどほるむ)は天沼矛内のイコンハンガーで、パートナーの搭乗する機体【ジャック】の整備を行っていた。
 授業中に自分のイコンを整備することは、基本的にはない。そのため、こうした合間の時間を使って整備をするのである。
「サイコキネシスって便利よねぇ……」
 整備用のリフト上からサイコキネシスを使い、下に置いてあるモンキーレンチを取り寄せる。極度に重いものでもない限り、工具を持ってき忘れても問題ない。
(今頃二人はいつものように授業を受けてるのよねぇ。超能力科は妙な噂もあるから、このままだとちょっと心配だけど……)
 とはいえ、二人の事情も分かっている。だからせめて、学院の暗部に飲まれて悪い方へ心が歪まないように、支えてあげられればとも思う。
(まあ、ダークウィスパーの皆もいるから大丈夫かしら?)
 共に戦う仲間達の顔を想起し、微笑した。

* * *


「では、本日の訓練を始めます」
 高峯 秋(たかみね・しゅう)は、この日の訓練に臨んでいた。
 超能力科は座学よりも、実技訓練の方が全体としての比重が高い。これは、超能力の安定化を図るためには、力を実際に使うことに慣れる方が重要だからである。
 また、超能力科は他のパイロット科、整備科に比べて少人数単位で授業(という名の訓練)が行われているも特徴だ。
「では、ESPカードを用意して下さい」
 いつもと同じく、ウォーミングアップからだ。
 超能力科では、習熟度別クラス分けとなっている。ここでいう習熟度とは、力の大きさと安定性のことだ。また、別途特待生は一つのクラスにまとめられている。
「最初は透視からです。私の持っているカードと同じものを机の上に置いて下さい」
 裏向きのカードを教官が掲げている。
(うん、見える。これだ)
 即座に「☆」のカードを置いた。
「おや、早いですね、高峯君」
 彼に続き、他の者達も透視したカードを机の上に載せる。
「では、開いて下さい」
 全員が開いた後、教官も表に返す。
「はい、皆さん大丈夫ですね。それでは次に移りましょう」
 教官が用意したのは、スーパーボールだ。
「今日はこれを使ってサイコキネシスの練習をします」
 それを勢いよく床に叩きつける。
「このように高速で動く対象には、より精密な力の制御が必要になります。この跳ねてるボールを銃弾に置き換えて考えてみて下さい」
 パシっとボールをキャッチした。ここからは教官と一対一で、順番に行っていく。
「五分間、集中して下さい」
 教官が一球ずつ、間を空けながら投げてくる。不規則に跳ねながら加速し、弾道も予測しづらい。
「そこだ!」
 向かってくるボールを弾き、別のボールに当てる。最初のうちは問題ないが、次第に数も増え、苦しくなってくる。
(俺だって、もっと強くならなきゃ!)
 肉体的にも、精神的にも。
 自分達が戦った敵には、その強さがあった。しかし彼らを倒した今、どこか心にもやがかかったような気分になってしまっていた。
(集中!)
 そのもやを吹き飛ばすためにも、今は訓練に集中する。
 ボールを減速させそれを手で掴み、数を減らしていく。白兵戦になったら、この何倍という弾丸が飛び交う。この程度で戸惑ってはいられない。
「はい、時間です!」
 たった五分ではったが、一気に疲労感がのしかかってくる。
「安定性、精密性ともにかなり高いです。この分なら、来年度も特待生は継続可能ですね」
 ファイルを開き、教官がチェックを入れていく。
「他の人の結果にもよりますが、専門課程Aクラス向けの実践プログラム導入も検討しませんといけませんね」
 そして、次の生徒の順番になる。
(エルは大丈夫かな? さっきから話しかけてるのに全然答えてくれないけど……)
 パートナーに精神感応を送るも反応がないことから、秋はやや不安感を抱いた。

 その頃、秋のパートナーであるエルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)は強化人間向けの専門プログラムを受けていた。
(今日は何をやるんだろう……?)
 強化人間の授業は、強化人間管理棟の中で行っている。管理棟の内部は外部非公開であるため、関係者以外にその実態が知らされることはない。
 とはいえ、決して非人道的な訓練が行われているわけではない。強化人間の場合は、超能力科の他の生徒よりも「実戦」に重きを置いた訓練内容が行われている。
「今日は模擬戦闘を行う。君達のパートナーの多くはパイロット科に所属し、君達もまたイコン操縦の授業を受けているだろう。しかし、状況によってはイコンが使えない場合もある。そういった場合もある程度活動出来るようにしておかなければならない」
 また、パイロット科の所属の地球人には超能力の基礎を習得している者が多い。そういった事情も含めて、パートナーと組んでの白兵戦を想定し、タッグバトル形式が採用される。
「それでは、組み合わせを発表する」
 強化人間にはランク分けが存在する。S〜Dの五段階になっており、パートナー契約をしている者の多くはA〜Bに集中している。エルノはランクAだ。
 ランクSは十人に満たないと言われているが、何人かは噂になっており、設楽 カノンはその一人だ。
「あいやー、よろしくネ」
「まさか、タッグパートナーがあなたなんて。よろしくお願いします」
 エルノがこの日組むことになったのは、女子制服をチャイナドレスっぽくアレンジした少女――数少ないランクS強化人間の一人だ。
 これも強くなるためのチャンスだと思い、二人で対戦に臨む。相手はランクAとBの組み合わせだが、油断は出来ない。
「――っ!」
 相手は一瞬で自分の眼前まで距離を詰めてきた。
 前衛がレビテートで浮いた瞬間、後衛が後衛がサイコキネシスを使って押し出したのだ。
 間一髪で相手の攻撃をかわし、ミラージュを使って態勢を立て直す。
(この程度じゃ……アキ君やカーリンさんを守れるように、もっと強くならないと)
 幻影で撹乱を図るも、同じことを相手もやってくる。
「戦いのコツ、その一」
 ランクSが耳打ちしながら、サイコキネシスを放つ。
「幻影に影は出来ないヨ」
 影のある姿に向かって、エルノはヒプノシス使う。ちょうど本体に意識を集中したこともあり、眠らせることに成功する。
「戦いのコツ、その二」
 残りの一人に、彼女が飛び込む。
「力は一点に集中!」
 相手の胴体に拳を突き出し、触れた瞬間壁沿いまで吹き飛んだ。
 壁も床もある程度柔らかい素材で出来ているため、特に大きな怪我はしない。それでも、痛いものは痛いだろうが。
「超能力は使えば使うほど脳に負担がかかるからネー、無駄を省くよろし」
 息一つ切らしていない様子を見るに、彼女にとってはこれでも準備運動代わりでしかないのだろう。
(さすがランクS……ボクも頑張らないと)

 このようにして、超能力科の生徒や強化人間達は戦い方を身につけていくのである。