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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・白金


「もうすぐ到着とのことです」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に知らせてきた。
 イコン製造プラント。彼女達はここに常駐し、シャンバラ王国のロイヤルガードとしての仕事を行っている。
 今日、天御柱学院の生徒が見学に来るとの連絡は受けていた。
『そちらには私が生徒を連れて行く』
 パイロット科長が直々に訪れるということだ。その際に、『総帥』なる人物のイコンと対峙したという、辻永 翔(つじなが・しょう)アリサ・ダリン(ありさ・だりん)の出頭要請もする。
『一緒の方が都合がいいが、あいつらは午後に授業がある。朝のうちからで問題ないなら、そちらへ向かわせよう』
 情報を聞くなら早い方がいい。それに、管理者としては見学者が来たらそちらの対応もしなければいけない。
 そういったこともあり、承諾したのだ。
 二人はプラント内のイコンハンガーへと降りてくる翔とアリサを出迎えた。
 彼らはイーグリットに乗ってやってきたのだ。
「おはよう、プラント管理を任されてるロイヤルガードの小鳥遊 美羽だよ」
「美羽さんのパートナーの、ベアトリーチェ・アイブリンガーです」
 初対面なため、軽く挨拶をする。
「アリサ・ダリンだ。おい、しゃきっとしろ」
 寝ぼけ眼の翔を見やるアリサ。
「ん……ああ、辻永 翔だ」
 海京からプラントまでは距離がある。いくら移動手段がイーグリットだとはいえ、かなり早起きしたのだろう。
「すいません、朝早くから」
「気にするな、普段から朝は早いから大丈夫だ」
 一方の翔はまだ完全に目が覚めてないように見受けられた。
「どうにも、ここしばらく朝はこんな調子でな」
 よく操縦出来たな、と思う。
「それで、聞きたいことというのは?」
「ついてきて」
 美羽は二人を案内する。ナイチンゲールに会わせるためだ。
 もっとも、立体映像に過ぎない彼女は呼べばすぐにでも現れるのだが。それ以上に、もう一つの【ナイチンゲール】を見てもらおうと思ってのことだ。
『おはようございます』
 ナイチンゲールと対面する。
『あなた方がジズと会った、という認識で宜しいですか?』
 侍女服姿の女性が翔とアリサに確認する。
「ああ。たしかに、あのノヴァってヤツは自分のイコンをジズって言ってたな」
 翔が答えた。
「ジズ……白銀のイコンのことだよね、ナイチンゲール」
『はい。その通りです』
 原初のイコンの一体。海京に現れたのはそれに間違いないようだ。
「二人に聞きたいのは、ジズとノヴァと会ったときのこと。どんな感じだったか教えて」
 翔とアリサに、美羽は問う。
「真の力に目覚めたイコンを、短時間とはいえ支配していた。これまでのイコンとは根本的に違う何かがあると感じた」
 アリサが視線を落とした。あの機体を前に何も出来なかったことが悔しい、あるいは恐れのような感情を抱いたのだろう。
「ナイチンゲール、その力のこと何か分かる?」
『動力炉と制御系等への干渉。特に、それらは同系統の下位機体に対して有効に働くように設定されております。ジズはここで造られた他の聖像の力を自在に引き出す、あるいは抑制することが可能です』
 では、それに対抗するためにはどうすればいいのか。
「それだけがあのイコンの力とは思えない。空を割って、他のイコンを遠くへ撤退させたりもしていた」
『それはジズの力ではございません』
 つまり、あの馬鹿げた力はノヴァ個人のものだということだ。
「あの余裕ぶった顔。戦うつもりはないとあの時は言っていたが、もし戦うことになっていたら……考えるとぞっとするな」
 
 二人の話を聞いた後、美羽はナイチンゲールに頼み、白金のイコン、【ナイチンゲール】のコックピットに入らせてもらう。
 白金と白銀。その話を思い出し、この機体こそが対抗する術を持っていると考えたからだ。
「ナイチンゲール、ジズを連れ戻すには、このイコンが必要だと思う」
 長い間行方をくらましていたジズを破壊することなく、出来ればこのプラントに帰したい。
 白銀の機体も、戦争の道具として造られたわけではないとナイチンゲールが語った。だが、戦いが始まってしまった以上、それを止めなければならない。
 みんなで楽しく語らい、笑いあって過ごせる、そんな場所や時間を守るため。今、イコンはそのために必要な力なのだ。
「起動するには、どうすればいいの?」
『その質問にはお答えすることが出来ません』
 淡々と答えるナイチンゲール。
『私からお伝えできるのは、求める者に「彼女」は決して力を貸さないということくらいです。自らに相応しい使い手が現れたとき、「彼女」は自ずと手を差し伸べるでしょう』
 彼女? と一瞬美羽は首を傾げた。
『マスター、そしてジズの存在を確認致しました。これはあくまで希望的観測に過ぎませんが、近いうちに「彼女」も現れるでしょう』
 聖像自らが使い手を選ぶためのプログラム。「彼女」とはそれを示しているのだろう。
 それがどんな姿をしているのかは、まだ分からない。