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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・整備科


「うっし、集合!」
 学院と直結している旧イコンハンガーの中に、整備科科長、グスタフ・ベルイマンの声が響き渡る。
「いいか、今日は例の新型機のお披露目がある。いつも以上に気合を入れてけよ! 返事は!?」
「「「はい!!」」」
 生徒達が声を揃えた。
 ここからはいつものように班ごとに分かれ、機体整備に移ることになる。全体管理は科長が行うが、各班には担当教官が一人ずつ付く。その下には生徒の中から選出された班長がいる。
「んで、ちょっと班分けなんだが……今から呼ぶ奴らは俺んとこまで来い。アライ、カナキ、ハセガワ、アーヴィン」
 科長から指名を受けた四人、荒井 雅香(あらい・もとか)十七夜 リオ(かなき・りお)長谷川 真琴(はせがわ・まこと)クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)らはベルイマンの元へ集う。
「ついて来い。お前達には、『レイヴン』の整備を手伝ってもらう」
 レイヴン。
 噂の新型を直に触れる機会を彼女達は得たのである。
「つっても、ブレインなんたらの調整は研究所の連中と風間が大体済ませてっから、いつも通りやりゃいいんだけどな」
 そして一行はその機体の姿を初めて目にした。
 ――漆黒のイーグリットとコームラント。
「これが『レイヴン』か……超能力者用ってことだから、僕らは乗ることはなさそうだけど」
 リオが機体を見上げ、呟いた。
「見ての通り、基本的な構造はベースになった機体と変わらねぇ。大きく違うのはコックピットだ」
 ハッチを開けてコックピットを見せる。
「そこにある機器を身体に装着することで思考を読み取ることが出来んだとよ」
 それに異常が起きないようにするのが、この機体を運用する上で一番重要だと告げる。
「シンクロ率は20%までしか上がらないように設定されてる。それが、安全面を考えた上での限界ラインだ。適性あるヤツならもっと上げても大丈夫かもしれねぇが、万が一ってこともある。リミッターが決して外れないようにするのが、今は一番大事だ」
 今後正式に導入されれば、パイロットの適性に合わせて調整されていくのだろう。
「とりあえず、やってみろ」
 科長がにっ、と歯を見せて笑う。
「俺がチェックして、一発OKだったら単位は保障してやる。つっても、その必要もないかもしれねぇがな」
 とはいえ、別に実技試験というわけではないらしい。単なる気まぐれといったところだろう。
「これが今後の主力になるかもしれない……なら、この機によく知っておかないとね。それに――単位も保障してくれるってなら気合を入れないと!」
 リオがバンダナで頭をすっぽり覆い、気を引き締める。
 四人で整備するのはイーグリットベースのTYPE―EとコームラントベースのTYPE―C、一機ずつだ。
「科長、少しよろしいですか?」
 真琴は機体の細かい部分の調整について尋ねる。
「パイロットがちゃんと帰還出来るように整備不良をなくし、パイロットが技量をきちんと発揮出来るように細かな調整を聞く」というのが彼女の信条だからだ。
「試運転のパイロットとして決まってんのは、風間からの推薦を受けた二組と、研究所とパイロット科長から一組ずつ。パイロットデータは……おっと、渡したマニュアルには挟んでなかったな」
 搭乗予定者のパイロットデータファイルを科長から受け取る。
「別に試運転だからそこまでする必要ねぇんだけどよ」
「『常に実戦を意識した整備を』、そう教えてくれたのは科長じゃないですか」
「そりゃそうだけどよ……相変わらず真面目だよな、お前は」
 口ではそう言っているが、科長が誰よりも整備に関して妥協を許さない人間であることくらいは、整備科の一員として過ごしていれば分かる。
 単に、いくら既存の機体と同じでも勝手が違うかもしれないから、今の時点でガチガチに固めるほどの調整をする必要はないというニュアンスなのだろう。
 それでも決して真摯な姿勢を崩さないのが真琴の性分だ。
 普段と同じように、駆動部分、ジェネレーター、動力炉と主要な部分から点検を行っていく。
「この機体、実際に動いたらどうなるのかな?」
 クリスチーナが声を漏らした。
「真琴、整備が終わったら試運転の様子を見物しに行くよ。模擬戦もやるみたいだし、あたいら自身の目でこのレイヴンの性能をじっくり見てみようじゃないか」
「そうですね。あの青いイコンのこともあるし、ちゃんとデータは取っておきませんと」
 外装の整備を終え、コックピットの中に入る。
「システム、起動します」
 メインスイッチを入れ、コックピット内に照明を点す。
 モニターに表示された各パラメーターをチェックし、異常がないかを確かめる。
「データは初期状態ですね。パイロットデータの入力、と」
 パネルを操作し、データ入力を開始した。
 パイロットIDを登録し、ファイルにある通りに調整していく。
「久しぶりに初期設定から始めた気がしますね」
「今はパイロット科で個人所有が認められてるからな。前みたいに、訓練の度に初期化する必要もなくなったのはありがたいよ」
 機体数が限られていた頃は、毎回データの書き換えをしなければいけないため非常に手間がかかっていた。
 今は機体に備わっているパイロット認証による自動調整機能に不備がないかの確認だけで済むため、かなり楽になったのである。
「設定完了。ジェネレーター起動。出力チェック――異常なし」
 続いて、BMIリミッターが外れないようになっているかを確認する。マニュアルを開き、記載されているリミッター解除の認証コードを入力した。
『上位権限により無効となりました』
 開発者によって、システムの根幹にロックがかけられているようだ。
 そのまま機体全体の整備を終え、科長による最終チェックへと移行する。