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リアクション
★ ★ ★
「そろそろ、お弁当にしますか?」
「ちょっと待ってよね。イルミンの紹介しちゃうから」
ステラ・クリフトンに聞かれたセシリア・ライトが、そう答えて、しーっと唇に人差し指をあてた。
「こちら、イルミンスール魔法学校のブースですぅ。展示されているのは、アルマイン・マギウスとアルマイン・ブレイバーですぅ。とっても虫さんなイコンさんですがぁ、そのへんのことを質問してみたいと思いますですぅ」
メイベル・ポーターが、解説員をしている白砂 司(しらすな・つかさ)にマイクをむけた。
「よく聞いてくれた。ここにあるのが、我がイルミンスール魔法学校が誇るイコンだ。近接戦闘型をアルマイン・ブレイバー、遠距離攻撃型をアルマイン・マギウスと呼ぶ。
今日あることを予測したアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)様が製造、命名したイコンでもある。
これらは、他校のイコンとはまったく系統が違う、独自の機構を持ったイコンだ。
それは、パイロットに関しても言える。
通常のイコンは機晶エンジンに頼りっぱなしで、出力はある程度安定している。――もちろん、正規パイロットが二人ちゃんと搭乗しての話だが。――それに対して、アルマインの場合は、搭乗者の魔力によって性能が変わってくるのだ。まさに魔法学校の生徒のためのイコンと言えるだろう」
いかにも自慢げに、白砂司が説明した。
オリジナルの機体は、世界樹の地下深くに埋まっていた物であり、それを元にしてアーデルハイト・ワルプルギスが量産化にこぎつけている。とはいえ、数はまだそれほどに多くはない。
昆虫然としたシルエットが特徴的で、外骨格とも言える外部装甲は、ある程度の自然修復能力を持つという驚異的なものである。その一点だけを見ても、アルマインが他のイコンとはまったく違う物であるということが分かろう。もっとも、損傷程度の傷が自己修復の限界であり、欠損になると本格的な修復作業を行わなければ元に戻すことはできない。
また、ブレイバーは翅脈を持つ細めの翅を、マギウスは蝶を思わせる巨大な翅を背部に持っている。とはいえ、これで直接はばたいて飛ぶわけではない。普通に考えるとマギウスなどは空気抵抗で進路が一定しなさそうであるのだが、実際の機動性はイーグリットを凌ぐのではと一部では噂されている。
ボリュームのある胴体下部からのびた脚は、昆虫か鳥を思わせる爪がついており、あまり歩行に適しているとは言えない。やはり、基本は飛行である。
固定武装のマジックソードやマジックカノンは、パイロットの魔力に反応して威力が変わり、特にカノンは高レベルの魔法使いが扱えばイコンの持つ兵器中でも最大火力を有する物となる。
「た、頼む、説明を……」
ぼろぼろになったロイ・グラードが、懲りずにキャンギャルに説明を求めた。
「説明ですか? やんなきゃダメ? ですよね」
さすがに、適度に威圧感が薄れたのか、スク水を着てしきりにポーズをとっていたサクラコ・カーディが臆せず答えてくれた。
「よいしょっと乗って、ぎゅーんと動かすと、ばびゅーんと飛んでくんです。で、えいやってやると、どーんとなるんですよー。ふふん、これでとりあえず、一丁あがり……ですよねえ。それより、こんなポーズはどうですかあ。写真撮るならどうぞー。ただいま特別悩殺ポーズサービス中でーす」
まったく訳の分からない説明を適当にしてから、サクラコ・カーディがぺったんこな胸にでかでかと名前を書いた布を縫いつけたスクール水着で悩殺ポーズをとった。
常闇の外套が、もの凄く残念そうな顔をしたが、そこは布のこと、表情は表には現れない。
「ちょっとそこの人。怪しいですね。所属校と姓名を名乗ってください」
ナナ・ノルデンが、ロイ・グラードをチェックしていった。ズィーベン・ズューデンがどこかに行ってしまったので、しかたなく一人で見回りを実施中だ。それでも、しっかりと目を光らせてアルマインを守っている。
「あらあ、警戒厳重ですねー」
黄色いコートを着て、てっぺんにふわふわの綿毛のついた帽子を被り、白い手袋をつけたエメラルドが、その様子を見て別のブースへとむかった。この格好で、フェレットでもいたら、モンキーダンスが得意などこぞの姫のようだ。
「うーん、本当に構造からして別物みたいだわね。これじゃ、整備方法も、イーグリットとはまったく別なんでしょうねえ」
「とりあえず、パンフレット、あそこのスク水少女からもらってきたでござる」
アルマインのあまりの異質さに困惑気味の天貴彩羽の許へ、スベシア・エリシクスがパンフレットをもらって戻ってきた。
「アルマインかあ。生物っぽい構造みたいだけれど、ほんとにメンテナンスはどうしてるのかな」
十七夜リオも、整備科としてどんどん疑問があふれてくる。
「メンテナンス一つとっても、燃料の補給とか、装甲の材質とか、いろいろと分からないことだらけだね」
「そうだよね。なんか、ぶよぶよして格好悪いよね」
フェルクレールト・フリューゲルが、変な相づちを打った。
「ふっ、理由が、必要か? その程度のことも見抜けないとは……。アルマインの秘密は、安泰のようだな」
ちょっと思わせぶりに、白砂司がつぶやいた。
「教導団のイコンはちょっと無骨だと思うけど、このイコンはまさに異質だな」
「ええ。パンフレットによると、異界での活動も可能ってあるわ。でも、異界って何。そこの説明員さん、ちゃんと説明してよ」
トマス・ファーニナルにうなずいたミカエラ・ウォーレンシュタットが、白砂司をつかまえて訊ねた。
「よくぞ聞いてくれた。それこそ、アルマインが誇る数々の性能の一つ、たとえナラカであろうと、アルマインでなら自由に活動できるはずという……」
「はず? はずと言うことは、実際に確かめたというわけではないんですね」
「いや、さすがに、どうやって異界にイコンを持ち込めばいいかまでは……」
「さすがに、その方法は未知だな」
ちょっと言いよどむ白砂司に、普通にトマス・ファーニナルがうなずいて同意した。
「異界ですかあ、面白そうですねえ。一度ぐらいは行ってみたいものですわあ」
そばで話を聞いていたチャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が、そうつぶやいた。
「それに、運べないのであれば、自分で道を開けばあいいのにい」
チャイ・セイロンはそう言うが、そんな力がアルマインにあるなどという話は誰も聞いたことがない。とはいえ、アルマインにはまだ秘密の力がありそうだというのは、もっぱらの噂ではある。いや、アルマインに限らず、イーグリットを始めとするすべてのイコンには、何か秘められた力があるのではないのかというのは以前から言われていたことだった。だが、まだそれを公に証明した者はまだいない。
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