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リアクション
★ ★ ★
「はーい、いらっしゃい、いらっしゃい。各校の校章デカール、特価販売中なんだもん!」
丸めたパンフレットでパンパンと机を叩いているのはミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。ディスティン商会として、イコン用のデカールを販売しているのである。もちろん、イコン用なので、もの凄くでかい物が多い。が、中には、メンテナンスハッチ用のマーカーなどもある。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
広げられたデカールをひょいとのぞき込んだ月詠司に、和泉 真奈(いずみ・まな)が声をかけた。
「うーん、お土産に何かいい物はないかなあと思いまして」
様々な形のデカールを見比べながら、月詠司が答えた。
「これなんか、どうなんだもん?」
ミルディア・ディスティンが、ビリヤードボールのエンブレムを差し出してみせる。
「いや、そういうのはちょっと……」
「でしたら、これはいかがでしょう」
和泉真奈が、丸の中に縦線三本横線一本斜め線二本のマークが入ったエンブレムを選んでみせた。
「そういう暴走しそうなのはちょっと……」
「好みがうるさいんだもん。だったら、この宇宙で敵対するロボット二勢力の……」
「あっ、いや、これでいいです、これで」
なんだかとんでもない物を押しつけられそうな気がして、月詠司がさっさと無難なイルミンスール魔法学校の校章のデカールを選んだ。
★ ★ ★
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。最新版のイコンプラモデルだぜ。早い者勝ちだ!」
テーブルの上に、所狭しとプラモデルの箱をならべて天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)が商売をしていた。
だが、ちっとも売れない。
せっかくのイコン博覧会なので、イコンのプラモデルは馬鹿売れだろうと踏んでいたのだが、これではあてはずれもいいところだ。
他にも、イコンシールとか、カードつきのイコンスナックとか、イコン食玩とかいろいろとりそろえているのに、今ひとつ売れ行きがおかしい。
「ん、イコンプラモですか。どれ、これもお土産に……」
通りかかった月詠司がイーグリットの箱を取りあげてしげしげと眺めた。
「なんだ。パチモンじゃないですか。微妙に名前が違いますし」
そう言うと、月詠司は箱を元の位置に戻して立ち去ってしまった。
どうやら、天真ヒロユキは非正規品をつかまされてしまったらしい。よくよく製造元を見ると、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の関連企業ではなくて、なんとか教団と掠れた文字で印刷してあった。
「仕入れ先の選択を間違えたのか……。これじゃ、今月の食費が……」
「ユキヒロさーん、お土産もらってきましたよー」
これじゃないイコンの在庫の山を前にして天真ヒロユキが途方に暮れていると、山ほどチョコをかかえたテオドラ・アーヴィングが戻ってきた。どうやら、今日の食料はチョコで決まりのようである。
「ほら、1/144チョコームラントのプラモデルも、もらって来ちゃいました」
「む、そっちは公式か……」
なんだかちょっと悔しい天真ヒロユキであった。
「すいませーん、プラモあります?」
「はいはい、ありますぜ!」
天貴 彩羽(あまむち・あやは)に声をかけられて、天真ヒロユキはテオドラ・アーヴィングの持って来たプラモを売り物の上に混ぜると、ニッコリと営業スマイルを浮かべた。
★ ★ ★
「変わりまして、ここでは、イコンが簡単なパフォーマンスをしたり、講演が行われたりしていますです」
個人ブースの外れの方までやってきた日堂真宵が、そちらにカメラをむけた。
「はーい、箒から梯子ー。次、シャンバラ宮殿いきまーす」
深き森に棲むものに乗るカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、外部スピーカーを使って説明をした。
なんと、アルマイン・マギウスで、あやとりのパフォーマンスをして見せているのである。
生物的なアルマインだからこその技とも言えるが、戦闘にはあまり意味がない。
パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、毎回させられる妖精のコスプレを嫌ってか、模擬戦を観戦しに行ってしまっている。もっとも、戦闘や移動をするわけではないので、操縦者が一人でもこの場合は問題ない。
「器用なものですね。どうやって操縦しているのでしょうか」
珍しい物を見られたと、月詠司が感心する。
「はい、このようにみごとに新シャンバラ宮殿が……、あれ? あれ、あれっ!?」
華麗にあやとりを続けて見せていたかに思えたカレン・クレスティアであったのだが、やはり、そうそううまくはいかなかったようだ。ぶっといロープを使っていたのだが、みごとに指の関節に引っかかってしまい、絡まって何が何だか分からないものになりつつある。
「ここから、本気モードだよ! ええと、これが、今後改装予定の新シャンバラ宮殿で……」
あわててカレン・クレスティアが取り繕おうとするが、無理がありすぎだ。
「あのように、イコンには日常生活に溶け込む可能性があるのです。あっ、申し遅れましたが、俺は、パラミタ旋風クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)、お呼びとあれば即参上! と申します。ぺこり」
「現代イコンの歩みと、今後の動向について」と垂れ幕に大きく書かれた壇上で熱弁をふるっていたクロセル・ラインツァートが、カレン・クレスティアの深き森に棲むものを指さして言った。ちゃっかりと、実例に利用するつもりらしい。
「シャンバラがイコンを実戦に投入してからすでに一年が過ぎようとしています。地球の技術を導入したイコンは、人類の第二の故郷となりつつあるパラミタで、製造され、運用され、そして破壊されていきました。西暦2020年、シャンバラは独立国家設立の宣言をし、エリュシオンから東シャンバラを取り返しました。この数ヶ月の戦いで、俺たちは多数のイコンを失い、その自らの行為に恐怖しました」
なんだか、どこかで聞いたような説明台詞がクロセル・ラインツァートの口から流れる。
「けれども、イコンはただ兵器なのでしょうか。その普及速度には目を見張るものがあります。これだけ個人にイコンが普及した今、各学校に兵器として着々と配備されていくだけではなく、イコンで買い物にむかう者が現れても咎められることがないなど、すでに一般市民にも異常なぐらい抵抗なく受け入れられているのです。これは、イコンが兵器としてよりも、乗り物として認知されていることの証しなのではないでしょうか」
すーっと、クロセル・ラインツァートが大きく息を吸い込む。
「そこで、俺は言いたい、イコンはママチャリであると!」
突然の論理の飛躍に、熱心に聞いていた月詠司がコケそうになった。
「昨今のイコンには、パラミタのみならず地球の技術が用いられ、各学校で様々な特徴を持ったイコンが生み出されています。そう、業界の傾向は特化にあるのです。その方向性の一つに、家電化があっても間違いではありません。同様の方向性として、パラ実では、イコン=ちょっとお茶目な二足歩行デコトラという認識がすでに広まっていると聞いております。つまり、イコン業界では、イコン=動力つきの乗り物というカテゴリー認識ができあがりつつあるのです。5000年間止まっていたパラミタの技術と、急速に発展する地上の技術、つまり、これは相対的にイコンに利用される技術比率が、じょじょに地球側にシフトしていくことを意味しています。以上のことをふまえ、機晶モーターつきアシスト自転車のことをイコンと呼ぶような日がくるのも、そう遠くはないのです!」
なんだか途中で無茶苦茶な論理の飛躍があった気もするが、最近では生き物までイコン扱いしだす者や、はては、「俺がイコンだ!」と自称する者まで現れる始末で、個人のイコンという物の定義は無茶苦茶になりつつある。はたして、本当にイコンはママチャリなみになっていくのであろうか。
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