リアクション
個人ブース 「はい、こちらイコン博覧会の個人展示ブースからお届けしています」 マイクを持ったシャレード・ムーンが、様々な意匠のイコンが建ち並ぶ会場をサーッと手を広げて指し示しながら言った。 学校展示ブースとの境近くにおいてあったのは、水無月睡蓮の羽々斬丸だ。 ノーマルの雷火に、クレイモアとショットガンを換装した物となっている。そのため、刀と剣のバランスが違うので、左右非対称のシルエットとなってしまっている。それを支えるだけの出力アップは図られているが、安定性を保つのは大変だろう。 「こんな物が神の代理を名乗るだなんて、感心できないのです。まして、邪教であれば、なおさらなのですわ!」 持ち主たちがいないのをいいことに、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が、羽々斬丸を足でゲシゲシと蹴っ飛ばしていた。 「テスタメントが、主なる神に代わっておしおきします!」 そう言いながら、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは羽々斬丸を蹴り続けた。だが、小柄な彼女が蹴ったところで、巨大なイコンがミリほども動くわけもない。 「あの子ったら、大切な機械に何をしてるんだもん!」 ちょうど通りかかった朝野 未沙(あさの・みさ)が、珍しく怒りを顕わにした。機械修理を生業としている者としては、機械を足蹴にする人間を放置しておくことはできない。 つかまえて説教してやろうと思い、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの方へ行きかけた朝野未沙の横を、大柄な男がスッと追い越していった。 「こら、意外な所で姿を見たと思ったら、貴様何をしている」 偶然通りかかった土方 歳三(ひじかた・としぞう)が、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの襟首をつかんでそのまま上に持ちあげた。 「ちょっと、土方歳三、なんでこんな所にいるのです!」 小動物のようにジタバタと手足を動かして、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが叫んだ。土方歳三に睨まれて、慌てふためいている。 「何をしている……」 「ひーっ」 何か、土方歳三の背後にドドドドドドドド……という書き文字が見えるようで、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが悲鳴をあげて縮こまった。 「だから、テスタメントは異教……」 「はあ、なんだってえ」 ちょっと小首をかしげて耳を突き出すと、土方歳三が聞き返した。 「ひーっ」 「まあまあ」 あまりにベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが怯えるので、見かねた朝野未沙が二人の間に割って入った。本来は、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントを懲らしめて、あんなことやこんなことやそんなことやムフフのことをしようと思っていたのに、なんだか拍子抜けだ。 「うむ」 しかたなしに、土方歳三が手を放す。 ストンと地面に下りたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、あっかんべーをして一目散に逃げだしていった。これは、後が怖い。 「すまんな、手間をかけた」 そう朝野未沙に言うと、土方歳三がおもむろに漫画原稿用紙を取り出してイコンのスケッチを始めた。 「へえ、上手なんだもん」 ラフスケッチをのぞき込んだ朝野未沙が、興味深そうに言った。 「漫画の資料だ。またとない機会だからな」 答えつつも、土方歳三はどんどんコンテを走らせていった。 「あれっ、こちらにも雷火がありますね。あまり変わってはいないようですが」 学校ブースを一通り見て流れてきたテオドラ・アーヴィング(ておどら・あーう゛ぃんぐ)が、羽々斬丸を見てつぶやいた。 でも、まだ個人ブースの入り口だからと思いなおして、そのまま奥へと進んでいく。 「いたいた。おーい」 ノーマルのコームラントを駐機場に預けてきた杵島 一哉(きしま・かずや)が、先に会場入りしていたアリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)に手を振った。 「駐機場も一杯だったので、ちょっと手間取りました」 「イコンは大きいですから」 しかたがないとアリヤ・ユーストが答えた。 「じゃあ、さっそく見て回るとしますか」 「はい」 データを記録するために銃型ハンドヘルドコンピュータのスイッチを入れると、アリヤ・ユーストは杵島一哉についていった。 「パラダイスでーす♪」 右をむいてもイコン、左をむいてもイコン。 「新型はどこなのー」 イコン好きにとっては至福の空間にうっとりしながら、イナ・インバース(いな・いんばーす)は走りだした。 「ひゃっ」 走りだすイナ・インバースに弾き飛ばされそうになって、藤井 つばめ(ふじい・つばめ)が小さく悲鳴をあげた。 「人がたくさんです。やっぱり、みんなと一緒に来ればよかったのですね」 人並みに流されないようにしながら、藤井つばめは個人ブースの方へと進んでいった。 |
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