校長室
イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
リアクション公開中!
★ ★ ★ 「やっぱり格闘戦はいいなあ。できれば、刀による斬り合いも見たかったところだけれど」 観客席で観戦していた神和 綺人(かんなぎ・あやと)が、ちょっとわくわくしながら言った。 模擬戦会場近くの観客席では、肉眼で観戦できると同時に、巨大スクリーンでアップの映像も楽しめる。 「アヤったら、いつの間にイコンに興味を。やっぱり、殴り合いはロマンですよね。でも、できれば私は生身の方が……」 「クリスに本気で殴られたら即死だろうが」 それだけはやめろと、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)がクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)に言う。 「あのー、さっきからあのイコン、実弾使ってませんか?」 神和 瀬織(かんなぎ・せお)が、素朴な疑問を口にした。 「そういえばそうだな。流れ弾とか来たらまずくないか?」 ちょっと嫌な顔をしてユーリ・ウィルトゥスが言った。 「模擬戦のはずだけど。まあ、ビームや剣で寸止めも難しいからね。どのみち殴り合えば壊れるし」 それはそれでと、神和綺人はあまり気にしていないようであった。 「まあ、イコンだと命のやりとりがあまり感じられないから好きではなかったのですが。やはり戦いとはこういうものなのですね」 「おいおい」 ちょっとうっとりするような神和瀬織に、ユーリ・ウィルトゥスが突っ込んだ。 「大丈夫みたいですよ。戦いは殴り合いになってるみたいです」 クリス・ローゼンが、模擬戦の方を指さして言った。 「結局接近戦か!」 マジックソードでかろうじてメカ雪国ベアのマジックカノンを破壊した緋桜ケイが言った。 「武器の威力ではこちらの方が上だ。一気に決めてしまえ」 「そうは言うが……」 最初に左腕をやられたのが痛かった。バランサーが、姿勢を補正しきれていない。 「御主人、例の奴よろしく」 「まっかせなさい!」 ソア・ウェンボリスの操作するマフラーパンチが、センチネルの顔面をめがけて繰り出された。 「ケイ! 上からくるぞ!」 「分かってる」 待ってましたとばかりに、センチネルがマジックソードを下から斬り上げた。切断されたマフラーパンチがクルクルと弾け飛んで、ズンと地面に落ちてめり込んだ。 「これを待っていたぜ。ダークネスベアクロー!」 満を持して、雪国ベアが、メカ雪国ベアの本来の腕によるパンチを、斬り上げて両脇ががら空きになったセンチネルに叩き込んだ。 「うわっ」 胴部がひしゃげる前に、緊急脱出装置によってコックピットが背部から射出された。乗り手を失ったセンチネルがどうっと後ろに倒れる。 「うおおおお、やったぜ!」 勝ち誇った雪国ベアが、巨大なマフラーパンチを頭上に上げてアピールしようとしたが、すでに両方とも切り落とされてついてはいない。しかたなく本来の腕を振り上げて、メカ雪国ベアが勝ち名乗りをあげた。 ★ ★ ★ 「面白い見世物だった、だがこれで終幕だ。我(われ)が敗者に止めを刺すまでもなく終わってしまったか」 丘の上で地面にぴったりと寝そべりながら、大型レールガンの標準を戦いの場にむけていたジュレール・リーヴェンディが、もの凄く残念そうに言った。 そのスコープの中には、まだメカ雪国ベアが映っている。 「とりあえず、対イコン戦の訓練として、射撃訓練だけは続けるとしよう。まあ、たまに間違えて実弾が出てしまったとしても、それは事故であるしな」 ちょっと怖いことを言いながら、ジュレール・リーヴェンディは次の試合が始まるのを待った。 ★ ★ ★ 「展示ブースの方は諦めてちょっと寂しかったけど、やっぱりこっちに来て正解だったよね」 須藤 香住(すどう・かすみ)が、のんびりとサンドイッチを頬ばりながら言った。 観客用の桟敷席に、ブルーシートを広げてみんなで集まっている。気分はすっかりピクニックだ。 「そりゃよかった。これだけの大荷物、ここまで運んだかいがあったぜ」 ブルーシートの上に大の字にひっくり返りながら、ジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)が言った。 祠堂朱音たちは四人連れだというのに、運んできた弁当はゆうに十人分はあるように見える。そのほとんどをジェラール・バリエが運んできたのだから息も切れようというものだ。 「どうせなら、イコンに乗ってきたシルフィーナがそのまま運んでくれればよかったのに」 「イコンでここまで入れるわけないじゃない」 遅れてやってきたシルフィーナ・ルクサーヌが、無茶を言うなとジェラール・バリエに言う。 「あ、何か始まるみたいだよ」 須藤香住が、模擬戦会場の方を指さして言った。 淡い紫色のイコンが観客席の正面に進み出た。リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)の閃光甲冑・鳥兜だ。雷火をベースとしているが、その外観はイーグリットに近いと言えるだろう。デザインコンセプトとしての雷火は、微塵も面影が残ってはいない。多面体で構成された装甲は、幾何学的な美しさを擁している。特に、背部にX状に広がった部分が特徴的ではある。 「第二試合までの間、リアトリス・ウィリアムズさんの演舞が行われます」 シャレード・ムーンのアナウンスが響いた。 「あーん、よく見えないよ。うーん、ジェラール、だっこー!」 「なんだとー」 人垣で閃光甲冑・鳥兜がよく見えない祠堂朱音が、ジェラール・バリエにねだった。 「ねっ、お願い♪」 「はいはい、お姫様、どうぞ、これで満足ですか?」 しかたなく、ジェラール・バリエが甘える祠堂朱音をだきあげる。 「わーい、よく見えるー」 会場には、ヴィヴァルディの「冬」がBGMとして流れ始め、鬼刀を持った閃光甲冑・鳥兜が演舞を始めた。 だが、演舞とはいえ、その実体はクラシックをBGMにしてフラメンコのダンスパターンで剣舞をするというものだ。はっきり言うとごちゃ混ぜで何が何だか分からない。 極端に機動力を上げているので動きは悪くないが、基本的にイコンに激しい踊り、特にステップを多用させるようなものは機体にかなりの負担をかける。飛行型のイコンが空中でステップを踏むのであればまだしもだが、地上型の閃光甲冑・鳥兜が激しいステップを踏む度、膝の関節が激しいきしみ音をたてた。 「ずいぶん無茶をするではないか、あれでは、イコンがもたんだじゃろうに」 各部から微かに煙があがっている気がして、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が言った。 「むしろ、未だに分解しないことを褒めるべきではないじゃろうか」 アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が、妙なところを褒める。 「ようし、アリア、そろそろフィニッシュだ。華麗に舞うよー」 「おう、アリス、一気に決めよう」 メインパイロットのリアトリス・ウィリアムズとサブパイロットのメアトリス・ウィリアムズ(めあとりす・うぃりあむず)が、息をぴったり合わせた操縦モードに入る。 閃光甲冑・鳥兜が、より激しい動きになった。 タンと、最後にポーズを決めて、閃光甲冑・鳥兜がりっぱに踊りきる。 コックピットを開いて姿を現したリアトリス・ウィリアムズとメアトリス・ウィリアムズが、歓声の中で観客たちに一礼した。