校長室
イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
リアクション公開中!
「威崑四天王キングリーダーのナガン!」 キングクラウンの上に立ったナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が、腕組みをして仁王立ちの姿で答えた。 いかにもパラ実のイコンらしいキングクラウンは、喪悲漢を改造したイコンで、巨大なピエロの顔に、脚と、お下げのような腕がついているイコンだ。白塗りの顔は、ある意味ストイックで不気味ではある。それ以上言いようがないというところが、このイコンの特徴を端的に言い表している。 「うひゃひゃ、こいやぁ! 威崑四天王グレートリーダーのゲブー様よぉ!」 キングクラウンの横では、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が愚零吐・ゲブー・喪悲漢のモヒカンブーメランの上で高笑いをあげていた。見た目はまったくノーマルの喪悲漢と一緒だが、あちこちにデカールやトゲをつけてそれなりのオリジナル性を出している。だが、それ以上に性能はかなり強化されていた。見た目だけで侮ると痛い目に遭うということだ。 ゲブー・オブインの雄叫びに合わせて、すでに乗り込んでいるホー・アー(ほー・あー)が愚零吐・ゲブー・喪悲漢にもガッツポーズをとらせる。 「威崑四天王ゴッドリーダーのチエ!」 御弾 知恵子(みたま・ちえこ)が號弩璃暴流破の離偉漸屠キャノンの砲身の先に立って名乗りをあげた。操縦しているサブパイロットのフォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が、操縦装置のゲームパッドを操り、両手を上にむけて空砲を発射する。これでも、パラ実のイコンとしては、複雑な操縦方法である。 こちらは、愚零吐・ゲブー・喪悲漢とは対照的に、ほとんど原型が残っていないぐらいに改造が施されている。 頭頂にある離偉漸屠キャノンこと號弩魔紅南無(ゴッドマグナム)はリボルバー型で、右腕にアサルトライフル、左腕にスナイパーライフルが内蔵されている。一門ずつしかないのに砲身が四つずつあるのはパラ実としては当然の見栄である。 いぶし銀のボディに赤と紫のカラーリンクをされた機体は、いかにもニヒルな悪い顔というところだ。さりげなく、顎の所に璃暴流敏紅・挽歌(リボルビング・ばんか)と名づけたパイルバンカーが隠し武器として装備されてもいる。 ところで、先ほどから、全員が自分をリーダーだと言いはっている気がするのは気のせいだろうか。 「ひゃっは〜 最後に控えている私は、威崑四天王ギガリーダーの神楽月九十九です。以後、お見知りおきを……でいいんですよね?」 神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)が、離偉漸屠をベースにしたギガキングドリルの上で、ちょっと恥ずかしそうに名乗った。 「キングドリル、熱い合体よ!」 神楽月九十九が片手を突きあげて天をさすと、曇天の一点がキラリと光った。 そこから、ドリル型機晶姫、装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)が真っ逆さまに落ちてきてギガキングドリルの脳天にぶっすりと突き刺さった。 「究極合体、ギガキングドリル!」 もの凄い勢いで突き刺さったのだが、それで内部機構は大丈夫なのだろうか。 前に垂れ下がっていたドリル型の離偉漸屠キャノンがクルリと曲がってカチンと額に収まった。その下から、装着型機晶姫キングドリルと同じ、渋い髯面のおじさんの顔が現れる。全身金ぴかのボディに、額と両腕の銀色のドリルがいかにもど派手で、かつ、渋い。 「俺ら、威崑四天王でえい!!」 名乗りと共に、四機のイコンの後ろでしょぼい色つきの爆煙があがる。予算の関係で、派手な物は用意できなかったらしい。 それぞれがポーズをとるが、これも全部バラバラでまとまりがない。まあ、パラ実だとこんな物である。 「いくぜ、野郎ども。とうっ」 ナガン・ウェルロッドのかけ声と共に、全員がイコンの顔面にむかって飛び降りた。大きく口型のハッチを開けた各イコンが、パックンとパイロットたちを呑み込む。すぐ閉まるはずのハッチが、なぜかちょっと上下に何度か動いてもぐもぐしているように見えたのはなぜだろうか。 「く、食われた!?」 ずっと唖然としていたリリ・スノーウォーカーたちが、さらに呆気にとらわれた。 「スキあり!」 その一瞬をついて、號弩璃暴流破がペイント弾を乱射する。 「きゃあ! リリのラルク・デ・ラ・ローズの美しい機体があ!!」 どす黒いペンキを機体になすりつけられて、リリ・スノーウォーカーが悲鳴をあげた。 「おしおきが必要だな」 平等院鳳凰堂レオが、リリ・スノーウォーカーに合図してコックピットの中へと戻る。だが、パイロットたちがシートに身体を固定する間もなく、ギガキングドリルが突っ込んできた。 「優勝した御感想をお聞かせくださーい!!」 ドーンと体当たりされ、ラルク・デ・ラ・ローズとアイオロスが後ろに倒れる。反動で、パイロットたちがイコンの外へと投げ出された。 「やり過ぎなのだよ。誰か彼らを……」 そこまでしたらまずいだろうとホー・アーが天に祈る。その瞬間、光の速さで何者かがリリ・スノーウォーカーたち四人を空中で受けとめて安全に地上に下ろした。 「すまぬな。彼らに悪気があるわけではないのだ。じゃっ」 逆光の中で二本指を立てて軽く挨拶をすると、救世主が再び光の速さで姿を消していった。 だが、その間に、ゲブー・オブインが愚零吐・ゲブー・喪悲漢で、アイオロスの機体に「威崑四天王参上!」と落書きを始めた。 「はははは、やーいやーい、ばーかばーか。俺たちに負けたということは、どうやら最強のイコンはこの威崑四天王の物のようだなァ!」 何もしなかったナガン・ウェルロッドが、勝手に勝ち誇る。 「そこまでだよ!」 突然の声に、はしゃぎ回っていた威崑四天王が振り返った。見れば、すぐ近くにカレン・クレスティアの乗った深き森に棲むものと、祠堂朱音と須藤香住の乗ったフォーチュンが駆けつけていた。ヴィゼント・ショートホーンの連絡で待機していたので、この乱入にすぐに駆けつけたのである。 「なんだ貴様ら。最強チームに勝ったこの最強威崑四天王の俺たちにたてつくってえのか。よし、俺たちの本気を見せてやるぜえ。キングクラウン、出力全開30%!」 ナガン・ウェルロッドが、悪役然と言い返した。ちなみに、今回はパイロットはナガン・ウェルロッドだけなので、出力は通常時の30%が限界である。 「なら、こっちも30%でお相手してやるんだもん」 言うなり、カレン・クレスティアがマジックキャノンを連射した。 「きゃー♪」 直撃を受けたキングクラウンが吹っ飛ばされてころころとどこまでも転がっていく。ほとんど球体に近い機体なので、とてもよく転がる。ほどなく、その姿は見えなくなった。 「あっ、やべえかな」 あわててとんずらしようとする愚零吐・ゲブー・喪悲漢に、フォーチュンが大型ビームキャノンの照準を定めた。 「朱音、馬鹿は吹っ飛ばしちゃえ」 「もちろんだよ!」 須藤香住に言われて、祠堂朱音が躊躇なくトリガーを引いた。 「ちょ、模擬戦だから安全だって聞いて……」 ちゅどーんと、愚零吐・ゲブー・喪悲漢が爆発と共に空に吹き飛ばされてお星様になった。 「わあ、お二人とも強いですねえ。でも、あの二人は、四天王の中でも下っ端。本当に強いのか、私が確かめてあげましょう!」 言うなり、神楽月九十九が、ギガキングドリルのドリルをギュンギュン回転させて深き森に棲むものにむかって来た。 「さあ、このドリルスピアを受けて……。あれっ?」 そのままドリルで深き森に棲むものを突き刺そうとするが、悲しいことにサイズが違う。深き森に棲むものの持つスピアの方が長かった。突進してきた勢いのままにギガキングドリルが串刺しにされる。 「飛んでけー!」 深き森に棲むものが思いっきりスピアを振り上げた。大きく撓ったスピアによって反動をつけられ、ギガキングドリルが空にむかって吹っ飛ばされる。 「以上、現場から神楽月九十九がお送りしました。それではさようなら〜☆」 そう言い残して、ギガキングドリルが、空のお星様の一つになった。 「ふがいないじゃん、その他大勢の四天王! やっちゃえ、フォルテュナ!」 「任せとけ、チエ!」 御弾知恵子に命じられて、フォルテュナ・エクスがペイント弾を乱射した。オレンジや赤いペンキが、容赦なく深き森に棲むものとフォーチュンの機体を汚す。 「きゃー、メインカメラが……」 視界をふさがれて、カレン・クレスティアがちょっと右往左往する。 「お待たせー。テロリストのイコンはどこー?」 そこへ、ローザマリア・クライツァールたちが二機の小型飛空艇ヴォルケーノに乗って駆けつけた。 「みんな、全弾一斉発射よ!」 ローザマリア・クライツァールの命令に、後ろに乗ったエシク・ジョーザ・ボルチェと、上杉菊の後ろに乗ったエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがミサイルポットの発射スイッチをポチッと押した。 攻撃を仕掛けているのは號弩璃暴流破だけなので、容赦のない一斉発射で雨霰とミサイルを號弩璃暴流破に浴びせかける。 ちゅどーんと、大爆発と共に吹き飛ばされた號弩璃暴流破の姿が見えなくなった。 「イコンが万能だとは思わないことね」 ちょっとすっきりして、ローザマリア・クライツァールが言った。 「ええと、何かとんでもない展開になりましたが、これで模擬戦会場からの中継を終わりたいと思います」 収拾がつかなくなり、シャレード・ムーンがなんとか無理矢理中継を締めくくった。