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まほろば遊郭譚 第三回/全四回

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まほろば遊郭譚 第三回/全四回

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第四章 洛外の戦い2

「瑞穂が藩内に半分の兵を残してるなら、そのまま瑞穂領内に貼りついててもらいたいところだな。そうすれば、目の前の敵に集中すればいい」
 扶桑の防衛に際して、風祭 隼人(かざまつり・はやと)はずらりと並んだ案山子兵を見て言った。
 遠目からは大兵力に見えるよう、敵に攻め込ませにくくするものだ。。
「そのためにも瑞穂領に向けての牽制は必要だ。瑞穂にこちらが攻め込む素振りを見せれば、被害を出すことなく半数の兵を相手にすればいいんだからな」
 彼はその時を待っていた。
 隼人は遠く狼煙(のろし)を見る。
 龍騎士が飛来したのだ。
「思ったより早かったかな。もう少し、睨み合いを続けたいところだったが、敵の軍師もなかなかやるものとみた」
 隼人が号令を出し、戦いの幕が上がった。
 瑞穂藩士である日数谷 現示(ひかずや・げんじ)のひきいた騎馬部隊も、一斉に動いているようである。


「私たちはまだ待機だね。瑞穂の意識を逸らして、動いたときに行動開始する」
 街道沿いに待機していた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)はタイミングを見計らっている。
「イルミンスールと扶桑の一件は考えると複雑な気持ちだが、俺達にできることをやるしかないな」
 待機している間、霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)はそのようなことを考える。
 だからといって、自分たちにできることはなんなのだろうか。
「俺はいつものように陽子さんの盾になったり、負傷者の傷の治療しかできないけどな……」
 そのとき、彼らの上空を龍の翼の影を落とした。
 泰宏は空を見て叫ぶ。
「敵……龍騎士か!」
「私たちの裏をかこうってこと? 許せない!」
 龍騎士は透乃たちをあざ笑うかのように大きく旋回している。
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が時計を見た。
「時間です。私たちもいきましょう。敵本陣へ向けて、行動開始です」
 陽子の用意した機晶スナイパーライフルが、龍騎士に向けて標準をあわせている。
 魔弾が発射させると同時に、月美 芽美(つきみ・めいみ)が躍り出た。
「私はいつもどおり殺すことしか考えてないわ。そのための戦場! その舞台が用意されているだけでいいの!」
 芽美は魔弾の着弾を確認すると、龍殺しの槍を構え瑞穂藩兵へ突撃する。
 すれ違い様刺し、斬りつけ、陣内をかき乱していた。
「これで何人、巻き込むことができますかね? 簡単には進ませんよ!」
 陽子は再度、ライフルに着火する。
 敵の出足を挫くには十分であろう。


卍卍卍



「わたくしたちも葦原藩の一員として戦います。暁津藩の協力を取り付けたかったところですが、仕方ありません」
 ユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)は、嘆く暇もなく戦場に身を投じている。
 ユーナは暁津藩脱藩浪士梅谷才太郎がいれば、この状況を打開できると考えていたが、願いは叶わなかった。
「ならばわたくしたちが、マホロバという国を思う姿勢を、実際の行動に移して見せるのみです。仲間の危機を救うために……!」
 ユーナとともにシンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)も覚悟をきめている。
「暁津藩の方が譲歩しないというなら、私たち葦原藩の方が譲歩するしかありません。見栄は捨てて挙国一致体制をとらなければいけません」
 シンシアには懸念もあった。
「鬼鎧の数も、それに乗る兵も少ない。私たちができるのであれば……やるしかありません」
 彼女たちは自ら志願して、鬼鎧を借り受けていた。
 悪戦苦闘しながら、鬼鎧を動かすユーナとシンシア。
 新型の鬼鎧『玉霞』はこれまでからさらに改良を加えられて軽量になっており、機動性はむしろ上がっている。
 しかし、彼女たちが鬼鎧に馴染むまでは、死角も隙もできる。
 ユーナたちを案じながら、山田 朝右衛門(やまだ・あさえもん)は同行していた。
「自分たちが、暁津藩の彼らと共に戦えないのは残念ですが、もしどこかで私たちの姿を見ているのならきっと思いは伝わるはず。そう信じて戦います!」
 朝右衛門は剣を抜き、鬼鎧の動きに合わせて援護をする。
 鬼鎧が軽量化に成功し機動性が上がったとしても、以前として力と防御力は圧倒的であっても、人間ほど細かで複雑な動きは難しい。
 山田流居合い術の達人である朝右衛門は、剣でそれに応える。
「自分たちはここで負けるわけには行きません! 国を守るため、身命を賭して戦うのみ!」
 彼は己の剣にすべてを賭けていた。


卍卍卍



「忍よ、そう心配せずともよい!あの者達が成功するのを信じて、我らは我らのやるべきことをやり遂げればよいのじゃ!」
 織田 信長(おだ・のぶなが)はイコン六天魔王に乗っている。
 同乗者の桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は、イコン用のセンサーの目玉の形をした水晶体から戦況を伺っていた。
「信長の言う通りだ。いくら心配しても戦況が変わるわけでもないし。よし、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)さんたち強襲班や、葦原藩として参加しているユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)さんたち、皆を信じて俺達もここを絶対に防衛しよう!」
 信長は作戦前に皆で合わせた時計を見ている。
 針が進むにつれ、離れていても心が一つになるような気がする。
「……3、2……ゆくぞ、忍! 『六天魔王』の力、見せ付けてくれようぞ!」
 イコンに武装している第六天魔砲が始動し、六天魔王のマントをはためかせた。
 無風状態だったはずが、どこからともなく風が巻き起こり、竜巻へと姿を変えていく。
 それは嵐となって天空の龍騎士へ襲いかかっていた。
 六天魔王による『魔術』であるという。

「織田さん、六天魔王はすごいな。あんな嵐を巻き起こせるなんて……!」
 マホロバに義理の姉を探しに来たという蘇芳 秋人(すおう・あきと)が感嘆の声を上げていた。
 パートナーの蘇芳 蕾(すおう・つぼみ)に話しかける。
「でも、瑞穂藩からの長い補給線で、長期戦に持ち込めばこっちの方が有利なはず。無理はしない落とすだけ落としたら、後は地上の侍や鬼鎧たちに任せたらいいよ。さて、準備はいいかい。オレたちも行くよ」
「はい……秋人様。私は……ただついていくだけですから」
 蕾の感情のともなわない声だけが響く。
 その無表情とは対照的に、彼女のしなやかな指がコンソールキーを尋常ではない速さで叩いていく。
 イコントリスタンの軌が点り、大口径のビームキャノンで射撃した。
 龍騎士は砲撃を避けようと大きく旋回する。
 ふと蕾の動きが止まった。
「秋人様……義姉様はここにはいないようです……」
「そうか。それは良かった」
「……?」
「義姉さんがいたら、こうやって思いっきり……暴れられないだろうからな!」
 秋人の口調が変わり、次々に砲撃を浴びせていった。
 信長と忍の乗る六天魔王と交互に、龍騎士を揺さぶっていく。
 六天魔王は弾の種類を変えては、撃ちこんでいた。
 忍が叫ぶ。
「俺がこうしてるのは、マホロバや皆を助けてあげたい、ただそれでけだ!」
 空中に黒い翼と光弾が交錯する。
 龍騎士は槍を突き立て、イコンの動きを塞ごうとしていた。
 素早い動きがイコンを放浪する。
「……被弾率は……大丈夫……私は秋人様の為だけのもの……こうやって使われるのが……一番の幸せ……」
 蕾は秋人とともに、こうやって戦うことに喜びを見い出していた。
「この場所を……渡してあげないのですから……」
 彼女にとってこの場所とは、他ならぬ秋人の側という意味なのだろう。
 扶桑の空はいくつもの火花が散っていく。
 やがて援軍、マホロバ軍艦の援護射撃がはじまった。