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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

リアクション


第十七曲 〜The Answrer〜


(偽装?)
 綺雲 菜織(あやくも・なおり)はパイロット科長にテレパシーを送った。
 青いイコン――「暴君」への対処の仕方だ。
(F.R.A.G.第一部隊は「主戦力を除いて」撤退しました。交戦の意思もなし。しかし、完全に撤退してもらうには、『暴君が撃墜された』としなければなりません)
 この地球に対する脅威が消えなければ、F.R.A.G.は組織上の問題で撤退が難しい。
(そのための『偽装』です。それを使って、F.R.A.G.に撤退を促してもらえませんか?)
 現場の指揮官は五月田教官長だが、司令官は科長だ。
(私から言わずとも、「暴君」が沈黙すれば残りも撤退するだろう。今回の軍事的制裁だって、おそらく形式的なものだ。少なくとも現場の人間は物事をわきまえているはずだ)
 科長の後は、直哉に連絡を行い、自分が何をしようと考えているかを伝える。
 難しいかもしれないが、実行したい。それが、シャンバラと地球を繋ぎとめるだろうから。

(・サタン2)


(ははは、やるじゃねーか。そうだ、もっと楽しませてみろよ!)
 【ルシファー】と【ベルゼブブ】の連携により、確かに【サタン】のフィールドを破って中の機体に電撃を送り込むことには成功した。
 だが、当たった直後から機体が自己修復を始めた。恐るべき再生力である。
『どういうこと!? 超能力を使う機体ってだけじゃないの?』
 確かに、ナノマシンによる修復機能は有していると、メニエスはウェストから聞いていた。だが、瞬間的に直るほどではない。そのはずだ。
『潜伏している間に、変質したようだ。もはやウェストのデータは役に立たん』
 そこからは二機とも防戦一方だった。
 攻撃が当たっても、次の瞬間には再生されていたのではキリがない。

(奴を倒すには、あの再生力を上回る速さで有効打を与え、動力炉を破壊するしかないのか)
 榊 孝明が顔を歪める。
 これは絶望的な状況だ。ただでさえ「暴君」は化け物染みた攻撃力と防御力を誇っている。仮にそれを破ったとしても、すぐに再生されてしまう。
 もちろん、障害はそれだけではない。あれを完全に破壊して、中のパイロットの息の根を止めようとしている者がいる。そちらの対処も必要だ。
「……椿、すまない。俺と一緒に来てくれるか?」
 BMIのリミッターを解除する。共鳴が起こるかもしれないが、「暴君」と同様に戦場の思考を読めるようになれば、あるいは――。
「付き合うよ。さて、今回こそ決着をつけようじゃないか」
 益田 椿も覚悟を決めた。
 それまで35%に設定していたシンクロ率を上昇させる。
(飲まれるな。俺はもう殺さない。殺させない!)
 スナイパーライフルのビーム弾をサイコキネシスで撃ち出しながら、「暴君」へと近付いていく。

(風花、「暴君」はこのままでは辛い。覚醒を使うぞ!)
(了解しましたぇ。長時間の覚醒使用は危険ですから気をつけて下さい)
 御剣 紫音は【フェイトブレイカー】で覚醒を使う。
 イーグリット・ネクストの限界機動で「暴君」に迫る。
 【クラースナヤ】の援護を受け、エナジーウィングをシールドとして展開し、「暴君」の衝撃波を受け止める。
 そこから斬撃を繰り出すが、すぐに再生されてしまう。それが機体の心臓である動力炉には届かない。
(紫音、小隊の皆さんの位置データを転送しますぇ)
 綾小路 風花からの報告を受け、味方が狙いやすいように敵を誘導していく。自身もプラズマライフルを構え、放った。
 だが、衝撃波との相性は最悪だ。機体に到達する前に、やはり弾けてしまう。

『――『女神の祝福』起動!』

 ニュクスの声が響く。
 「絶対防御領域」の展開。十分間のみあらゆる攻撃を無効化する最強の盾が展開される。
『今のうちよ!』

 シャンバラに「暴君」が出現したときもそうだったが、チャンスは今しかない。

* * *


「ここからが正念場だ。いこう」
 【ヴァイスハイト】はシンクロ率を上昇させる現在は50%。そこから一気に上げていく。
 「暴君」に向かって斬撃を繰り出す。その際、相手がやっているように真空波を放つ。 だが、それを相手は同じく真空波によって相殺してくる。
(抗うんじゃない、受け入れろ)
 シンクロ率の上昇に対し、それを否定せずに受け入れる。その上で自分が望む方向を強くイメージした。
 だが、目の前にいるのは因縁の相手。そこでどうしても感情に飲まれそうになってしまう。
 そのまま接近し、ほとんど衝動的にぶつかり合う。
「おおおおおおおお!!!」
 左手のビームサーベルで切り込み、もう一本の実体剣で斬撃を繰り出す。それを相手はかわし、相手も剣をないで真空波を撃ってくる。
 それでも今は効かない。
(真司!)
 パートナーの声が届かないところまで来ている。シンクロ率80%。だが、機体がまったく言うことを聞かないわけではない。
 ワイヤーを射出し、サイコキネシスで暴君に巻きつける。
 そこからサンダークラップによって、電撃を機体に流し麻痺させようとする。しかし、そこから「暴君」は抜け出す。
 その瞬間、スナイパーライフルからの狙撃が「暴君」へと向かう。それをものともしない様子だが、わずかに動きが乱れてきている。
(一つだけ教えてあげるよ。あんたは楽しくて壊してるんじゃない、怖いから壊してるのさ……つまり、あんたはただの臆病者ってこと)
 それに対し、相手のパイロットは何も答えない。
 時々シャンバラで遭遇したときのように高揚しているようだが、大分口数が減っている。その理由は分からない。
 だが、元の感情がない状態と、パートナーの感情が複雑に絡みあってきて、少しずつ変質し始めているのかもしれない。
 機体が姿を変えたのと同じように。
 
「すごい……あれが先輩達の動き……」
 その戦いの様子を見ていた逢坂 楓が感嘆の声を上げる。だが、それを耐え切る「暴君」はそれ以上すごい存在であると言わざるをえないものを感じた。
「よし、大丈夫。ボクも……この機体ならやれるはずなんだ。そして……」
 そこで、パートナーの琴音・シュヴァルツの声が耳に入ってくる。
「か、楓! 曲の設定、音量の調整、完了だよ。いつでもどうぞ」
 初めて乗るイーグリット・ネクストだが、これが最新鋭機。それに、今は「女神の祝福」が発動している状態だ。
 とはいえ、楓はそれがどういうものか、まだよく知らない。
 通信回線をオープンに合わせ、「暴君」の元へ駆けていく。
「ボクの歌を……聴けえぇ!!」
 選曲したのは、学院で時々耳にする曲だ。
 決して有名なアーティストによるものではない。ただ、天御柱学院にとっては大きな意味を持つ歌だ。
 楓は海京決戦を経験していない。だが、それを経験した学院の生徒はほぼ全員がそれを知っている。
 ――イコン覚醒のきっかけとなった、あの歌だ。
 それは、「暴君」を止めるには至らない。
 だが、多くの学院の生徒の心を落ち着かせることに繋がった。

「俺一人の力はとても弱いが、仲間の力があれ『暴君』お前を止めることが出来るだろう。俺達の力を思い知れ!」
 【フェイトブレーカー】がエナジーウィングを広げ、メインスラスターをフルにする。そのまま急旋回しながら、新式ビームサーベルで斬撃を繰り出す。
「まだだ!」
 そのままサブスラスターで機体を回転させ、二撃目。
 それでもまだ回復される。とはいえ、動力炉に近い部分だったのか、敵はほとんど取らない回避行動を取った。
(紫音、「女神の祝福」継続時間、残り三分どすぇ)
あと三分。
 それ以内に落とせなければ、勝機はおそらく失われる。
 敵が【フェイトブレーカー】の攻撃を避けるタイミングで、【アンビバレンツ】が覚醒状態でビームキャノンを放つ。
 それは力場によって阻まれるが、それは問題ではないだろう。
 「女神の祝福」の効果を利用し、敵のフィールドを突破。ビームサーベルで切り込む、と見せかけてパイルバンカーを突き出す。
 だが、相手には読まれてしまっている。今は距離を取る必要もないため、そのまま接近戦を継続する。
 そこへ再び【フェイトブレーカー】が旋回しながらビームサーベルで切り込んでくる。それを「暴君」が避けようとした瞬間に、ワイヤーを射出する。
「よし、鹵獲した!」
 そのまま着水させようとするが、その瞬間「暴君」が衝撃波を放つ。
 ワイヤーはちぎれ飛んだ。「女神の祝福」は機体に対しては絶対だが、武装にまでは適用されないらしい。
「くそ、あと少し!」
 
『ヴェロニカ! エヴァンに向かって話しかけるんだ!!』
 「暴君」の口数が減っている。それに、少しずつだが再生速度も機動も遅くなっている。今なら声が届くかもしれない。
 【スプリング】は接近戦をしつつ、敵機の装甲を削っていく。結局回復されてしまうが、あと少しで動力炉に届くかもしれない。
 後方の【ピングイーン】から「暴君」に向かって、ビームキャノンでの砲撃支援が行われる。
「そう、ワタシじゃアナタには勝てない。でも、ワタシ達なら勝てる」
 機体が再生し続けるとはいえ、機体が貫かれたら自由は奪えるかもしれない。【スプリング】がビームランスを敵の肩に突き立て、そのまま海面まで落とそうとする。
 しかし、敵は機体を急回転させ、ランスから【スプリング】を振りほどく。
「性能や技量で負けていても諦めない、心で負けない! それを教えてくれたのは、エヴァン……アナタだよ」
 目を覚ませ、と言わんばかりに訴えかける。
 声で、行動で。
 ここにいる者達が。
『「女神の祝福」、残り一分よ』
 もう時間がない。
 
『兄さん、応えて!!』

 ヴェロニカが叫ぶ。
『私だよ、ヴェロニカだよ!!』
 そのとき、「暴君」の動きが止まった。

(早く……しろ……)
 男の声が聞こえてくる。
(オレがコイツを抑えてるうちに……さっさとやれ……)

 それはおそらく、止めを刺せという意味だろう。
 だが、あくまでリヤン小隊の面々は彼を助けるために行動する。
 【スプリング】が射出型ワイヤーで捕縛し、機体を降下させていく。
 そこへ、菜織と有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)の駆るイーグリット・ネクストが突入してくる。
 そのまま出力を上げ、海面に押し込もうとする。
「君を助ける。付き合ってもらうぞ!」
 着水の瞬間、覚醒。
 エナジーウィングで衝撃を緩和させようとする。
『エナジーウィングの盾で衝撃を受け流します!』
 美幸からの通信。
 さらに、着水の衝撃からその機体を守るために、【クラースナヤ】がカバーに入る。
 海面を斬り開くようにして、水の中へと「暴君」を吸い込ませていく。
 そして海面の起伏でクルキアータの残骸が飲まれていく。それが近くにあるから、あえて菜織はここに持ってきたのだ。
 そしてそれをビームライフルで撃ち抜く。
 遠目からは爆発による水しぶきが上がったように見えたことだろう。

* * *


 海中では、潜水形態であるがネット【ピングーイン】が没した暴君の姿を捉えた。
 その機体を射出型ワイヤーで拘束し、引き寄せる。あくまで撃墜したように見せかけることが重要だからだ。
 ガネットとーピドーを時限爆破設定にして、発射する。タイミングはイーグリット・ネクストがクルキアータの残骸を撃ち抜くのと同じだ。この辺りは示し合わせている。
(なるほど……水の中が弱点だったのか)
 機体の装甲が剥離していく。引き上げるにしても、早い方がいい。
『エヴァン……聞こえる?』
 フェルクレールトが呼び掛ける。
『……バカ、早く離れろ!!』
『え?』