天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

リアクション公開中!

聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

リアクション


(・月)


ムーン1:ラストホープ伏見 明子(ふしみ・めいこ)レイ・レフテナン(れい・れふてなん)
ムーン2:ライネックス村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)
ムーン3:コームラントカスタムコンクリート モモ(こんくりーと・もも)ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)
ムーン4:プラヴァー志方 綾乃(しかた・あやの)ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)
ムーン5:イゾルデ蘇芳 秋人(すおう・あきと)蘇芳 蕾(すおう・つぼみ)ブルースロート
ムーン6:ポーラスター葛葉 杏(くずのは・あん)橘 早苗(たちばな・さなえ)
ムーン7:メテオライトアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)六連 すばる(むづら・すばる)

* * *


「さすがは次世代機、ってところね」
 伏見 明子は星小隊によるF.R.A.G.急襲の様子を観察していた。相手が態勢を立て直したらそんな余裕はなくなるだろう。今のうちに、クルキアータの動きやクセをよく見ておく。
 F.R.A.G.の宣戦布告を知り、返礼のために天学と共に出撃することを志願した。彼女の操縦技術そのものは、天学のパイロットと比べても引けを取らないほどだ。
「それにしても、彼らは分かってるんでしょうかね。自分達が排除しようとしているのは契約者で、同じ地球人もいるってことを」
 レイ・レフテナンが呟く。
「彼らにとって、シャンバラ王国の契約者は『地球を見捨てた地球人』って認識なんでしょーね。同じ地球人だなんて、きっと思っちゃいないわよ」
 そこには、「自分達だけが地球のことをしっかりと考えている」という驕りにも似たものがあるのだろう。そういった都合のいい物言いが、どうにも気に食わなかった。
「敵前衛部隊、二手に分かれます。後衛はまだ様子見、ってところですね」
「見たところ、さっきみたいな不意打ちにでも遭わない限りは、機体の動きに一切の無駄がない。なるべく早いうちに、後ろの連中を引きずり出さないと厳しいわね」
 月小隊もまた、F.R.A.G.との戦闘に入る。
 アクセルギアを二倍速で起動。体感速度が倍になることで、相手の動きが遅く見えるようになる。
 明子達の搭乗するS―01【ラストホープ】は可変式の機体であり、戦闘機型の飛行形態になった際の最高速度は第二世代機をも上回る。設計上はフルブーストでマッハ6が出せるとされていたが、実際の運用ではマッハ3であった。機体そのものは熱の壁に対応した設計になっている。なお、国軍はこの機体の技術を元に新型機の開発を行おうと研究を進めているという。
 ただ、これは緊急時の奥の手であり、通常時の最高速度はマッハ2.3である。天学による世代区分では、がネットやレイヴンと同じ第一.五世代機とされている。
 その性質上、イコンよりは戦闘機としての側面が強い。敵機の射撃を持ち前の速度とビームシールドを利用して受け流し、守りの要であるブルースロートが被弾しないように相手を追い払う。

「二ヶ月前とは違う。今回は勝たせてもらうよ……絶対に負けるわけにはいかないんだ」
 蘇芳 秋人は前衛で戦う機体のサポートを行っていた。
 月小隊にはイーグリット・ネクストが属していないが、高い機動力を持つ【ラストホープ】と【ライネックス】、高火力の【ポーラスター】と【コームラントカスタム】、そして重火力パック装備の第二世代機プラヴァーと、総合力では第二世代機を中心に構成された星小隊に引けを取らない。
 そして、その五機を二機のブルースロートが補助する。一小隊の適正数を五機としてエネルギーシールドが有効になるよう設計されているため、七機編成の小隊をカバーするには、必然的に二機必要になるのだ。
(蕾、ゾディアックさんに連絡を。ムーン1とムーン4にエネルギーシールドを回してもらう。オレ達で残りの三機だ)
 蘇芳 蕾へ精神感応で伝える。第一世代機を守るために、最初から全力で行く。シミュレーターのときの失敗は繰り返さない。
(「覚醒」するよっ。全力でエネルギーシールドの展開任せたよっ)
(はい……秋人様……エネルギーシールド……展開します)
 覚醒により、シールドの強度がさらに高まる。これなら、至近距離から高火力の攻撃を受けない限り、簡単にダメージを負うことはない。
 【イゾルデ】にはビームライフルしか武器はないが、彼らの役目はあくまでも「味方を守り切る」ことだ。
『敵の連携が乱れています。皆さん、ここがチャンスです。それぞれのパイロットとしての腕と機体の性能を信じてっ!』
 秋人が敵機に向かってジャミングをかける。
 気休め程度かもしれないが、これでほんの一瞬でも敵に隙が出来れば勝機は十分にある。

「突破口を開きますよ」
 プラヴァーに搭乗している志方 綾乃は、F.R.A.G.の小隊に狙いを定めた。
 装備パックは重火力型。コームラントの標準装備である大型ビームキャノンを二門、さらにイーグリット・ネクストのプラズマライフルの技術を使用した長距離射程砲、プラズマキャノンを装備。膨大なエネルギーを使う機体であるため、エネルギーカートリッジも所持している。
『ムーン4より各機へ。援護します。一般機の武器はアサルトライフル、近距離まで近づければ勝機は見えてきます』
 問題は指揮官機だが、今重要なのは敵の数を減らすこと。綾乃は人伝てにクルキアータの強さを聞いたのみだが、連携を乱されてなお簡単には墜ちないことから、パイロットが相当の熟練者であることは感じ取っている。
(戦うこと、『敵』の命を奪うことに迷いがないと言えば嘘になる。だけど、ここで私が躊躇えばより多くのシャンバラ人の命が危険に晒される。だから、今は……)
 戦うしかない。
「相手が誰であろうと、立ち塞がる奴は皆殺しだ。誰も俺の行く手を邪魔させない。それが『正義と信念のぶつかり合い』って奴だろ?」
 ラグナ・レギンレイヴが呟く。
 だが、こうして戦場に出たことで綾乃には疑問も見えてきた。互いの正義と信念をぶつけ合って戦い続けて、本当に戦いは終わるのか。他者への理解を拒み自分達だけの平和を望んで本当に世界は平和になるのか。
 それは、決してF.R.A.G.だけではなく、シャンバラ王国の人間にも言えることだ。自分達とは意見の違うものを「反シャンバラ」と一括りにして糾弾してきた者達。
 仮にどちらが勝利したとしても、また別の「正義」が現れれば争いは起こるだろう。そういった連鎖を断ち切るための答えは一体何なのか。それを見つけないまま、死ぬわけにはいかない。
「しっかし、このパイロットサポートシステムはありがたいぜ。レーダーの情報や寮機との適正距離、さらには照準も合わせやすくしてくれてるんだからな」
 加えて、機体の姿勢制御も行っている。綾乃もラグナも操縦技術はそれなりに高いが、このサポートシステムがあれば専門の訓練を受けていなくても、最低限機体を操ることが出来る。
 まずは二門のビームキャノンによる弾幕援護を展開する。当てることが目的ではないため、わざと射撃精度と出力を落とすことで弾幕としての効果を得る。
 一度星小隊によって崩された状態から、再び敵機を連携出来る状態に戻すわけにはいかない。
「来るぞ、綾乃」
 プラヴァーを危険視したクルキアータが一機、飛び込んでくる。第二世代機同士の戦いだ。
 速度では相手の方が分がある。
 距離を取るため、銃剣付きビームアサルトライフルで弾幕を張る。相手はシールドでそれを防いだ。多少のビーム程度では、あれは破れないらしい。
 そこに、【ラストホープ】からの射撃援護が来る。そちらに敵機が銃口を向けたときに、綾乃達は態勢を立て直す。
「主砲、いきますよ」
 先ほど突っ込んできたクルキアータにスナイプ、エイミングで狙いを付け、さらにサポートシステムも併用して完全にロックする。さらに急所狙いでプラズマキャノンのトリガーを引いた。
 敵がそれに気付いたものの、もう遅い。その一撃をまともに食らったクルキアータ一般機は砕け散った。
 プラズマキャノンはイーグリット・ネクストの新式プラズマライフルに比べ反動が弱いものの連射が出来ず、トリガーを引いてから発射されるまでにタイムラグが生じるというデメリットがある。しかし、プラズマ弾の弾速は非常に速く、砲口が閃いてから回避するのはイーグリット級の機動性をもってしてもほぼ不可能なほどだ。
「すごい威力だが、エネルギーの消費が半端じゃないな。もう残量エネルギーが三分の二を切ったぜ」
 だが、まだエネルギーカートリッジがある。
 再びビームキャノンでの弾幕援護に切り替え、味方の援護を行っていく。

(ワイヤーと銃剣ライフル……またおチビは奇妙なものを思い付くものだな……)
 アール・エンディミオンは村主 蛇々に聞こえない声で呟いた。
 機体はイーグリットである【ライネックス】だ。性能面では相手に劣る。
「先輩達……すごい。だけど、私達だって」
 星小隊の急襲が成功した今がチャンスだ。
 クルキアータ一般機の射撃精度は脅威だが、イーグリットの機動性があればギリギリで回避出来る。加えて、ブルースロートのエネルギーシールドもある。
 【ライネックス】が装備しているワイヤーは二本。一本は左手に持ち、もう一本は銃剣付きアサルトライフルのトリガー部分に巻きつけている。
 後方からは、コンクリート・モモ達の【コームラント・カスタム】が大型ビームキャノンで援護してくれている。この長距離射程は、学院の次世代機であるイーグリット・ネクストにはない強みだ。
 威力も高いが、そう簡単にクルキアータの持つ実体シールドを破れるほどではない。とはいえ、牽制するには十分だ。
 砲撃支援を受け、【ライネックス】はクルキアータをワイヤーの射程圏内に捉える。
「――――っ!」
 アサルトライフルからの銃撃を急旋回でかわす。ビームシールドがあるとはいえ、それに頼りっきりになるのは危険だ。
「やっぱり、速い!」
 多少乱れていても、そこはF.R.A.G.だ。実弾式の銃剣付きアサルトライフルの攻撃を、相手はものともしない。
 だが、それ自体は問題ではない。
「今!」
 左腕のワイヤーをクルキアータに向けて射出する。即座に相手はそれに照準を合わせた。その瞬間、ライフルを加速の勢いを利用して投擲。
 銃剣部分で狙うは、相手の装甲の継ぎ目――武器を持つ腕の関節部分だ。それも、肘ではなく肩部。
 ワイヤーはトリガー部分に巻きついている。それを引っ張ることで、ゼロ距離射撃を行った。
 さらに、ワイヤーを引くと同時に機体を前に向かって飛ばし、覚醒。さらにブースト全開で一気に間合いを詰める。
 その勢いで、今度は刺さった銃剣が敵の装甲から外れ、【ライネックス】の右腕に戻ってくる。それを掴んで射撃、と見せかけてビームサーベルを引き抜き、アサルトライフルを持つ敵機の右腕を落とそうとする。
 が、敵は咄嗟ではあるがそれをシールドでガードした。
 しかし、まだ終わらない。トリガーが引かれたままの状態であるから、暴発の心配はない。遠心力を利用して再び銃剣付きアサルトライフルを突き刺そうとする。が、今度は上手くいかない。
 ライフルを手元に引き戻し、敵機を牽制しながら高度を上げ離脱する。

(戦い方を心得れば、戦局を左右出来るはず……)
 コンクリート・モモはクルキアータの射程圏外から照準を合わせる。
「シミュレーターでクルキアータの速さには慣れたわ……」
 普通に撃ったところで、かわされてしまう。見たところ、シミュレーターよりもやはり実機の方が動きがいい。パイロットの技量がそれだけ高いからであろう。
 【イゾルデ】からの通信を合図に、彼女達もある作戦に出る。
「光条石って使うと『光術』の効果あるの知ってる?」
 モモが口を開く。厳密には光条石自体が明かりとして使えるという程度の意味だが、それを壊そうとすれば、中のエネルギーが外に出るため、一瞬だけ強く閃く。
「試すなら、ジャミングを使ってる今ネ〜!」
 【コームラントカスタム】は巨大光条石を敵機中に飛ばそうとする。だが、そのための手段がない。
『ムーン2、お願い!』
 【ライネックス】に通信を入れ、連携を図る。それは、ワイヤーを利用して投擲してもらおうというものだ。
『了解!』
 【ライネックス】のワイヤーに巨大光条石が巻きつく。そして、それが敵陣の中に放り込まれる。
 それに敵は照準を合わせるものの、怪しんだらしく引鉄は引かなかった。
「ギロリ! 心眼!!」
 距離はあるものの、心眼で命中率を上げる。
(負けないわよ……! なんたって、あたしには『仲間』が出来たんだから)
 そして、巨大光条石を大型ビームキャノンで撃ち抜いた。
 その瞬間、閃光が炸裂した。
 これで目視は出来ない。加えて、ブルースロートのジャミングが効いている。この隙を突いて、ライネックスが敵機に銃剣を投擲し、先ほどと同じように攻める。
 今度は機動を読まれないように、敵よりも上空から覚醒とフルブーストで急接近。背後に回りこみ、続け様に被弾している右腕、盾を構えている左腕を切断した。
「これで……一機!」
 相手の予測出来ない攻撃だったこともあり、クルキアータ一機を完全に無力化することに成功した。
「敵さん、高性能にかまけて一機で勝とうって発想が『プアー』ネ!」
 そう、今回は『奇策』ではあったが、旧世代機だろうと上手く立ち回れば自分よりも強い者とも渡り合うことが出来る。
 それが彼女達の強みだ。