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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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序曲 〜Overture〜


『待ってたよ。君達なら絶対に来ると思ってた』
 少年のような、あるいは少女のようにも聞こえる中性的な声が二人の少女の耳に入ってきた。
『……あなたを止められるのは、多分私達だけだから』
 【ナイチンゲール】の持つ絶対防御の力である「女神の祝福」
 今、【ジズ】が起動しようとしている絶対攻撃の力である「回帰の剣」に対し、唯一対抗し得る可能性を秘めているのはそれしかない。
 二つの相反する「絶対」により生じる矛盾。
 それが何を引き起こすのか、【ナイチンゲール】の化身とも言うべき少女は既に知っている。
(やっぱり今回もこうなってしまうのね。けれど、まだそうと決まったわけじゃないわ)
 パートナーに視線を送る。
 彼女で五人目。
 彼女になってから――いや、彼女に至るまでも含め、どれだけこの光景を見てきただろうか。繰り返すごとに、少しずつ世界は「ズレて」いく。
 変化があるから「次こそは……」と、諦めずにいられる。
「大丈夫よ、ヴェロニカ。わたしがついてるわ。『私達』なら、時計の針を進めることが出来る」
 こうやって微笑みかけ、勇気づけるのも何度目だろうか。
 その言葉は、むしろ自分自身に向けられているのかもしれない。これまでに別れてきた、異なる世界のパートナー達。その人達の想いを、自分は知っているのだから。
「うん。ニュクス、お願い」
「起動準備完了、いけるわよ」
 そして眼前の【ジズ】もまた、準備を完了していた。
『さあ、いくよ――』

「『回帰の剣』起動!」
「『女神の祝福』起動!」

 解放された二つの力が、衝突した――。

* * *


 ――ここは?

 目が覚めると、見慣れた光景が広がっていた。
 【ナイチンゲール】のコックピットの中だ。

 ――そう。還ってきたのね……ここに。ごめんなさい。また、駄目だったわ。

『大丈夫、わたしがついてる』
 そう言ったのに、また置き去りにしてきてしまった。
 思わず涙がこぼれ落ちる。自分ではどうすることも出来ない。そんなことは分かっていても、悔しさが込み上げてくる。
 なぜ、自分は繰り返される時間の中にいるのか。そしてそれを認識出来るのか。
 自身がセラの遺志を体現するものとして創られた存在であること。それは大きく関係しているのだろう。
 最終決戦。白銀の【ジズ】のパイロットになる者も二度ほど変わっているが、皆「世界の改変」を謳っていた。
(セラやマスター達の願い。それが叶えば……だけど、その方法をわたしは知らない)
 だが、確実にそれを知っている者がいる。だから世界は少しずつズレているのだ。
 しかし、それ以上考えている余裕はなかった。
 機体の外から音が聞こえてくる。状況はすぐに理解出来た。
 ここはプラントの中で、自分のオリジナルである管理システムのナイチンゲールは「侵入者」の相手をしている。
 そして、前と同じ「彼女」の姿もあった。
(大丈夫。それでもわたしはまだ――諦めない)
 意識を集中させ、その少女の頭の中に直接声を送る。
(こっちよ、早く!)
 彼女を誘導する。
「あなたは、誰?」
「わたしは――」
 今度はちゃんと声を発する。だが、機体の駆動音と重なり、肝心な部分がかき消されてしまう。
 【ナイチンゲール】に辿り着いた彼女の前に、ニュクスは降り立った。
「さあ、私の手を!」
 戸惑う少女に手を差し出す。
「ナイチンゲール……さん?」
「そうだけど、違う。今は説明してる時間はないわ。あの二人を止めたいんでしょう?」
 自分のオリジナルと【ジズ】の乗り手のことだ。
「大丈夫、あなたなら間違えない。誰一人傷つけず、純粋に『守りたい』と願うあなたなら」
 驚いたように目を見開く少女。
 今の彼女がニュクスのことを知らなくても、ニュクスにとっては何度も一緒に空を飛んできたパートナーだ。彼女のことはよく知っている。
 少女がニュクスの手を取った。
「行くわよ、転送!」
 コックピットへと移動する。
「ええ、どうすれば?」
「大丈夫、制御系統は全てわたしがやる。自分の身体のことくらい、自分で出来るわ」
 すぐに機体の起動準備に入った。
「ジェネレーターチェック完了。出力オールグリーン。フローター起動。稼動まで4、3、2、1」
 【ジズ】が行っているプラント内の機体への干渉を遮断するため、位置座標の計算も同時に行う。
「いくわよ、ヴェロニカ。あの子達を解放してあげなきゃ」
「どうして……わたしの名前を?」
「そんなのはいいわ。さあ!」
 ヴェロニカ・シュルツ。
 これまでのパートナーの中で、最も純粋で優しい子。
「……ニュクス?」
 モニターに表示された文字を見たのだろう。名前を呼ばれ、思わず微笑を浮かべた。
「飛ぶわよ」
 光の翼を広げ、白金の聖像【ナイチンゲール】は飛翔した――。