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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「あれは、カミロの……」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)ゲイ・ボルグ アサルトから、【ベルゼブブ】の姿を発見した。
 自機に乗っているのは、ジェファルコンに乗るかどうか悩んだものの、前の戦いで思うように成果を上げられなかったこともあり、乗り慣れた機体で出撃することにしたからである。
(紫音、敵機の位置及び味方機の位置報告しますぇ)
 綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が報告してきた。
 現在、【ベルゼブブ】と交戦中の機体は黒いジェファルコン――【ヤタガラス】だ。
 その加勢を行おうとする。
『離れて下さい! その機体は……!』
 【ヤタガラス】から通信が入るも、相手がカミロなら数が多い方がいい、とそのまま【ベルゼブブ】に大型ビームキャノンの照準を合わせ、牽制を行う。
 【ベルゼブブ】が【ゲイ・ボルグ アサルト】の方を向いた。
「機動性で撹乱してやる。どこ見ていやがる、俺はここだ!!」
 行動予測から高速機動で撹乱しようとするが、【ベルゼブブ】の動きは明らかに前の戦いで収集されたデータとは違う。
「馬鹿な、なんでこの機体について来れる!?」
 【ベルゼブブ】の機関銃が火を噴いた。
「そんなものが、当た――」
 当たるかどうかは関係ない、といった具合で【ゲイ・ボルグ アサルト】に飛び込んでくる。
 接近戦になり、即座にビームサーベルを抜いて斬撃を繰り出そうとするが、それは空を切ることさえなかった。【ベルゼブブ】のランスの突きによって、肩口から右腕が粉砕されたのである。振る腕が途中からなかったのだ。
 驚くべきは、その突きが一切見えなかったことである。
(紫音、機体データの修正値出ますぇ)
 風花が告げるが、とても確認している余裕はない。
(そのデータを、近くの機体に送信してくれ)
 次の瞬間、今度は左足がもげていた。
「これ以上、やらせてたま――」
 ほぼゼロ距離からの機関銃の乱射がこれでもかと繰り出される。
(システム、オールレッド! 脱出装置作動しますぇ)
 コックピットから外へ射出された直後、機体は空中で爆発、離散した。

「おいおい、いくら何でも無茶苦茶だろ」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は焦りを覚えた。プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を纏い、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)と共に荒人を駆り、【ヤタガラス】のフォローに努めていたが、どうにも余裕がなくなりそうだ。
『あの機体って、元からあんなに強いのか?』
 シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)に通信を送り、確認を取る。
『確かに強力な機体ですが、データ上とはまるで……』
 また、そのデータ比較が彼の機体に送られてくる。【ベルゼブブ】の総合力は、前の戦いと比べると倍化していた。
 しかも、ここまでの戦況を確認するに、突如として性能が格段に上がったことが見受けられる。
 【ヤタガラス】が翼から放出されるビームと汎用機関銃の二つで弾幕を張った。それをマルチエネルギーシールドで防ぎながら、相手も機関銃を乱射してくる。
 そこから、狙いを完全に【荒人】に絞ったらしい。
「そう簡単に落とされるかよ」
 機関銃の弾幕の相殺はシフに任せ、自身は接近してきた【ベルゼブブ】を迎え撃つ。
 ランスによる突きをスウェーでかわし、カウンターで鬼刀による斬撃を繰り出した。
 だが、
「刀が……!」
 ランスの先端が鬼刀の刀身の側面に触れ、砕いた。
 そしてやはり至近距離から機関銃を放って【荒人】を蜂の巣にしようとしてきた。
『させません!』
 そこへ、【ヤタガラス】が赤いスラスター光と機晶エネルギーの粒子を撒き散らしながら、接近してきた。

「ねえ、カミロ、どうしちゃったのかな?」
「分かりません。ですが、非常に嫌な予感がします」
 不安げなミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)の声に、シフは答えた。
 【ベルゼブブ】の急激な強化。通信で聞いた、「もはやカミロとは別の何か」という言葉。そして過剰なまでの、まるで相手は皆殺しだと言わんばかりの猛攻。
 冷静沈着なカミロなら無闇に弾幕を張らず、機関銃であっても弾を無駄にせず、確実に相手を墜としていくはずだ。
 だが、今はとにかく異常なまでの機体性能を利用して、徹底的に攻め込んできている。特に、旧世代機を見るとそちらを優先して破壊しようと攻撃するほどだ。
 ふと、考える。
 レイヴンはイーグリット、コームラントとBMIの一点を除けばほとんど変わらない。それでも性能に差があるのは、「機体本来が発揮出来る性能」をレイヴンの方が引き出せているからだろう。パイロットが機体とリンクすることによって、ただ操縦するよりもスムーズに機体を動かすことが出来る。
 だが人が乗っている以上、どんなに潜在能力が高くても、「パイロットが耐えられない」挙動を行うのは難しい。
 しかし、仮にパイロットの命を度外視した場合、機体の構造上の限界までその性能を引き出したらどうなるか。
(……プラヴァーのサポートシステムの逆ですか。パイロットの存在を無視してでも、とにかく殲滅する)
 つまり、カミロ達は命をすり減らしながら戦っているのだ。自分達以上に。
 学院のイコンにおける「覚醒」は、 表向きは動力炉のエネルギーの完全解放だが、それだけでは機体性能にパイロットが耐えられない。真の力を引き出した上で、その溢れ出るエネルギーがコックピットをも包み込むものだ。それによってエネルギー自体がパイロットの保護膜のようなものとなり、擬似的な機体との一体感を与えるため、ほとんどパイロットに負担を掛けることがない。
「なんとしでも止めますよ、ミネシア。こんなものはもはや戦いではありません」
 シンクロ率を70%まで上げ、機体を覚醒させる。
 無論、そこでは止まらない。少しずつ意識を無にしていく。
(100%まで上げても駄目なら、そこから完全覚醒に移行します)
(でも、シフ。そしたら……)
 自分の身体のことは分かっている。おそらく、完全覚醒を使えば確実に【ベルゼブブ】を止めることが出来る。しかし、その反動があるとすれば、ただでは済まない。
 覚醒させた状態で機動を行うが、その覚醒した状態でさえこの【ヤタガラス】の驚異的な性能がパイロットに掛ける負担を、消しきれていない。
 博士がなぜ、「最悪死ぬかもしれない」と言った理由も分かる。
(あとは、私があれに引っ張られないように気をつけませんと)
 おそらく今の【ベルゼブブ】の反応速度は、最悪先の戦いでの【アスモデウス】並だ。
 【荒人】の前に割って入り、サイコシールドによる力場形成で【ベルゼブブ】の機関銃の弾を全て防ぐ。その弾幕の中をランスを構え飛び込んでくるが、繰り出された音速を超えているであろう突きを、エナジーウィングでガードした。
「お返ししますよ」
 力場で制止させていた機関銃の銃弾を一斉に【ベルゼブブ】に叩き込んだ。
 それらをシールドで防ぎ、敵は再度突撃してくる。
 【ヤタガラス】のシンクロ率が100%になる。実体剣、新式ビームサーベルの二本を構えたまま弾幕の隙間を掻い潜り、【ベルゼブブ】に接近した。
 マルチエネルギーシールドが展開される。それを実体剣で貫き、横薙ぎにして破った。【ヤタガラス】がもう一本のビームサーベルで真空波を繰り出し、機関銃を破壊する。
 だが、【ベルゼブブ】は武器から手を離し、開いたマニピュレーターで【ヤタガラス】の頭部を掴んだ。
 その腕を斬り落とそうと【ヤタガラス】が翼を向けるのと、ランスで【ヤタガラス】のコックピットを貫こうとするのはほぼ同時だった。
 だがその瞬間、【ベルゼブブ】の両腕がその機体から離れた。
 空裂刀。シフ達が相手をしている間に、それによる渾身の一撃を与える準備をしていたのだ。
 そこから敵機のコックピットハッチをこじ開け、中のカミロ達を出そうとするが、
「――――ッ!」
 【ベルゼブブ】の機体からミサイルが放たれ、その煙幕に紛れて二機と距離を取った。

「やっと見つけたぜ!」
 天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)は【ベルゼブブ】の姿を捉えた。
「鬼羅ちゃん、なんだかヤバイで」
 リョーシカ・マト(りょーしか・まと)が心配そうに言った。
「分かってる……あのバカ野郎!」
 完全覚醒を使用し、一気にその機体へ突っ込んでいく。
『目ぇ覚ませ、カミロッ!!』
 両腕を失いながらも、鬼羅の機体に対して残った脚で蹴りを繰り出してくる。スラスターを全開にして勢いをつけながら。
 それをビームサーベルで斬り上げ、さらにもう一回転して繰り出された後ろ回し蹴りに対して、今度は今上げた剣を振り下ろし、脚を切断した。
 四肢を失った【ベルゼブブ】が最後にすること。それは――体当たりだ。
 自分の機体を省みない、特攻。
「こんな決着、オレは認めねぇ!」
 剣を捨て、それを真正面から受け止める。完全覚醒した今なら、バランスも失わずに済むはずだ。
 そのまま最高速度で落下し、カミロ機を海面に叩きつける。
 そして、コックピットを無理矢理こじ開けた。
「余計な……情けは……」
 吐血するカミロ。
 どうやら、パイロットの身体的限界を無視した機動のせいで、相当なダメージを負ってしまったようだ。
「そんな自暴自棄なてめぇと戦いたかったわけじゃねーんだよ! ちゃんとしたパイロットとしての実力で勝ってオレを認めさせるまで、てめぇを死なせてたまるか!!」
 カミロと、気を失っているルイーゼを引っ張り上げる。
「てめぇが誰かを必要としてるように、オレもてめぇを必要としてんだ。どう思おうと勝手だが、それだけは忘れんじゃねぇ!」
 鬼羅はカミロに向かい、思い切り叫んだ。
 超えるべき壁として、目標として。
 このまま敵対し続けようが、生きててもらう理由なんてそれだけで十分だ。