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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
『戦闘域が移動しすぎです』
 六天魔王から送られてくるカメラアイの画像を解析していたノア・アーク・アダムズが、桜葉忍にむかって言った。
「仕方ないだろ、敵が動きすぎるんだ!」
 思わず、桜葉忍が言い返す。
 見かけのコミカルさとは違って、アトラウアは意外と素早い。ピョンピョンとジャンプしながらも、空中で軌道を変えては巧妙に森の木々の合間をすり抜けていく。
 射撃のために優位であるはずの空中に位置した六天魔王としては、遮蔽物が多くて狙いがつけにくい上に、大口径の第六天魔砲は取り回しが難しく、高速移動する敵には不利であった。まだ、拡散弾でも装填していれば足止めもできただろうが、ないものは仕方ない。
「おのれ、ちょこまかと……」
 織田信長が、再び三度アトラウアを見失って唇を噛んだ。
『後ろです!』
「後ろだ!」
 ノア・アーク・アダムズと鳴神裁が同時に叫んだ。
 素早く背後に回り込んでいたアトラウアから、アイシクルランスが発射された。
 間一髪、クローアームで払いのける。だが、たちまちに左腕が凍りついた。そこへ、のびてきたタングランスが命中し、六天魔王の左腕を半壊させる。
「そこか!」
 やられっぱなしではないと、織田信長が無尽パンチを放った。ジャンプして避けるアトラウアを、どこまでものびるパンチが追尾していく。
 逃げるアトラウアは、直上にアイシクルランスを連射し、爆散した氷の槍の雨を大量に周囲に降り注がせていった。
 間断なく降り注ぐ氷の雨を受けて、押しつけられるようにして六天魔王がいったん地上に落ちる。
 広範囲に降り注いだアイシクルランスの氷片は、隣接するアウカンヘルと戦う者たちの戦闘域にも流れ弾として降り注いだ。
「チャルチーウイトリクエめ、あまり迷惑なことはしないでほしいものだな」
 回転させたライトニングランスで落ちてくる氷片を振り払いながら、ジェイドが迷惑そうに言った。
 拡散した流れ弾なので極端なダメージはもらわなかったものの、避けようのなかったリュウライザーとツェルベルスが全身を薄く氷に被われる。唯一、シルフィードだけが驚異的な回避能力で、降り注ぐ氷塊を避けていった。
 リュウライザーとツェルベルスがバキバキと動きながら氷片を振り落としていく。
「マール、無事? マール、返事なさい!」
 マール・レギンレイヴからの通信が途切れたので、志方綾乃があわててマイクにむかって叫んだ。
「落ち着いてくださいませ。あのマールが、この程度で死ぬわけがありませんわ。捜すにしても、まずはあのださいイコンを倒してからですわよ」
 リオ・レギンレイヴが志方綾乃を叱咤した。
 当のマール・レギンレイヴは、偶然近くにいた重攻機リュウライザーの斥候によって無事に保護されていたのだが、至近弾を受けて小型飛空艇ごと半分凍りついていた。
「ざむいよぉ……」
「やれやれ。急いで、ベースへ送り届けるのだよ。あちらでなら、すぐに解凍できるであろう」
 ガタガタ震えているマール・レギンレイヴを、斥候三人に預けて武神雅はその場に残った。充分に流れ弾対策の防衛計画を練っておいたので助かってはいるが、乱戦となれば離れた所にいたのでは指示が出しにくい。
 一時的に膠着状態になったのをチャンスと見て、アンブッシュしていた重攻機リュウライザーが、確実にアウカンヘルの鋭角的な頭部をロックオンした。
 だが、そこへ横滑りするようにして木々を薙ぎ倒しながら、二機のイコンがなだれ込んでくる。
「な、殴ったわね!」
 なんとか機体を立て直しながら、エメラルドが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「パンチが、べとべとだぞ」
「我慢するのじゃ!」
 文句を言う桜葉忍を、織田信長が黙らせた。
 六天魔王の無尽パンチを繰り出すも、アトラウアの装甲表面を被っているジェルアーマーによって全て逸らされ、有効打らしい有効打もまだ与えられていない。
『――信長さんですかあ!?』
 いきなり、織田信長の頭の中に、ドール・ゴールドの驚いた声が響いてきた。
『――こんな所にいたのか。手伝うのじゃ!』
 有無をも言わさず、織田信長がテレパシーで叫ぶ。
『手伝ってほしいそうです』
 ドール・ゴールドが、鳴神裁に言う。
「やっちゃおうよ」
あーあ、やるしかないか。行くよ」
 アリス・セカンドカラーに言われて、鳴神裁がシルフィードをアトラウアにむかわせた。素早い動きで、アトラウアに馬乗りになり、アイシクルランスのランチャーを両手でつかんでもぎ取ろうとする。
「ナイスじゃ!」
 そこを、織田信長が無尽パンチの張り手で、シルフィードを突き飛ばした。勢いで、ランチャーをつかんだまま、シルフィードが後ろへすっ飛んだ。
ごにゃーぽ☆ ひ、ひどーい!」
 シルフィードが、もぎ取ったランチャーを投げ捨てた。直後に、アトラウアの上方でランチャーが爆発する。広がった冷気で、アトラウアのジェルアーマーが凍りつく。そこへ、六天魔王の無尽パンチが炸裂した。今度はすべることなく、確実にアトラウアの機体を捉える。
「きゃー、あたしのカエルちゃんが。もー、嫌。帰る!! 後はククルカンに任せたわよ!」
 損傷を受けて、エメラルドがその場から逃げだす。
「何をやっている」
 すかさず、ジェイドがアウカンヘルを間に割り込ませて、六天魔王のい聞く手を阻む。
「もらいました!!」
 その瞬間を逃さず、重攻機リュウライザーがロケットランチャーのロケットを全弾発射した。
 狙いは違わず全弾命中し、アウカンヘルが一時的に索敵能力を失う。
「もらった! リュウライザー、必殺、空裂斬!!」
 武神牙竜が、片手で持った空裂刀を勢いよく振り下ろした。アウカンヘルの右腕を、根元から切り落とす。そこへ、ツェルベルスがレーザーバルカンを浴びせた。
「よし、もう一息なのだよ」
 武神雅が、攻撃の手を緩めるなと指示する。
 だが、アウカンヘルは持っていたライトニングランスを再びウィップに変化させて、リュウライザーたちに投げつけた。放電に、リュウライザーとツェルベルスが一瞬怯む。
 その隙にいったん下がったアウカンヘルの姿が変貌を始めた。嘴のような鋭角的なデザインであった頭部が開き、その下から真のフェイスが現れる。それまで頭部だと思っていたカバーは後ろに倒れ、耳状のアンテナとなった。同時に、背部の甲羅のような装甲が左右に開いて、美しい緑色の羽根の集まった翼を開いた。
「このアウカンヘルに翼を広げさせるとはね。終わりだ」
 まるで羽化するかのようなアウカンヘルの変化を見届けた後、一斉に背部の羽根が四方八方に飛び出していった。まるで羽毛の枕を裂いて振り回したかのように、周囲一体に緑色の美しい光の羽根が舞い踊る。
「なんだこれは……」
 充分に距離をとった場所から、武神雅がイコンをつつみ込む光の羽根の乱舞に見とれだ。だが、次の瞬間、ただ宙に舞っていたかのようなフェザーカッターが、一斉にその場にいたイコンめがけて攻撃を開始した。
 アイシクルランスの氷片とは違い、意志を持ったかのような無数のビームナイフが、全方位から襲いかかってくる。無数の爆発光が立て続けに起こり、一瞬全ての物が光につつまれて見えなくなる。
「愚弟、生きてるか!!」
 さすがに引きつりながら武神雅が叫んだ。
 視力が戻ると、ぼろぼろになったリュウライザーが確認できた。
『生きてるぞー』
 武神牙竜の返信に、武神雅がほっと胸をなで下ろす。
 リュウライザーの周囲には、ツェルベルスと六天魔王とシルフィードが同様に擱坐していた。あわや殲滅されるところだったが、遺跡によってフェザーカッターのビーム出力が低下していたためにかろうじて助かったということらしい。不幸中の幸いということだろうか。
 そして、すでに、アウカンヘルの姿は、アトラウアと共に消えていた。
 
    ★    ★    ★
 
「イコンの固定完了。運ぶわよ」
 ツィルニトラを人形に変形させて、瀬名千鶴がしっかりとブラウヴィント・ブリッツを持ちあげた。どちらかと言えば、だきあげて運ぶという感じだが。
 そのとき、何かが高速で近づいてきて、湖の中に飛び込んだ。激しい水柱が立ち、ツィルニトラの上に雨のように降り注いでくる。
「何?」
 周囲をモニタしていたテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンが、デウス・エクス・マーキナーに訊ねる。
『敵機のようでございます。お気をつけください、浮上してくるかもしれません』
 デウス・エクス・マーキナーの言葉に、瀬名千鶴がブラウヴィント・ブリッツを放り出して身構えた。
 だが、湖に飛び込んだアトラウアは、そのまま転移して戻っては来なかった。