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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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脱出

 
 
「これは、エネルギーの流れが、格納庫に流れ込んでいるみたいだな」
 光の流れる壁面を調べながら瓜生コウが言った。
 光のラインは、壁面のアルコーブの一つ一つに繋がっている。どうやら、大きさから言って、敵イコンがこのへこみに入っていたようだ。
「念のため、破壊するのがよかろう」
「そうだな。エネルギー伝達回路を切断してしまえば、敵イコンがエネルギー補給に戻ってくるようなことがあっても、そのままエネルギー切れに持ち込めるだろう。それから、この場所を確保して、脱出者を誘導しないとな」
 イコンを降りたジュレール・リーヴェンディの言葉に、瓜生コウがうなずいた。
「じゃーん、こんなこともあろうかと、ちゃんと爆弾を持ってきていたのだあ」
 動きにくいので元の大きさに戻ったマナ・ウィンスレットが、パジャマのポケットに入れて連れてきていた雪だるま王国兵たちの持つ機晶爆弾を自慢げに見せた。
 爆弾を分け合うと、マナ・ウィンスレットたちは瓜生コウの指示で格納庫の要所に機晶爆弾を仕掛け、安全な場所から起爆して、次々にラインを切断していった。
 
    ★    ★    ★
 
よそ見すんなよ。格納庫の一つの場所が判明したらしいぜ。近いな。ここは、そこを脱出口にするのが賢明なんじゃないか」
 逐次送られてきていた情報をチェックしたソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が、銃型ハンドヘルドコンピュータのマップデータを更新して確認した。
「そうだなねぇ。でも、まだ、あの少女を見つけだしていないし。ここは、誰か他の人と合流するのが先じゃないかなぁ。人がある程度いれば、脱出するのも楽だろうしねぇ。どうも、この変な振動は、間違いなく遺跡自体が動いているみたいだからねぇ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が、軽く腕組みしながら言った。
 この遺跡が突然空に飛びあがったというのはにわかには信じがたいが、周囲から感じる感覚は、確かに異変を物語っている。いずれにしろ、手遅れにならない段階で脱出するのがいいようだ。だが、まだ時間はある。
「クンクン。人がいるのはこっちの方だな。行ってみるか?」
「もちろん」
 超感覚で道案内する白銀 昶(しろがね・あきら)に、清泉北都はうなずいた。
行くぜ
 ソーマ・アルジェントが、すたすたと先に歩きだしながら二人に言った。
 
    ★    ★    ★
 
でりゃあー! こんな場所、完全破壊だぜえい」
 サテライトセルのラボで、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が室内の重要そうな機器をドラゴンアーツで破壊していった。
「さすが、ピンクモヒカン兄貴、強いです、ステキです、無敵です!」
「はははは、そうだろう、そうだろう」
 バーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)におだてられながら、ゲブー・オブインがさらに調子をあげて破壊を続けていった。だが、一見無差別破壊をしているようだが、ちゃんと壊す前にさりげなくサイコメトリして、重要部品かどうかは判別しているようである。
「ちょっと待て、奴のモヒカンは白虎が食い千切ったはずじゃなかったのか?」
 つやつやぴんぴんのゲブー・オブインのピンクモヒカンを見て、樹月 刀真(きづき・とうま)が首をかしげた。
「ふ、ピンクモヒカン兄貴のモヒカンは不滅だぜー。最高だぜー、さいきょーだぜー!!」
 フンと鼻息も荒く、バーバーモヒカンシャンバラ大荒野店が自慢げに言い返した。もちろん、自然に生え替わったわけではなく、バーバーモヒカンシャンバラ大荒野店が、フラワシの毛神『理髪師バリバリカーン』を使って復元したのである。
「復活した俺様は、無敵だぜ。ちっぱいは全部消毒だあ。その他のおっぱいは全部俺様のものだあっ、ははははははは。そいつも、そこも、そのおっぱいも!」
 調子に乗って、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)や玉藻前のおっぱいを指さすゲブー・オブインの言葉に、さっき胸を揉まれた封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が思わず自分の豊かな胸を押さえた。すぐ横で、白虎が低く唸り声をあげる。
「違うぞ。このおっぱいは俺の物だ。てめえは手を出すんじゃねえ!」
 さすがに聞きとがめて、樹月刀真が漆髪月夜をだき寄せて堂々と宣言する。
「刀真……つかんでる」
「じ、事故だ」
 ぽそりと漆髪月夜に言われて、樹月刀真がちょっとあわてた。せっかく啖呵を切ったのに、台無しだ。
「ほほほ、事故を装うのが日に日に上達していくようだのう」
 玉藻 前(たまもの・まえ)が、面白そうに目を細めた。
「何やってるんでえ。だったら、ちっぱいの方を先に殲滅するかあ」
 そう言うと、ゲブー・オブインが、綺雲 菜織(あやくも・なおり)がだきかかえていたサテライトセルに目をやった。
「この子はもう危険性はないであろう」
 初期化されて攻撃対象や目的を持たなくなったサテライトセルをだきしめて守りながら、綺雲菜織が言った。
「確かに、殺気は感じられないが……」
 樹月刀真が、軽く手を翳して言った。その言葉に、漆髪月夜と宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)もうなずく。
「だったら、そいつから何か情報を引き出せねえのかよ。どれ」
 近づくゲブー・オブインから、綺雲菜織が後退った。
「サイコメトリなら、私がやろう」
 綺雲菜織が、軽くサテライトセルの額に手を当てた。
「何もない、真っ白だ。これじゃ、情報も何もないであろう」
「信じられねえなあ。俺様にも確かめさせろ」
 綺雲菜織の言葉を信用せず、ゲブー・オブインがにじり寄った。
「検証を複数で行うのは常道ですな」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が、客観的にゲブー・オブインを支持する。
「なあに、ちっぱいをなで回したら、俺が噛みついてやる」
 豪快に笑い飛ばすテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)に、ゲブー・オブインがチッと小さく舌打ちした。どうやら、サイコメトリを口実になで回す気満々だったらしい。
「分かりやすい奴だぜ」
 さすがに、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が苦笑する。
 衆人環視の中でゲブー・オブインがサテライトセルをサイコメトリしたが、結果は同じであった。
 このサテライトセルは白紙だ。
 危険性はなくなったものの、同時に情報的価値も失っていたと言っていい。
「これでは、この機晶姫をコントロールしても意味はないであろうな」
 残念だと、玉藻前が言う。
「攻撃してくるのであれば戦いも辞しませんが、完全に中立な敵はすでに一般人だと思います。それを操ることは、善だとは思いません」
 きっぱりと、封印の巫女白花が言った。
「必要のない物まで破壊するのはただの無駄よ。むしろ、売ってお金にするとか……。冗談だから」
 あまり冗談に聞こえない顔で言うものだから、宇都宮祥子がイオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)を始めとするみんなに軽く睨まれた。
「もういい。この子は私が連れていくのだよ」
 このままここにいてはよくないと、綺雲菜織がラボを出て元の道を辿っていった。
「待て、君、一人だけじゃ無理だ。追うぞ、みんな」
 見かねたトマス・ファーニナルが、パートナーたちとその後を追った。
 他の者たちがどうしようかと一瞬戸惑ったときに、声を発した者がいた。
「君ら、ちょっと聞いてくれまへんか。外から情報が入りましたさかい」
 それまで携帯電話で外と情報交換をしていた大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が言った。
「現在、この遺跡は自力で浮遊して移動しているそうや。目的地は、世界樹イルミンスール。そこで自爆するらしいで」
「けっ、おもしれーコトしてくれるじゃねえか」
「どこが面白いのだ。我らは、その爆弾の中にいるのだぞ」
 状況をよく考えろと、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)がゲブー・オブインに言った。
 そのとき、ラボに清泉北都とソーマ・アルジェントがやってきた。
「脱出経路のデータは受け取っているよぉ。早く脱出しょぉ」
 清泉北都が、皆をうながした。
「うーん、そろそろただ働きもやってられないわね。先に格納庫言って脱出の用意しとくわよ。じゃあね。イオテス、遅れないでついてきなさい」
「あ、は、はい」
 いつまでここにいても埒が明かないと、宇都宮祥子はさっさと見切りをつけてラボを飛び出していった。その後を、あわててイオテス・サイフォードが追いかけていく。
「やれやれ、僕らのイコンは格納庫の方にあるさかいな。悪いけど、そっちにむかわせてもらいますわ」
 傭兵としてやってきた大久保泰輔が、宇都宮祥子の後を追って行く。
「外であのイコンが暴れているのであれば、それを倒すのは我らの仕事であろうからな」
 そう言い残して、讃岐院顕仁も西格納庫へとむかう。
「ちょっと待ちやがれ、俺様をおいていくな。行くぞ、おい」
「ああ、待ってくだせー、ピンクモヒカン兄貴!」
 一応同じ傭兵としてやってきたゲブー・オブインが、バーバーモヒカンシャンバラ大荒野店と一緒にかけだしていった。
「あわただしくなってきたな。そんなことになっているんだったら、俺たちはこの遺跡をなんとかするぞ。ええと、マップのその位置がコントロールルームなんだな。だったら、そこへむかおう」
 樹月刀真は、漆髪月夜が清泉北都から籠手型ハンドヘルドコンピュータにダウンロードしたマップを見て言った。
 そのまま、パートナーたちと共にコントロールルームへとむかう。
「やれやれ、相変わらずというか、みんな好き勝手だねえ」
「どうするんだ」
 肩をすくめる清泉北都に、ソーマ・アルジェントが訊ねた。
「時間はまだあるだろぉ? まだ他にも人はいるだろうからぁ、その人たちを探そぉよ」
「分かったで、またオレの鼻の出番だな」
 白銀昶は自慢の鼻をクンクンとならした。
「こっちだ」
 そう言うと、白銀昶は走りだした。