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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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茨ドームの眠り姫

 
 
「このイコンを押さえ込んでいた騎士の意志は我が手につかんだ。もはや、あの制御用台座には再び接続はさせぬ。世界樹消滅は時間の問題だ」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)が放った曙光銃エルドリッジの光の銃弾をその手で払いのけると、傭兵隊の隊長と偽っていたアラバスターが言った。やはり、エネルギー兵器はほとんど役にたたない。
「そんなことはさせないんだからあ」
 メイちゃんたちが、武器の姿に戻って、一斉にアラバスターに襲いかかる。だが、彼の周囲を回っている魔導球が、メイちゃんたちにぶつかって弾き返した。
「いたあい……」
 元の少女の姿に戻って、メイちゃんたちが床に倒れた。
 すぐ傍には、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)が未だ囚われているシリンダーがあった。見た目は光条エネルギー吸収装置にも似ているが、どうやらサテライトセルのメンテナンスカプセルの方に近い仕組みのようだ。その傍には、うち捨てられるようにして、剣の花嫁らしきミイラが倒れていた。
「お前か、シェリルをさらったのは!」
 床から斜めに生えた柱状のエネルギーレセプターの上を飛び渡りながら、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)がアラバスターに殴りかかっていく。だが、アラバスターは、素早く別の柱の上に飛び逃げた。
 ココ・カンパーニュが、思いっきりの拳圧をアラバスターに叩きつけた。防御に回った魔導球の一つが吹っ飛ばされて壁にめり込む。
「言いがかりは困るな。それに関しては、そこの娘の方が詳しいのではないのか」
 アラバスターが、カプセルのそばに居る娘を指して言った。
「もともと、あの剣の花嫁をしなびたミイラの代わりに選んだのは、このイコンのプログラムそのもの……、いや、使命に忠実な意志と言った方がいいかな」
 素早く飛び回りつつ、ココ・カンパーニュの攻撃を剣で払いながらアラバスターが言った。
「どういう意味だ?」
「死に絶え、残留思念だけの存在となったパイロットのミイラよりも、現在生きている剣の花嫁の肉体と意志の力を利用した方が、眠り姫の意志に対抗できると思ったのだろう。たまさか星拳を持つその娘が、黒蓮の香りで暗示にかかりやすかったのが幸いしたな。誘われるがままに、このイコンと同じ特性を持つ星拳を、封印すべき者として茨ドームが内部に呼び込んでしまったのだから。もし、他の者だったら、こうはいかなかっただろう。おっと、お前たちも、同様にして茨を素通りしてしまったのだったな。胡散臭いイレギュラーだ」
「そのイレなんとかを力ずくで幸運に変えてやるさ!」
 思いっきりドラゴンアーツの拳圧を放ちながらココ・カンパーニュが叫んだ。
「戯れ言を」
 アラバスターが、大剣でそれを防ぐ。
「うっ」
 カプセルの横で、眠り姫が胸を押さえてよろめいた。大剣への攻撃が、彼女へもフィードバックされてしまっているようだ。これでは、迂闊には攻撃できない。
「ねえねえ、アラザルクって人と、あの子、どんな関係があるのだ?」
 唐突にリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が割り込んできて、ココ・カンパーニュに聞いた。
「今は、それどころじゃないだろうが!」
 ココ・カンパーニュが怒鳴り返す。
「余裕だな」
 アラバスターが、リターニングダガーを投げた。ほとんど本能的に、大きく足を振り上げたココ・カンパーニュがダガーを横に蹴り飛ばす。一回転して着地すると、腰撓めに力を込めて大きくジャンプした。
 アラバスターが、別のレセプターに飛び移り、ココ・カンパーニュと体を入れ替える。直後に、ココ・カンパーニュの乗ったレセプターが発光を始めた。あわててココ・カンパーニュが飛び退る。
「だから、アラザルクにアルディミアクを助ける手助けをしてもらうのだよ」
 どこから出て来たのか、ココ・カンパーニュの腕をつかんで、リリ・スノーウォーカーが言った。
「そんなに都合よく、アラザルクが出てくるものか!?」
 ココ・カンパーニュがリリ・スノーウォーカーにかまけている隙をアラバスターが狙う。だが、そこへセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が突っ込んでいった。前面に構えたパイルバンカー内蔵シールドを押しあててそのまま押し切ろうとする。だが、直前で大剣に受けとめられてしまい、つばぜり合いのような形となる。パイルバンカーを撃ち込むためには、盾の先端を敵にむけなければならない。いっそ、剣ごと粉砕してしまうという方法もある。
けんちゃんを壊さないで!」
 コンちゃんの叫びに、一瞬、セルファ・オルドリンの動きが鈍った。それを逃さず、アラバスターが大剣の力業でいったんセルファ・オルドリンを引き離す。
『――ううむ、ここはなんとかアラザルクの知恵を借りられぬものかのう』
 リリ・スノーウォーカーの様子を見て、ウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)が月詠司にテレパシーで呼びかけた。
『――また難しいことを。ダメ元でやってみますが……』
 そうテレパシーで答えると、月詠司がアラザルク・ミトゥナのことを思い描いてテレパシーを送ってみた。
 だが、そうそう簡単に返事があるわけではない。だいたいに、今のアラザルク・ミトゥナは、テレパシーが伝わる相手であるかもよくは分からないのだ。
「いずれにしろ、元通りにされては困るからな。端末は、ともどもに破壊させてもらおう」
 アラバスターが、エンドレスナイトメアを放った。威力は弱まっていたとはいえ、全員が気分を害してその場にしゃがみ込んだ。
「そうはさせない!」
 アラザルク・ミトゥナが、背後のカプセルを守るように大きく手を開いて姿を現した。月詠司やリリ・スノーウォーカーの呼び声に反応して出て来てくれたのかは分からない。だが、今動けるのは、アラザルク・ミトゥナと眠り姫だけだった。
「物に触れることもできぬたかが幻影ふぜいが、この黄泉の王にそのような口を利くか。愚かな」
 アラバスターが、わずかに怒りを顕わにした。
「けんちゃんのマスター、私たちを……」
 床に転がったままのメイちゃんたちが、眠り姫にむかって頼んだ。
「お前など、これで充分」
 アラバスターが魔導球を一つだけ呼び寄せた。そして、アラザルクの背後にあるカプセルを指さす。
 魔導球が激しく回転しながらカプセルにむかって飛ぶ。
「そう。私たちは、一人ではないから、今までここを守ってこられた。あなたも一人ではないのなら、願い、そして託しましょう」
 そう言うと、眠り姫が、アラザルク・ミトゥナに身体を重ねる。そして、二つが一つになった。
「私を!」
 メイちゃんが叫ぶ。
 アラザルク・ミトゥナの手の中で、メイちゃんがメイスの姿となった。それを握りしめて、アラザルク・ミトゥナが渾身の力を込めて振り下ろす。
 直撃を受けた魔導球が砕けて粉々になった。
「実体を持っただと!?」
 信じられないと、アラバスターが目を見張った。それは、アラザルク・ミトゥナを始めとする者たちも同じだった。
 おそらくは、眠り姫の幻影を構成していたアストラルミストを吸収して、実体を作りだすに充分な量に達したのだろう。
「だが、それにどんな意味がある」
 アラバスターが、魔導球たちに攻撃を命じた。
「大ありだ。こんな嬉しいことはないもの!」
 逸早くエンドレスナイトメアから立ちなおったペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)に回復してもらったココ・カンパーニュが、アラバスターにむかって言った。
「やはりこの中では、効果が弱かったか……」
 予想よりも早い回復に、アラバスターが顔を顰めた。
 立ちなおった者たちが、反撃に出る。
「よかった。アルディミアクのカプセルの操作を頼むのだよ」
 リリ・スノーウォーカーが、アラザルク・ミトゥナをうながした。
「ふふふ、これで報酬は間違いないのだよ」
 陰でこっそりとリリ・スノーウォーカーがほくそ笑んだ。アルディミアク・ミトゥナを助ける力となったのだから、きっとゴチメイから報酬がたっぷりともらえるに違いないと思っているのだ。実際、しつこく報酬を要求した結果として、探偵事務所前にだごーん様入魂の巨大一刀彫りが届けられるのだが、それはまた別の話である。
「手伝ってはもらえないか。さあ、君の全てを見せてくれ
 そうジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)に頼むと、ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)がリリ・スノーウォーカーたちの話の間彼女たちを守って魔導球たちを防いだ。レーザー薙刀を棍代わりにして魔導球を弾く。
「急げ!」
 言われるまでもないと、ジャワ・ディンブラが咆哮し、ドラゴンアーツで魔導球を粉砕した。
 アラバスターが連れてきていたメイドロボが、アルディミアク・ミトゥナの入っているカプセルにむけて内装のマシンガンを放つ。
「危ない!」
 カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)がストームシールドで銃弾を防いだ。
 果敢に前に出た緋山 政敏(ひやま・まさとし)が、ライフルで反撃する。素早く位置を変えるメイドロボに、カチェア・ニムロッドが身を挺してカプセルと緋山政敏をかばおうとした。その前にとっさにキノコマンが飛び出して代わりに銃弾に倒れる。
「それ以上させません。雷光の速さで!!
 レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が、メイドロボにバーストダッシュで突っ込むと、両手に持ったレプリカデュエ・スパデをクロスさせて斬りつけた。
 真っ二つにされたメイドロボが倒れたかと思う、その内部からビー玉大の金属球がバラバラと大量に零れ落ちた。それが見る間に大きくなり、多数の魔導球となる。
「敵を増やしてどうするのだ!」
 思わず、フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)が叫んでしまう。
「球にはにはタマか!?」
 とっさに魔導球にむかってそばに居た使い魔の猫を投げつけようとしかけたときに、突然携帯が鳴った。あわてて我に返ったフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、猫を下ろして携帯に出る。
『あんなのとどうやって戦えって言うんですぅ。早く帰ってきてほしいですぅ!』
「何を訳の分からないことを言っている。こっちは敵のボスと戦闘中でそんな余裕などない。そっちはお前一人でなんとかしろ!」
 そう携帯に怒鳴ると、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』はブチッと通話を切った。
雷帝招来!
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が魔導球の群れに電撃を放つが、届く前にレセプターに全て吸い取られてしまった。