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リアクション
・1月28日(金) 15:30〜
「……博士は、ホワイトスノー博士はやはり……今も、行方不明のまま、でしょうか」
御空 天泣(みそら・てんきゅう)は海京分所を訪れるなり、イワン・モロゾフに尋ねた。
「はい。残念ながら」
古代都市が沈んだ後海底の調査が行われたが、博士の死体は出てこなかった。彼女だけでなく、ノヴァやローゼンクロイツ、罪の調律者といった、あの場所で消えた者達は誰一人。
「残された者は、どうすればいいんだろう……」
誰に聞こえるでもなく、呟いた。
博士が研究していたデータのうち、第一世代のものは世界に公表された。彼女は、もうこの世界に未練はなかったのだろう。分かっているが、割り切れない。
あの時、ノヴァの真意を知るため、あえて彼の元へ渡った。だが、最後までノヴァの気持ちを理解することは出来なかった。
博士とノヴァを和解させて、この世界で幸せにさせようと一人舞い上がり、失敗した。自分にとっての最善が、二人にとっての最善であるとは限らない。だが、それを理解することを、彼の感情が拒んでいた。
「あの……博士の研究室に、入ることは……出来ませんか?」
モロゾフに交渉した。
「構いません。ですが、あの部屋は今――」
入っていい。その部分が聞こえた時点で、後の言葉は頭に入ってこなかった。女性の部屋に勝手に入るのはよくないことであるとは思う。しかし、もしかしたら研究室の扉を開ければ、今も彼女がいるのではないかと想像してしまう。その傍らで、ノヴァが博士の手伝いをしている。そんな光景を夢見てしまう。
しかし、現実はそうではない。
「誰も……いない」
小奇麗に片付けられた部屋。機材や資料は、そのまま残されていた。
「いつまでも終わったことにメソメソして」
ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)が呆れたように、声を発した。
「……いるわけないっつーの。ま、僕も女性をおばさん呼ばわりしたことには一応反省してるよ。生きていたら、会ってごめんなさいぐらいは言うつもりだよ」
だが、おそらくそんな機会が来るとは、ラヴィーナは思っていないだろう。
「そういえばさ、天ちゃんもうすぐ卒業じゃん。就職先とか見つけてるの?」
天泣は黙って首を横に振った。
「え? ない? うわー」
この半年、いなくなった博士とノヴァのことばかり考えていて、それどころではなかった。
「……ま、いざとなったら仕方がない、僕が働くよ。まったく、頭でっかちなんだからさ。おば……博士みたいに、極東新大陸研究所で研究所で研究させて下さいーとか言ってみればいいのに。何時までも博士博士、ノヴァノヴァ……」
ラヴィーナが溜息をついた。
「誰?」
そこへ、二人のものではない声がした。
振り向いた先にいた人物の姿を見て、天泣は目を見開いた。
ホワイトスノー博士と同じ、銀色の瞳と髪。しかし、目の前にいるのは女性ではなく、少女だ。
「あ、あなたは……ここは、ホワイトスノー博士の……」
そこへ、モロゾフが現れた。
「おっと、紹介します」
咄嗟に天泣の言葉を遮って、少女を紹介した。
「彼女は司城 雪姫さん。大佐――ホワイトスノー博士の研究を全て引き継いで、イコンの開発を進めてくれてます。この研究室は、今は彼女が使用しています」
「よろしく」
雪姫が――ホワイトスノー博士の面影を持つ少女が、一礼した。