リアクション
【4】天宝陵『万勇拳』ここに有り!……6
館主敗北の報せは瞬く間に道場を走り抜けた。
道場で万勇拳と死闘を繰り広げる虚神波旬もまたその報を知り、戦いの手を休めた。
戦い続けていた波旬だが、その身体にはまともな傷一つない。
目の前で息を切らせる愛美とは対照的だ。この差がそのまま波旬と愛美の実力の差をあらわしている。
「……潮時だな」
「あなたの企みが何かは知らないけど、もうここで終わりみたいね……!」
「終わり?」
波旬は嘲笑う。
「何も終わってなどおらん。わしらにとっては始まりに過ぎん」
「……ええ、黒楼館様の崩壊は残念ですが、我らにとっては飛躍でございます」
「!?」
魔神帽子屋 尾瀬(ぼうしや・おせ)は気配もなくその場に姿を見せた。
「嘘だろ……。館主が負けちまうなんて……」
「もう黒楼館はおしまいだ……」
「おい、どうする? 五大人もいねぇし、このままここにいても、先がねぇんじゃないか?」
「皆様、ご安心下さいませ!」
尾瀬は言った。
「以前、カソ様と交わした契約は生きております。皆様、黒楼館門下生の身柄は悪人商会で預かりましょう」
「ほ、本当か?」
「ええ、悪人商会と懇意にして頂いたせめてものお礼、より良き待遇でお迎えしましょう」
「よ、よし! 俺は悪人商会の世話になるぜ!」
「俺も! 俺も入れてくれ!」
新たな後ろ盾を欲する門弟達は、尾瀬の甘い言葉に躍った。これで悪人商会は黒楼館の力を取り込むことが出来る。
「敗北者に口無し。全てはわしら悪人商会の企みとすればよい。それでわしらは悪名を得る」
黒楼館を捨て、門弟たちは道場から散り散りに逃げ出した。
波旬と尾瀬も彼らに続く。
「マナミンよ、次に会う時まで、その拳磨いておけ。せめて、わしの肉体に傷を付けられる程度にはな」
「ま、待ちなさいよっ」
「待てと言われて待つ者はおりません。ご機嫌よう、マナミン様」