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リアクション
【2】開運龍脈風水……3
爆発が起こった。
立て続けに起こった爆発は、黒楼館の庭を吹き飛ばし、騒然とした状況を更に煽る。
「やっぱり、万勇拳なんて脳筋の集まりなんだし、こそこそ侵入なんて無理な話だったの」
斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は気味の悪い笑みを浮かべていた。
「ただでさえ今は龍脈に守られてるんだから。だったら逆に派手に乗り込んだほうがいいと思うの」
スイッチを入れると、そこいらに撒かれた機晶爆弾が爆発を引き起こした。
耳をつんざく轟音と一緒にハツネの心のように黒い煙が昇る。
「我ら黒楼館の道場に乗り込んでくるとは笑止。返り討ちにしてくれる」
黒装束を纏った門弟がハツネに迫った。
草むらに撒いた爆弾を発動させようとスイッチを押すが、爆弾は冬眠中の熊のようにピクリとも反応しない。
「……壊れたの」
「ふん、龍脈に守られし我ら黒楼館にそんなものは通用せんわ!」
「食らえ、小娘! 必殺の地獄突き!」
喉元を狙って突き出される一撃、しかしハツネに触れる直前で指先がめきゃりと折れ曲がった。
「のぉぉぉーーッ!!」
鋼鉄を突いてしまったかのような硬い衝撃だった。
声にならない悲鳴を上げて悶絶する敵に、ハツネは不気味に口の端を歪め、笑う。
「目に見えない力に守られてるのはそっちだけじゃないの」
ギルティ・オブ・ポイズンドール、それがハツネの持つフラワシの名だ。
粘液状のフラワシなのだが、硬化して鋼鉄のように硬くなることも出来るのだ。
そして、こんなことも。
ポイズンドールは身を収縮させると次の瞬間、炸裂して敵の身に激しく降り掛かった。
「ぐあああああっ!!」
見えない脅威に吹き飛ばされる。
「く、くそぉ! なんだこの攻撃は!?」
「知る必要はないの」
必死にガードするもう一人に、ハツネは拳気集中、必殺の『抜山蓋世』を叩き込む。
敵の肋骨が悲鳴を上げて砕け散る音を聞き、ハツネは玩具を与えられた子どものように笑った。
「こ、幸運に守られてるはずなのに……」
しかし彼は確かに幸運に守られていた。何故なら、ハツネはマジで殺すつもりで技を放ったからだ。
幸運なことに辺りどころが、急所を僅かに外れていたため、絶命は免れたのである。
まじツイてる。
「クスクス……天下の黒楼館が聞いて呆れるの。もっとハツネを楽しませなよ? じゃないと、全部壊すよ?」
「頭に乗るなよ、小娘」
ふと目の前に、蛇のような眼の弁髪の男が現れた。
そして、彼女が反応するよりも素早く、凄まじい蹴りがハツネの胸を貫いた。
「きゃあああっ!」
ころんころんと小さな身体が草むらを転がると無数の血痕が雑草を染めた。
「ハツネ!」
白狐神拳の達人天神山 保名(てんじんやま・やすな)が駆け寄った。
抱きかかえ、傷口を見ると彼女の胸には短刀を突き刺されたような傷があり、どくどくと血が流れ出していた。
「これは……」
保名は顔をしかめ、弁髪の男を睨み付む。
すると周りの黒楼館門下生から、ざわざわと落ち着きのない声が上がった。
「ピータンさんだ」
「紅拳安楽殺のピータンさんが来たぞ」
「あいつらもう終わったな。ピータンさんは黒楼館の暗殺部隊の筆頭を務める凄腕中の凄腕なんだぞ」
「打撃を斬撃に変える奥義『紅拳安楽殺』のお味は如何かがかな、お嬢さん」
「打撃を斬撃にだと……?」
「如何にも。これぞコンロンの長きに渡る武術の歴史が生んだ必殺拳よ。我が技の前に断ち切れぬものはない」
「ほう、ならやってみせい」
「む?」
ハツネを草むらに寝かせ、保名は立ち上がった。
「このワシが相手をしてやると言うておるのじゃ。御託は並べんでいい。とっとと来い……!」
保名はうずうずしながらピータンに詰め寄った。
「な……、貴様の仲間を仕留めたのに、なんだその嬉しそうな顔は……!?」
「ふん、奴はあの程度で死ぬようなたまではないわ」
そう言って、白狐神拳の構えをとった。
「ワシは万勇拳が一流派、『白狐神拳』の天神山保名! さぁ、死にたくなければワシと勝負せい!」
「このピータンをナメるなっ!」
如何なる銘刀にも負けぬと自負する紅拳安楽殺の手刀を繰り出した。
それを保名は、万勇拳の動きを白狐神拳に取り入れ進化させた奥義『武産合気・狐手掌』で華麗にいなす。
「万勇を伴いし白狐の力とくと刮目せよ……奥義『白狐無影脚』!!」
「ぐおおおおおおっ!?」
白刃の如き研ぎすまされた連続蹴りをピータンの胸に放つや、すかさず『白狐斧刃脚』で敵の膝元を打ち砕いた。
「な、なんだとっ!?」
「敵を屠る技ばかり磨き過ぎて己を守る技を忘れたか?」
保名は万勇拳基本の構え『万勇陣』をとった。
「奥義『天弧二連撃』!!」
大岩をも砕く必殺の二連撃に、ピータンの身体は大きく吹き飛ばされた。
「いくら幸運に守られていても、ワシとおぬしの間にある努力の壁は超えられなかったようだな」
「ぐぬぬ……。お、俺は暗殺部隊筆頭のピータンだぞ。こ、こんな女に負けるはずが……」
とその時、ダメージから回復したハツネが、保名の真横を疾風のように駆け抜けた。
「壊されたら壊し返すの」
「!?」
彼女の小さな拳が、ピータンの股間を直撃する。
「のわあああああああっ!!!」
これぞ万勇拳に伝わりし秘伝の奥義『双玉粉砕破』。
文字通り双玉を粉砕され、のたうち回ったあげく、泡吹いて気を失った。
「よ、よくもピータンさんを!」
「殺せ殺せ!」
「人の心配してる場合じゃないと思うがのぅ」
そう保名が言った途端、殺気立つ黒楼館一門の背後にある宿舎が突然爆発した。
屋根の上で、天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が機晶爆弾のスイッチをバグってハニる速度で連打している。
「万勇拳など本来関係ありませんが……、保名様の為、あなた方には贄になってもらいますよ」
「ふざけんなっ! おい、あのバカを引きずり下ろせ!」
「ほう、この私をですか?」
屋根に登って来た敵の攻撃を、葛葉は軽やかなステップで躱す。
それから、ピッと人差し指を敵の胸に突き付けた。
「……奥義『鬼門封じ』」
「ぐっ、力が……」
「からの……」
突き立てた指を引っ込め、そのまま掌を胸に当てる。
「!?」
「葛葉特製、禍津殺生石の瘴気入り流気破砕を召し上がれ」
彼女の身体から立ち上る黒紫の闇が、敵の胸に吸い込まれていった。
「ぐあああああっ!!」
次の瞬間、敵は暗黒の爆発によって吹き飛んだ。
「やってくれるじゃねぇか、てめーっ!」
「っ!?」
敵を仕留めた刹那の隙を突いて、別の敵が葛葉に拳打を叩き込んだ。
不意を突かれた彼女は殴り飛ばされ、屋根の上を玩具のようにごろごろ転がった。
「トドメ……!」
「そうはイカの大事なところっス!」
「!?」
とそこに、狂乱のキョンシー娘鮑 春華(ほう・しゅんか)が割って入った。
繰り出される突きを柳の如く流し、そのまま豪流旋蓮華で天高く投げ飛ばす。
「コイツはおまけっス!」
「ぎゃあっ!」
敵は含み針を打ち込まれ、屋根の下に落ちていった。
「何やってるっスか、バイフー」
「別に油断したわけじゃありません。向こうの幸運が強化されてるせいです。一撃でも僕に入れるなんて……」
敵は2人を包囲してジリジリと間合いを詰めて来た。
パッと見絶体絶命の状況なのだが、しかしこの状況に反して、春華はご機嫌で舌舐めづりをしている。
「これはブッ殺しタイムが楽しめそうっスねぇ」
ところが、わくわくと血を見れることに気持ちを昂らせたのも束の間、ふと異様な気配を感じとった。
振り返って見つめる先は、宿舎の窓の奥……深い闇の向こう。
「こっちは食堂のほうだが……」
敵も気配に気づいた。
しばらくして奥から声が聞こえてきた。
「俺はとんだ勘違いをしてたみてえだ……。己を鍛え、食材を選ぶだけでは足りなかったんだ」
「!?」
「そう、俺に足りなかったモノ……それは食材と一つになる覚悟だ」
羽織った暗闇を脱ぎ捨て、姿を見せたのは、戦う料理人アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)。
その手には黒楼館に伝わる幻の調味料『千華酢』が握りしめられている。
「それはうちの千華酢……?」
「なんだ、火事場ドロボウか、てめー。黒楼館の家庭の味をぎろうってのか、このヤロー」
「お前らに使われてるんじゃ酢が泣いてらぁ……」
「なにぃ?」
「いいぜ、食わしてやる。また明日ここに来いとは言わねぇ、今、ここで究極の麺料理を食わせてやる……!」
そう言うなり、コートを脱ぎ捨てた。
コートの下には拘束麺、裸の上にぐるぐるとミイラのように黄金色の麺が巻き付けてあった。
「一つ、中太麺の歯ごたえと喉越し」
秘宝とんこつ系麺能力を取り出し右足へ。
「二つ、とんこつスープの濃厚な旨味」
芝麻醤を左足にかける。
「三つ、芝麻醤でゴマの香りとコクをプラス」
刻んだ中華クラゲ、生ザーサイ、金華ハム、ピータンを右腕にトッピング。
「四つ、吟味した具材で彩る」
ラー油を左腕にひとたらし。
「五つ、四川唐辛子の刺激を添えて」
千華酢を頭に振りかける。
「六つ、華やかな酸味で過剰な旨味をまとめ上げ、食欲を刺激する」
自らを調理し終えたその時、アキュートの身体から凄まじい黄金色の麺気が立ち上った。
「……見えるかい。俺の中で燃えたぎる六つのチャクラが。これが俺の覚悟。これが俺の答えだ……!」
「か、完全にイカレてやがる……!」
「ああ、頭がおかしくなるほど……美味いぜ。さぁ……食らえぇぇぇぇ!!」
天高く飛翔する。
「最・終・奥・義! 俺がっ・冷死厨火ぁぁぁぁ!!」
渾身のエビ反りフライングボディアタックが、戸惑う敵を容赦なく激しく押しつぶす。
「ぐええええええっ!!」
更に、麺の隙間からおろんとこぼれたアキュートのMEN部分が、ピタピタと敵の顔を叩いた。
「ひーーっ! やめろぉ!!」
「さぁ存分に食らうがいい! 俺と言う冷死厨火を! 付け合わせのソーセージも存分にほうばれぇい!!」
「やめてーーっ!!」
麺で自分ごと絡めとって、敵の自由を完全に封じた。
それから、別の敵にもシャーッと麺を放って捕まえると、アリ地獄の如くじわじわと引き寄せる。
「……はっ! 獲物が奪われるっス!」
春華は慌てて麺を断ち切り、敵の一人を解放した。
「な、なんか知らんが助かっ……」
「おりゃあああああ!!」
「ぶげっ!!」
万勇陣からの死神の鎌が、敵の首元を刈り取った。
「冥土の土産にキョンシーのパンツ見れるなんてアンタ、運いいっスね」
高く上げた脚から覗く、純白の三角地帯……がしかし、敵にとっては死出の旅路に誘う天冠に見えたことだろう。
「おい、何しやがる。人が折角美味い冷死厨火を食わしてやろうと思ったのに」
「思ったのにじゃねーっス。ブッ殺しタイムに水ささないでほしいっス」
ぐいぐい麺を引っ張って獲物の取り合いが始まった。
とその時、春華の携帯が鳴った。バンフーからだ。
『YO! 俺がM.C.バンフー! レペゼンコンロン! 天宝陵帰りのHip-Hopスターがここで登場!』
「……あのぉ、一言『もしもし』だけ言えないんスか?」
『うるせぇな、俺様の『もしもし』は凡人とは違ぇんだYO! んで、そっちはどうなってる?』
「なんか人の獲物を横取りする麺類と戦ってるっス!」
『麺ーン! そいつはGreatじゃねぇか! Fu!』
「まぁこんだけ騒動になってれば五重塔の警備も手薄になってんじゃないっスかね、たぶん。
『OKだ、キョンシーGIRL! そのまま派手に暴れてろ。五重塔は俺様たちに任せな、メーン!』
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