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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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tria : 樹隷の少年
 
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)と、その妻であるパートナー、獣人のクコ・赤嶺(くこ・あかみね)は、アンデッド退治の為に坑道に入り込んでいた。
「随分奥まで来てしまいましたね」
「奥に来過ぎじゃないかしら。
 どうも、アンデッドはシャンバラ側に多くいるような気がするわ」
 霜月の言葉に、クコが答える。
 戦いながらアンデッドを追っている内に、シボラ側に寄り過ぎてしまっている。
 霜月は頷いた。
「発生源が、シャンバラ側に近いところにあるのかも……。
 とりあえず、戻りましょう……」
と言いかけたところで、二人はふと気付く。
 音と、臭い。
 アンデッドの存在を探るのは簡単だ。
 アンデッドは、腐臭がする。この閉鎖された空間では、それも濃い。
「近くもないけど……」
「気付いたのですから、見過ごせません」
 霜月が言って、二人はその場所へ向かう。



 二人の少年が、ゾンビ鼠と戦っていた。
 前足を上げて立ち上がれば、彼等の身長を遥かに越える巨大な鼠だ。
「何こいつら、凄い数だよ!」
 ここ迄も、アンデッドに遭遇はしていたが、これまでは単独や少数が多く、彼等にとって、初めての群れだった。
「弱音の前に手を動かせ」
 背の高い方が言い放つ。
「だって斬ったら中から変なの出てくるしっ!」

「手伝いましょう」
 霜月とクコが駆け付ける。
「おお!? 味方カ!?」
 少年の腰で、また別の声がした。
「成程、数が多いですね」
 ゾンビ鼠は、元々あまり群れない。
 この辺まで来ると、殆どゾンビ鼠が群れているのを見ていなかったのだが、近くに餌となるものでもあったのだろうか。
「魔法で戦う方がいいでしょうね」
「燃やすわ!」
 クコが仕掛ける。
 それでも、まとめて相手取るには数が多い。
 襲いかかったゾンビ鼠を、少年は咄嗟に斬り払い、その傷口からにゅろっと伸びてきた触手に腕を掴まれた。
「セルウス!」
「いてっ……!」
 触手の表面には、無数の細かい棘があり、少年はうっかり剣を取り落とす。
 その触手を、霜月が叩き切った。
「大丈夫ですか」
「うん。あ、ありがと」
 素早く拾い上げた剣を渡す。
 受け取りながら、少年は礼を言った。


 そこへ、レン・オズワルド(れん・おずわるど)レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)達が駆けつけた。
「ここかっ!」
 彼等も、アンデッドとの戦闘の気配を感じ取って此処へ来たのだ。
 彼等は、シボラの長老からの夢を受け取っていた。
 レンは少年達の容貌を見て、素早く、彼等が誰かを察する。
 状況を判断して、パートナーの機晶姫、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)へ視線を流した。
「ここは俺達が引き受ける。先に行け。
 後から仲間達が向かっている」
 半分は少年達に、半分は霜月達に向かって言った。
 案内してやれ、という意味だ。
「これを」
と、メティスは銃型HCをセルウスに渡した。
「此処までの道がマッピングされています。
 使い方は、あの人達に聞いてくださいね」
「でも」
「大丈夫。私達は道を憶えています」
「でも俺達だけ」
 逃げることを躊躇う少年に、メティスはぎこちなく微笑んだ。
 笑顔は苦手だけれど、ここは笑みを見せるところだ、と感じる。
「これまでも何度も戦ってきているのでしょう。
 二人とも随分怪我しています。
 向こうにいる人達に、治療してもらってくださいね」
「早く行け!」
 叫ぶレンに、霜月達が頷いて、少年達を促す。
 背の高い方の少年が、それに従って霜月の後に続き、彼に腕を引かれてもう一人も続いた。
「また後で会おうね」
 視線が合って、レキはそう笑いかける。
「ボクはレキ。後から追い付くから大丈夫なんだよ」
「俺はセルウス。待ってるね!」

「皆、退いておれ!」
 ミア・マハ(みあ・まは)が、ブリザードを放った。
 周囲に氷の嵐が吹き荒れ、アンデッド鼠達を凍らせる。
「こんな狭いところで使う魔法じゃないんだよ!」
 レキが震えながら叫んだ。
退け、と言われて退けられるものではない。
「黙れ、アンデッド共には、普通の攻撃では殆ど効果ないじゃろうが。
 燃やすか凍らせるかじゃ!」
 ミアの攻撃を逃れたものも多い。
 ずんぐりと巨大なゾンビ鼠が走り寄って来て、レキはすかさず距離を起き、銃撃する。
 ビシッ、と銃弾が鼠の体の中に埋め込まれた。
 しかし、ゾンビ鼠は苦しむものの、弱って行くという感じが見られない。
 何発撃ち込んでも同様で、しかも傷口の穴から、にょろにょろと一本ずつ、触手が伸び出る。
「うわ……」
 その不気味な有様に、レキは顔をしかめた。
「レキ!」
 ミアが、レキを追うソンビ鼠に天のいかづちを撃ち込んだ。
 鼠はギャアッと嘶いて痙攣したが、暫くすると、再び動き出す。
 その隙にレキは再び離れた。
「これは、分が悪いんだよ」
 攻撃が通用しない。
 全く効かないわけではないようだが、異常にしぶといのだ。
「ある程度、時間が稼げればいい」
 レンが言った。
「殲滅させる必要は無い。足止めさせた後は逃げる」
「追ってくるかもしれないよ!」
 そうしたら、またセルウス達のところへ敵を連れて行くことになってしまう。
「上手く逃げる必要があるのう。
 あの子供らに危害が及ばぬくらいまでは、時間を稼がねば、ということか」
「そういうことだ」
 レンは、風銃エアリアルの突風でゾンビ鼠達を牽制しながら、ミアの言葉に頷く。
「もー、どっちにしても大変なんだよ!」

 ――だが、そうしてゾンビ鼠達との戦いを切り抜けたレン達は、セルウス達とすぐに合流することはできなかった。



 メティスのHCのマッピングを辿りながら、霜月は、少年達と共に後続のセルウス捜索隊に合流した。
「君がセルウス?」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、彼等を迎えて訊ねる。
「うん」
 背の低い方の少年が答えた。
「有難い。助け手カ」
 その腰に括り付けられた頭蓋骨が、安堵したように言った。
「ええ。シボラの国家神から夢のお告げを貰って、協力しに来たの」
 その道中で、目的を同じくする者達と出会いながら、ここ迄来たのだった。
 先行したり後詰めについたり、単独で動いたりする者もいたが、皆、概ね向かう方向は一緒だ。
「コンロンに向かうんだって?
 私もあそこにはいくらか縁があるし、見過ごすこともできないな、って」
「とりあえず、まずは怪我の治療をいたしましょう」
 パートナーの聖霊、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)が、少年達の有様を見て言った。
「そして、追手の危険のないところまで移動しなくてはいけませんわ」
「そうね。連中にしてみれば、私達は嫌悪の塊か、餌の生肉にしか見えないんでしょうし」
「今すぐ治療が必要なほどじゃない」
 背の高い方が、そう言って隣を見た。
「俺も平気だよ」
「じゃ、まずは移動しましょうか。
 私達は後詰めについて追手を防ぐわ。
 追手の心配が無いようだったら後を追うから。あとよろしくね」
 祥子は仲間達に二人を託して、イオテスと共にその場に残る。

 だが、祥子達の前に現れたのは、ゾンビ鼠でも、それらを片付けたレン達でもなかった。
 別の分岐からこの道に入ってきたらしい、キリアナの依頼を受けてセルウス達の捜索をする、相田なぶらクリストファー・モーガンだ。
 祥子達に向かって鋭く吼えた、猟犬のようなミニサイズの龍を見て、敵側だと祥子は素早く察した。
「止まりなさい! この先には行かせないわ」
「……荒事の覚悟はしてるけど、できれば地球人同士で戦いたくはないんだけどなあ」
 呟きながらも、なぶらが剣を抜く。
「仕方ないわね。手っ取り早く行くわ」
 祥子は祥子で、制止の声を上げながらも、さっさと武器を構えていた。
「えっ、ちょっとそれ……」
 祥子が構えたのは、対イコン用の爆弾弓だ。
 しかも狙いはなぶら達ではない。
 狙ったのは、彼等の頭上手前の天井だった。

 爆撃された天井は崩落し、なぶらとクリストファーは慌ててその場を避ける。
 崩れた土砂は坑道を塞ぎ、祥子は駄目押しでもう一発撃って、掘り抜けられないよう念押しした。
「大丈夫でしょうか。
 この向こうには、レンさんやレキさん達が……」
 イオテスが心配する。
「あの二人、レン達が行った道とは別の道から来たようだし、ルートは一本じゃないみたいだから、別の道を探せば戻って来れるでしょ」
「ですが、あの子達、レンさんのHCを預かっていたようでしたわ。
 無事に合流できるといいのですけれど」
 イオテスは心配したが、なるようにしかならないだろう。