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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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 隠し通路は短く、広い、部屋のようなところに突き当たって終わっていた。
「古い道だな。当時宝物庫か道具置き場かに使われていたんだろう。
 使わなくなったので持ち返ったか、トレジャーハンティングされたか」
 ドミトリエがそう予想する。
 とりあえず身を隠せそうなので、出入口に交替で見張りを立てつつ、ここで野宿をすることにした。


「まだまだ先は長そうだね。
 シャンバラへ抜けても、そこからコンロンまでは遠いし」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、セルウスに話し掛けた。
「折角だから、みんなとお話して仲良くなろうよ」
「うん!」
 セルウスは、声を弾ませて、その言葉に乗る。
 詩穂のパートナーのヴァルキリー、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が微笑ましく言った。
「楽しそうですわね。……いえ、嬉しそう?」
「うん。楽しい。嬉しい」
 セルウスは頷く。
「エリュシオンでは、一族以外の人と喋ったらいけなかったから。
 目を合わせるのもだめだった。
 村の外に出るのも、あんまりできなかった。
 だから色々な人と話ができて、すごい嬉しい」
 一番最初が、ドミトリエだった。
 それからこうして大勢の人と出会えて、セルウスは今、少し浮かれている。
「一番は、ワシジャろう!」
 セルウスの腰で、クトニウスが拗ねている。
「あっそうか。でも師匠は子供の頃からいるから」
「今だって子供じゃろ」
 ヤクザ顔の魔鎧、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)が小声で突っ込む。

「それにしても、喋るガイコツか。面白いモン持っちょるのう」
 パートナーのアーヴィン・ウォーレン(あーう゛ぃん・うぉーれん)を伴い、光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が、クトニオスの頭をぺしぺしと叩いた。
「くぉら! ワシの頭をペシペシするナ! そして物扱いするナ!」
「いや、だが何で喋れるんだ、この頭蓋骨? もしかして神とか?」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)も横から顔を出す。
 ふふん、とクトニオスは得意げに顔を上げた。胸を張った、らしい。
「もしかして、スパルトイ?」
 そう訊ねたのは詩穂だ。
「龍神族の谷の。従龍騎士が従者にしてるっていう」
「そうジャ。だがただのスパルトイではナイ!」
 クトニオスは答える。
「偉いスパルトイなのジャっ!!」
「ところで」
と、翔一朗は、彼等から離れた壁際に座っているドミトリエを見た。
「無視するナ!」
「帝国民は、樹隷に関しては不可侵、とか聞いたが。
 ドミトリエは、何でセルウスと一緒におるんじゃ?」
 ドミトリエは軽く肩を竦めた。
「ドワーフは、帝国と契約しているが、帝国臣民じゃない。
 俺は帝国の習慣にあまり関心がない」
「色々困ってる時に助けてくれた」
 セルウスの説明に、深い溜め息を吐く。
「というか、……捨て犬を拾った心境、というか」
 ああ、成程……と、何となく納得する。
「ドミトリエは技師なの?」
 彼のスパナ型の槍?を見て、誌穂が訊ねた。
「さあ。機晶技術には多少自信があるが」
「それも、ドワーフ仕込み、ということですね」
 セルフィーナが微笑む。

「どうしてコンロンに向かうの?」
 そう訊ねたエース・ラグランツに、ラルクも
「おう、それだ」
と頷いた。
「コンロンで何をするつもりなんだ? 世界樹でも見に行くのか?」
「やっぱりコンロンの世界樹にも、樹隷がいるの?」
 セルウスの問いに、ラルクは苦笑する。
「さあ、知らねえな。イルミンスールにはいないみたいだぜ」
「それで、コンロンには、何で?」
 エースがもう一度訊ねる。
「えっと」
 セルウスは下を見た。
 視線を向けられて、クトニウスは、
「それはまだ言えン」
と答える。
 初めてその頭蓋骨を見た時、アンデッドを苦手とするエースが、咄嗟に祓おうとして攻撃しようとしてしまったことは秘密である。
 メシエ・ヒューベリアルが素早く止めた為に、誰にも知られずに未遂に終わったが。
「どうしてだよ」
「それはまだ、確実ではナイ。
 今はまだ、いたずらに騒ぎを大きくするだけジャ」
「じゃあ、コンロンにはどうやって向かうんだ?」
「生憎ワシらは、地理には詳しくナイ。
 逆に訊きたいのジャが、コンロンへのルートには、どんなものがあるジャろか?」
「うーん、そうだな、陸路、空路……」
「早いのは空路ですかね」
 エースの言葉を、メシエが引き継ぐ。

 そんなクトニオスと彼等の会話の上では、リリア・オーランソートがセルウスに抱き付いていた。
「あら、可愛い子!」
「ひゃあ」
「こらこら」
とエースが引き剥がす。
「あ、男の子に可愛いは失礼よね。でも弟みたいで可愛いわ」
 にこっと笑って、リリアは
「よろしくね」
と手を差し出す。
「握手ジャ」
 ハテナマークのセルウスにクトニオスが説明して、セルウスもその手を取った。
「よろしく!」


 契約者達に囲まれているセルウスとは離れ、壁際に座っているドミトリエに、エオリア・リュケイオンが毛布を渡す。
「セルウスさんの分も渡しておきますね。
 こちらは非常食と水です」
「ありがとう」
 ドミトリエは礼を言って受け取る。
 彼等は旅支度にしては軽装で、毛布も持っていないようだった。
 無事に合流できた時の為に、彼等の分まで用意しておいてよかった、とエオリアは微笑む。

 ドミトリエの側に腰を下ろした天音は、彼に飴を差し出した。
「疲れてないかい? そういう時は、甘いものだよ」
 受け取ったドミトリエは、ふと前を見る。
 いつの間に来ていたのか、セルウスがじーっと彼の手を見つめていた。
「ン」
 と、ドミトリエはセルウスに飴を渡す。
「わーい! ありがとう!」
 セルウスはドミトリエと天音を交互に見て礼を言い、天音は飴をもう一つ取り出してドミトリエに渡す。

「ドワーフに育てられた、ってことは、君はカンテミール地方から来たのかい?」
 訊ねると、ドミトリエは頷いた。
「ドワーフってどんな一族なんだい?
 SST(シャンバラ電信電話株式会社)を脅して坑内に光ケーブルを施設したりとか、噂だけは聞くけど。
 今は共に生活していないの?」
 ああ、とドミトリエは再び頷く。
「もう一人前だから、と」
 ドミトリエは、一人立ちしろと言われて、旅に出ている途中なのだ。
 だから実のところ、彼としては、坑道内でモンスターに出くわすことより、ドワーフに出くわすことの方を憂慮している。
 半ばにして出戻って来た、と思われるのは心外だからだ。
「光ケーブルの範囲も広げているだろうし、いつどこで会ってもおかしくない」
 そう言って、ドミトリエはスマートフォンを取り出して見せる。
「スマホを持ってるの?」
「アプリは充実していないが……」
 言いながら、飴を口にし、無言で瞬きを繰り返した。
「この飴、口の中でパチパチするよ!」
 とセルウスが騒いでいる。
 天音はくすくすと笑った。


「さあて、本日のメインイベント!」
 南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)が、セルウスの両肩をがっしと掴んだ。
「脱げ」
「え?」
 セルウスは、きょとんと光一郎を見上げる。
 光一郎は、セルウスの服から見え隠れしている刺青が気になっていた。
 これこそが世界樹の樹隷としての神聖性の象徴とみた!
 というのは半分は口実である。好奇心だ。
「いいから脱げ、とりあえず脱げ!
 そして樹隷の役割やら歴史やら説明しろっ!」
「そ、それ脱がなくても説明できるんじゃ……」
 いつの間にか、押し倒される格好になっている。
「ばっけやろー!
 猥談だって、ただの会話よりそこにえっちな本があった方がいいに決まってんだろ!」
「わかんないー!」
「例えが例えになってないゾ!」
と突っ込むクトニウスを、邪魔だとばかりにセルウスの腰からもぎとって放り投げる。
「セルウスー!」
「師匠ー!」
「ほらほら、恥ずかしければ、年上のおねいさんに変化して脱がせてやってもいいぜえ?」
 くっくっく、と光一郎は邪悪に笑った。
「おねいさんが、エステ用ローションの、別の使い方を教えてやろう」
「まだおねいさんになってないよっ」

「いい加減にしなさいっ」
 ヒルダ・ノーライフが、どしんと光一郎を突き飛ばした。
「ど、同意ならともかく……。
 タブーとか、越えてはいけない一線てものがあるでしょ!」
「うるせー、俺だって本当は相手はオンナノコの方がいいに決まってる!!
 だが女にこんなことしたらセクハラだろーが!
 いくら“人の嫌がることを進んでする”が家訓とはいえ」
「男相手だってセクハラよ! て言うか、家訓の意味を履き違えてるわよ!」
「需要はロリよりショタなんだよ!」
「わけわかんないわよ!」
 二人が言い合う隙に、セルウスはこっそり逃げようとしたが、背後からすかさず捕まる。
「隙ありぃ!」
 服の裾を掴まれ、そのまま一気に上に引き上げられ、あっという間に上半身が剥かれた。
 紋様のような大きな刺青が、胸の中心に刻まれている。
「……これ下半身にもあるんか?」
「無い! 無いっ!!」
 興味は尽きない光一郎に、セルウスはぶんぶんと首を横に振った。

 一方、転がったクトニウスを、光一郎のパートナーの鯉型ドラゴニュート、オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)が拾い上げた。
「全く、何かやらかすだろうと思ってたが、光一郎の奴め」
 最早驚いたりなどしないが。
「ところで、ドワーフの坑道とは随分広大なもののようだが……。
 まさかザナドゥやナラカにまで到達しているのか?」
 問いに、クトニオスはドミトリエの方を見た。
「ドワーフは、そんなことはしない」
 ドミトリエは断言する。
「向こうから入り込まない限り、こちらから向こうに接触したりしない」
「だよなあ……」


 よろよろと、上半身裸のセルウスがドミトリエ達のところに戻ってくる。
 紐が解けているが、下は死守した。
「何で助けてくれないんだよー」
「命の危険があるようなら助けるが」
 しれっとしてドミトリエは答える。
「まあ、スキンシップの一環だから」
 天音も笑った。ごろりとその横にセルウスは転がる。
「毛布を……」
 ブルーズが言ったが、いい、と、セルウスは言った。
「地面がきもちいー」
「………………」
 ブルーズは、少し考えてセルウスの傍らに寄ると、その額に手をあてた。