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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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『調査に向かう前日の話』

「……ああ、そうだ。今回の『煉獄の牢』調査に、俺の同行を許可してもらいたい。その上で、イルミンスールの生徒の中で、魔法薬の調合に秀でた者を数名、調査に同行させることは出来ないだろうか」
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の元を訪れたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が、自身の調査隊への同行許可を願った上で、いくつかの提案をしていく。調査が長期化する場合に備え、『煉獄の牢』入口近くにベースキャンプを設置すること、現地で探索に必要な魔法薬の調合を行えるようにすること、などが挙げられていく。
「ふむ……確かに、おまえの言う事には一理ある。であるならば、魔法薬の調合についてはその方法を特別に伝授しよう。
 生徒を連れて行くのもよいが、それではおまえ達に彼らを護衛するという必要が生じるじゃろう? なるべく調査に参加する者たちがその場で調合出来た方が都合が良かろうて。……しかし、材料の調達に関してはある程度以上はそちらでやってもらう必要があるぞ。手持ちの材料もそう多くないのでな」
「その辺に関しては、こちらの方で対応出来るだろう。協力に感謝する。……それと、これは是非とも校長から生徒達に厳命してもらいたいことなのだが」
 そう前置きして、レンがエリザベートに向き直り、『今回の目的が、あくまで調査である』ことをエリザベートの口から生徒たちに伝えてもらうよう提案をする。
「俺自身も、かつての戦いで属性を司る龍の力は身をもって経験済みだ。炎龍の意識があるのか、対話は可能か、敵対意思の有無がハッキリしない状況でこちらから戦端を開くことは、避けなければいけない。そしてもしこれらを無視し、悪意をもってイルミンスールの立場を悪くしようと炎龍に攻撃を仕掛けようとする者が居た場合、学校として放校処分に踏み切ることも考えなければいけない」
 それは、周りに対する配慮でもあった。ザナドゥの一件以来、イルミンスールに対する各方面の目は厳しくなっている。どうしても『周りのことは知らんですぅ』な態度を取りがちな(それでも、昔よりはマシになったが)エリザベートに事前に説明しておくことは、必要であった。
「分かったですぅ。生徒にはよ〜く言い聞かせておくですぅ。
 『いきなり戦おうとするな』
 『向こうが襲い掛かって来たら戦え』
 『悪巧みする生徒は放校』
 こんな所ですかねぇ?」
 頷いたエリザベートの内容に、とりあえず満足してレンが一礼し、校長室を後にする。
(さて、メティスとノアは上手くやってくれているだろうか)
 二人の様子を気にかけつつ、レンは『煉獄の牢』へと足を向ける。

 その頃、ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)共存都市イナテミスへ行き、アメイア・アマイアとかつてのエリュシオン第五龍騎士団の元を訪れる。
「『煉獄の牢』調査を行う上で必要な、ベースキャンプの設置。それと万が一の時の予備戦力として、アメイアさんと第五龍騎士団の皆さんに、協力をお願いしに来ました」
 ノアの申し出を、かつての団員は聞き届けた上で、かつての団長であるアメイアの言葉を待つ。それは本国では既に亡き者扱いにされている彼らの、それでも変わらぬ『第五龍騎士団』としての姿であった。
「……なるほど。しかし、この街を空けることへの不安もある。
 過去に似た事件の際は、この街は竜巻と寒波に見舞われたという。それら自然災害から街の住民を守ることも、我々の仕事に含まれると考えるのだ」
 アメイアの主張は、尤もらしいように聞こえる。ただどことなく『後ろ向き』でもあった。それを察してか知らずか、ノアはレンから『アメイアに伝えてほしい事』として預かった言葉を口にする。
「レンさんが言っていました。今回の異常気象――気温の上昇が炎龍の出現に依るものだとしたら、後手に回るのは避けなければいけないって。
 お日様が出ていないのに気温が上がっていく。夜になっても気温は下がらない。そんな状態が続けば、体力のない子供や老人からバタバタと倒れていっちゃうって。
 だからこれは表向きは『調査』ですけど、イナテミスを守るれっきとした『戦い』なんだって」
「…………」
 アメイアの発した意見よりは『前向き』な言葉に、アメイアが腕を組んで思案し、そして告げる。
「倒れる者を救うか、倒れぬように導くか、か。後者の方がより力を必要とするであろうが……しかし、私達にはそれを可能にするだけの力がある。そうだな?」
 アメイアが団員達に視線を向けると、団員達はもちろん、とばかりに強く頷く。
「我ら第五龍騎士団は、あなたの申し出を聞き入れ、全面的な協力を約束すると誓おう」
「はい……ありがとうございます!」
 笑顔を見せたノアが、一行を今頃は出港準備をしているはずのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)の元へ案内する。

(食料に水、仮設テント、仮設トイレ、寝具シーツ類、自家発電機……漏れはないわね)
 イナテミス港に停泊している格闘式飛空艇 アガートラームに積み込まれた資材を、メティスが冒険屋ギルドでまとめたリストと見比べながらチェックを行う。全てが必要水準を満たしているのを確認して満足気に頷いた所で、ノアがアメイア達を連れて戻って来た。
「私達の申し出を受け入れてくださり、ありがとうございます。
 概要については資材を見てもらいながら航行中にお話するとしまして、ひとまずは今回の依頼に対する給金の話をいたしましょう」
 その発言に、団員から「いや、お金はいい」という声が発される。アメイアも辞退するものの、メティスは首を振って言葉を紡ぐ。
「生きる為に働く。生活するのは大事です。即物的と揶揄されるかもしれませんが、しかし大事なことと私は思います」
 その言葉に潜む説得力に、アメイアも団員もそれならば、と受け入れる。給料の話が一通り済んだ所で、出港準備が整ったことを知らされる。
「では、参りましょう」
 やがてゆっくりと船は動き出し、一路『煉獄の牢』へと進路を取る。現地で無事合流を果たした一行は、調査をするに当たって拠点となるベースキャンプの設置に取り掛かる。

 かの地で一体何が待ち受けているのか。今は誰も、何も知らないまま――。


『溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』』

●『煉獄の牢』上層部

「……上層から新たな敵影の追加なし。中層も……今のところは、まだ、安定ですか」
 E.L.A.E.N.A.I.のコクピットにて、周囲の状況を確認した非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が小さく口にする。
 彼らは今、『煉獄の牢』と名付けられた場所、地上入り口から進んだ先、奈落の底まで続いているような深さの縦穴の上層部に滞空し、入り口と中層部の監視・警戒を行なっていた。近遠が口にしたように、今の所はどちらも緊急を要する動きはなく、となれば必然、パートナーとの会話も多くなる。
『過去の記録によれば、以前イルミンスールは『雷龍』と『氷龍』と遭遇している……でしたわね。
 遭遇当初は戦闘となったものの、沈静後は意思疎通を行なうことも出来、結果イルミンスールの一員に加わったと』
 同じくイコンに搭乗するユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)からの通信が飛んでくる。
「うん……確かに、過去に遭った2体の龍とは交流を経て、友好関係を築くことが出来た。
 でも今回は、どうだろう? もし意思疎通が行なえたとして、すんなり上手く行くのかな」
 近遠の、ある意味で当然とも言える疑問に口を挟んだのは、イコンの傍でイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)と共にやはり哨戒活動を行なっていたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)であった。
『その件に関しましては、アルティアの方から確かなことは口に出来ませんが……。
 アルティアは、会ってみたいと思うのです。かつてのイルミンスールの皆様が心を通わせた『龍』と』
 アルティアの言葉に、近遠も同じ思いで答える。イナテミスが今現在陥っている状況の改善のためと、後は、個人的な興味を含んで。
「……うん。実は僕も……会ってみたい、って思ってる。
 会うことが出来たら……そして落ち着かせることが出来たら……イナテミスの温暖化に歯止めくらいはかけられるかもしれない」
 今この時も、街の人達は暑さを耐え忍びつつ、自分達に出来ることをしようと頑張っているだろう。自分達もこの地で、自分達に出来ることをしよう。
 各人がそんな思いを共有しつつ、監視を続ける――。


●『煉獄の牢』中層部

「よっ、と。こういう『なんで浮いてるのか分からない足場』ってのはまさに、冒険してるな、って感じだよな」
 中層部付近にて、縦穴の空間上に浮遊するように浮いている足場を伝いながら、ライナー・パーソン(らいなー・ぱーそん)が中層部の構造を記録し、得た情報を送っていた。縦穴の壁に、奥へ続く穴が3つ確認でき、それらは穴から伸びる浮遊する足場で行き来が出来るようになっていた。一応、壁沿いにも道があるのが確認できたが幅が狭く、あの道を歩くには結構な勇気が求められるなとライナーは思った。
「先輩ならあんな道も、ひょい、って渡っちまうのかな。俺もいつかそんな風になれるのかな……」
 つい最近魔法学校に入学したライナーは、これが初めての本格的な冒険だった。慣れた風に調査を開始する先輩達に付いて行くだけで大変だったが、同時にどこか心躍るような、ワクワクするような気分を感じてもいた。
「おっと、考え事をしてる場合じゃないな。いつ溶岩が噴き出してくるかも分からないんだ。調べておく必要があるはずだ」
 首を振って、ライナーは中層部の各入口付近にて、溶岩が噴き出す可能性があるかどうかを調べる。
「うーん……響き方がなんか、今まで聞いたことない感じだな。触ってみるか……うわ、なんだこれ」
 コンコン、と杖で叩いて響いた音は、これまでライナーが聞いたことのある音とどこか異なっていた。首を傾げながら手袋をした手で触れてみれば、まるで人の胸に手を当てた時のように脈動するものを感じ、慌てて手を離す。
「生きてるみたいだ……はは、凄いな、パラミタって」
 改めてパラミタの不思議さに感じ入りながら、ライナーは目で見、手で触れたことを出来る限り有用な情報として伝えるべく、調査を続ける――。