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星影さやかな夜に 第二回

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星影さやかな夜に 第二回
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リアクション

 太陽が東の空に昇り始めた頃。
 自由都市プレッシオ中央部、特別警備部隊の詰所。

「……ああ、良かった。やっと繋がったぜ!」

 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は契約した者同士は電波なしでも通話できる能力を応用して、リネンに電話をかけていた。
 電波をオフにしたのは逆探知や傍受が出来ないようにするため。実行することは難しかったが、何回か試行錯誤をしているうちにつながり、携帯からコール音が聞こえてきた。

「頼む、出てくれよ。さっさと合流しねぇとヤバいんだ……!」

 フェイミィは藁にも縋る思いで携帯電話を握り締める。
 その周りには、ポチの助を心配しているフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)を始めとした契約者達が集まっている。皆、孤立している四人を心配している気持ちは同じだ。
 やがて、数回のコール音の後にリネンは電話に出た。

『……フェイミィ?』
「っ、良かった! そっちはまだ大丈夫か!?」
『大丈夫よ。今は襲撃に備えている途中で、忍野が《イヌプロコンピューター》で<情報攪乱>して居場所特定を遅らせてくれてる』
「そうか! そりゃ、良かったぁ。こっちは今から向かおうとしていたところだ」

 フェイミィが他の契約者に目配せする。それを受け、周りの契約者は準備を始めた。
 フレンディスはポチの助たちが無事なことを知り、ほっと一息ついてベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に報告する。

「マスター! 連絡が御座いました。
 リネンさんがご一緒とはいえ追っ手も向かっているかもしれませぬ故危険です。急いで参りましょう」
「ああ。……ち、のんびりしてる暇はねぇな」
「はい、私はレティシアさんにもご連絡致しておきます。……ポチ、無事で居るのですよ」

 フレンディスはそう言って、レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)に連絡を取り始める。
 ベルクは《聖邪龍ケイオスブレードドラゴン》を召喚。他の契約者達も自分の移動手段を迅速に確保する。
 多くの者が準備に取り掛かる中、アルマ・ウェルバは得物のマスケット銃の最終確認をしていた。

「弾丸は……これだけあれば十分かな。火薬は……うん、これで大丈夫そう」

 アルマは真剣な表情で、念入りに確認を進める。
 それは、自分が思った以上に事態が重かったからだ。きっと、向かった先でも戦闘が待ち受けているだろう。

「アルマ、ちょっといいかな?」

 着々と準備を進めるアルマにそう声をかけたのは、世 羅儀(せい・らぎ)だ。

「どうしたの、あんたはこっちの班だったっけ?」
「ううん、オレは強奪戦に向かう班。アルマ達と同じ明人とリュカを保護する班ではないよ」
「だったら、こんなところに居ていいの? そっちの班では、強奪戦の作戦を決める会議をしているはずだけど」
「うん、分かってる。けど、頼みたいことがあって」
「頼みたいこと……私に?」

 羅儀は「うん」と首を縦に振り、軍服のポケットからガラムスーリヤが入った缶を取り出した。

「これ、預かっていてほしいんだ。ぶちまけたらもったいない……なーんて、絶対生きて帰って吸いたいからね。それまで、お願い」

 羅儀は屈託のない笑顔でそう言った。
 その言葉にはこういう意味が含まれていたのだ。
 事が終わったら一緒に吸おう、と。だから君も死なないでね、という意味が。
 アルマはその意味を汲み取り、微笑み返して、差し出された煙草の缶を受け取る。

「うん。預かっておくわね、これ」
「良かった。それじゃあ、オレは行くね。そろそろ行かないと怒られそうだから」

 羅儀は踵を返し、強奪戦の班が集まっている場所へと向かおうとした。
 が、何かを言い忘れたのだろう。振り返り、アルマを見て、口にした。

「ねぇ、アルマ」
「どうしたの、まだなにか用事があった?」
「ううん。ただ、君が言ってたとおりだなと思って」

 羅儀は悲壮感のない調子で、笑みを浮かべて、言った。

「ここは本当に……とんでもない御伽の町だよね」

 ――――――――――

 強奪戦に向かうメンバーが揃った場所では、最後の作戦会議が行われていた。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がメトリーした情報を、その場に集まる者達に《銃型HC弐式》で転送する。

「一応、コルッテロの首領や近辺のマップを<ソートグラフィー>した。
 しかし、強奪戦のルール上、通信機器としても使用の出来る情報端末は持ち込めないと思ったほうがいい。今、ここで記憶してくれ」

 他の契約者は頷き、各々のHCや情報端末の表示された情報を覚え始める。
 そんな中。会議が始まる前に、そのような有益な情報を頭に叩き込んでいた叶 白竜(よう・ぱいろん)は呟く。

「相手のテリトリーで戦うことはこの上なく不利だが……人質が取られている以上従うしかない、か」

 白竜の表情は無表情だ。それは、彼が状況が難しいほど、怒りが強いほど無表情で言葉が少なくなることに起因する。
 彼のそんな性格を知っている李 梅琳(り・めいりん)も、同じように心の中では怒りが渦巻いていた。

「そうね。これは明らかに不利な状況よ。なにかの罠、と思ってもいいかもしれないわ」

 梅琳はそう吐き捨て、ダリルの情報が表示されたHCから目を離す。
 優秀な軍人である彼女は、もう全てを覚えることが出来たのだろう。
 同じく、覚える作業の終わったルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、梅琳に声をかけた。

「……梅琳、答えて欲しいことがあるの。
 狙いがあるだろうこの殺人ゲームに『殺す』ことで乗るか否か。
 ルカは隊として殺不殺の方針は必要だと思う。勿論、やむを得ず殺す事はあると思うけど……」

 ルカルカは梅琳を見据え、言葉を続ける。

「この部隊の隊長は梅琳だから。あなたの決めたことなら、なんであろうとルカは反論しない。
 最初から殺す目的で行くのか。それとも、戦ってる間に裏を暴いたり人質を解放する事を目指し、なるべく殺さないように行くのか。
 ……作戦に臨機応変なんて詭弁は通じない。だから、ルカ達がいざとなったときに迷わないためにも、いまここで命令して……梅琳」

 梅琳は静かに目を閉じ、自分の考えを纏める。
 そして数秒で結論を出し、他のメンバーに伝えるために、美しい唇を開いた。

「私は正直、コルッテロの連中をこの手で殺してやりたいほどムカついているわ。
 ……けど、私たちの目的は殺すことじゃない。人質にとられた子供達を助けることよ」

 梅琳は目を開く。透き通るような青色の瞳に、強奪戦に向かう隊員たちが映っていた。

「だから、出来るだけ殺しはしない。裏を暴くことと、人質の解放を最優先させましょう。
 ……甘いなんて言われそうだけど、これが私の命令よ。いいかしら、みんな?」

 梅琳の言葉を受け、隊員たちは一様に頷く。
 それを見た梅琳は詰所に飾られた時計に目をやり、開始時間が迫っていることを確認して、

「それじゃあ、パーティを始めましょうか」

 契約者達を率いて、詰所を後にした。