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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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「ホリイ、バロウズの調子はどうだ?」
「問題ないですよ〜。エネルギー満タン、センサーの調整もバッチリ! これだけの巨体を収納させてくださったアルマさんには感謝ですね〜」
 格納庫に足を運んだ夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)の問いにホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が答え、二人はバロウズを見上げる。十分な調整を受けた『バロウズ』はいつでも出撃出来る準備を整えていた。
「うむ。センサー頼りもどうにかしたいが、それに代わるものもそうそうないしな。気になる地点にカメラは設置したが、後は儂等の努力で補うしかないな」
 腕を組み、甚五郎が頷く。撮影に関してはザナドゥの時とは異なり、特に問題なく動作していたので甚五郎は、拠点の周りに電池式のカメラを設置していた。
「そのおかげで、こちらの仕事が増えたのだがな。甚五郎の言う事にも一理あるが」
「確か、イルミンスールで使用している変換装置を用いれば、地面から電気を得られるそうです。こちらにもいくつか用意できるか、後で聞いてみましょう」
 その、設置したカメラの様子を確認し終えた草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が現れ、四名が顔を合わせる。
「イルミンスールと言えば……上層部は何を考えているのだ。戦場で戦力バランスを考えて敵も味方も撃てとは」
「それについては修正が入ったぞ。おそらく甚五郎のように違和感を覚えた者が直訴しに行ったのだろうが、当面契約者はデュプリケーターを敵として対処するとのことだ」
 憤りを露にする甚五郎へ、羽純が修正されたイルミンスールの方針を話して聞かせる。龍族と鉄族のどちらかが極端に有利になる事態を避けつつ、第三者として戦況を掻き乱そうとするデュプリケーターを早期に無力化させるとの事であった。
「こうも方針を変えられては、儂等は振り回されているようではないか」
「そうかもしれませんが、イルミンスールも不明な点が多いのでしょう。……どうでしょう、今はちょうど時間があります、互いに分からない点を整理し、理解を深めておくのは。
 おおよその情報は、閲覧が可能になっていますので」
「……そうだな。儂としたことが、無用に熱くなっておった。感謝する、ブリジット」
 ブリジットの提案を甚五郎が感謝しつつ受け入れ、一行は疑問に思っている点を議題に出し合う。
「まずは儂から言わせてくれ。
 一つ、この天秤世界、世界樹が無いのではなく世界樹の中、もしくは世界樹の力で作った世界だったりしないか?
 実は平行世界とかで、イルミンスールがエリザベートでは無くミーミルと契約している、かつ何者か……例えば滅びを望むような者に浸食、もしくは取り込まれているような状態だったりしないかという事だ」
「前者の方はイルミンスールでも、この世界は世界樹が関わっているのでは、という推測が出ているようです。後者についてはなんとも」
「イルミンスールと天秤世界の関係はそうだとして、では別の世界とはどういう関係にあるのだろうな。まさか何の関係もないというわけではあるまい」
「それは……いえ、話が飛躍しますね。甚五郎、続きをどうぞ」
「うむ。……二つ、仮に天秤世界に世界樹、又はパラミタの種族が召喚されて戦わされたなら世界樹全てでは無く、イルミンスールだけ深刻な影響を受けるのは不自然だ。ならばイルミンスールにしか解決出来ないか、大きな影響を与えられない事態が起きたのではないだろうか?」
「ああ、それは推測があるようです。羽純の疑問とも関係します。
 世界樹にはそれぞれ、管轄する世界というものがあるようです。そこから力を得る代わりに、何か世界で問題が起きた場合解決する役割を担っているのだと」
「ふむ。つまり、龍族や鉄族、デュプリケーターはイルミンスールの管轄する世界から生じたものであるから、イルミンスールだけが強く影響を受ける、そういう話か?」
「その認識で相違ないかと。……そして、問題が一つの世界だけで解決できなくなった場合に、天秤世界というものがあるのでは、と言っています。問題の諸元を送り、互いに争わせ力を削ぎ、元の世界へ帰す……そうすることで世界のバランスを取っているのだろう、と」
「なるほどな、理屈は通る。今の天秤世界は、イルミンスールの管轄する世界から生じた問題の因子が寄せ集められた状態になっているというわけか」
「う〜ん、なんでイルミンスールだけそんな目に遭ってるんだろうね〜」
「それについては、「運が悪かった」という憶測にまとまっているようです」
「運が悪かった、でまとめていい話なのか……?
 うむ、これまでの話で、複数の世界が繋がっている事は理解出来た。また、龍族にしろ鉄族にしろ、我々の基準だが迫害対象というよりは畏怖の対象である事も推測出来る。
 だから、同じ名前や姿でなくても端末的な存在を利用して複数の世界に存在し世界をどうにかしようとしている同一の存在が自身の脅威となった者を送り込み自滅させようとしている世界ではないか、と思ったのだがどうだ? その存在が世界樹なら根を伸ばせるかもだしな」
「…………、甚五郎はこの事件の裏に、影で操っている存在があると思っているのですね」
「そうだ。そいつらはこのようにしながら、儂等がもがくのを嘲笑っているに違いない。そういう者を見ると虫酸が走るわ」
 腕を組み不敵な笑みを浮かべる表情をして、甚五郎が腹立たしく吐き捨てる。
「ワタシは、デュプリケーターを気にしています。天秤世界は世界樹の力で維持されている世界であるとして、デュプリケーターがこの世界の勝者となるような事態は、果たして起きうるのでしょうか」
「ワタシは龍族や鉄族、他、この世界へ送られてきた種族がどのような境遇にあったのかが気になりますね〜。皆さん何かしらの共通項があったりするのでしょうか」
「……待て待て、一度に3つも議題が出てきているぞ。どれか一つに絞るべきではないか?」
 羽純が抑えをかけようとするも、実際その3つのどれを深めるべきか、どこを取っ掛かりにして深めるべきかが見えてこない。そうこうしているうちに話が泥沼に飛び込もうとしていた矢先、艦内に敵接近を知らせる警報が鳴り響く。
『二方向から接近する、巨大生物をレーダーが捉えました。各機、迎撃に向かってください』
 アルマの声が響き、近くのモニターに映像が映し出される。映っていたのは既に報告されていた、契約者が譲渡したと噂立てられている巨大生物らしき物体であった。
「話は一旦終わりにする、バロウズで迎撃に出るぞ!」
 甚五郎の声に皆が頷き、『バロウズ』へ駆け出す――。

「状況はどうなっている?」
 敵襲の報告を受け、『生体要塞ル・リエー』に戻ってきたセリスへ、マネキ・ング(まねき・んぐ)が答える。
「現れた巨大生物は2体。うち1体はこちらへ向かってこようとしたが、イコンが引きつけていった」
 あわよくば“捕食”してしまおうと目論んでいたマネキングの声には、どこか惜しむような色が含まれていた。
「他に敵が潜んでいる可能性がある、周囲の警戒を怠るな」
 指示を発し、セリスが状況の推移を見守る中、巨大生物とイコンの戦闘が始まろうとしていた――。

『機体コンディション、オールグリーン。……補給を済ませた直後で助かりましたね、真司』
「ああ、その点は幸運だった。ヴェルリア、前方の敵はデュプリケーターに違いないか?」
 真司ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)に問えば、確証はないが可能性は高い、との返事が返ってくる。
『巨大生物がデュプリケーターの手に渡った事で、何らかの改造を受けているかもしれません。十分に気をつけてください』
『そうね、私の勘だけどアレ、私達の知ってる巨大生物じゃないわ。気持ち悪い気を強く感じる』
 真司のパイロットスーツとして纏われているリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)も、ヴェルリア同様前方の巨大生物への警告を発する。無論真司も、油断するつもりはなかった。
「グラビティコントロールシステム、起動。ビームシールド展開」
 真司が呟いた直後、『ゴスホーク』の周りの空間が歪み、歪みは『ゴスホーク』の挙動に追随して変化する。万物が等しく受ける影響に干渉し、法則を超える挙動を手に入れた『ゴスホーク』は、左腕のビームシールドで守備を固めつつ巨大生物の行動を予測する。
(元々は、強靭な顎と鱗粉による攻撃。これらの強化に加え、一つか二つ、新しい攻撃方法を獲得していると予測出来る……)
 それは接近戦用か、それとも遠距離用か――真司の予測に回答を与える行動を巨大生物が取る。頭部に据えられた女性を模した像の顔が動き、口に高エネルギー反応が発現する。
「!」
 瞬間、そう表現したくなる速さで口元からビームが放たれ、『ゴスホーク』の歪めた空間に逸らされ、掻き消える。
『今の一撃で、グラビティコントロールシステムに異常が生じています。停止には至りませんが機能の大幅な低下が見込まれます』
「ちっ、なんて威力だ。……だが連射は出来ない、この隙に!」
 次の射撃が来ないのを見越し、真司は右腕の武器を射撃モードにセットし、頭部の女性像へ見舞う。二発、三発と打ち込まれるプラズマ弾、だがその全ては一対の前足に阻まれる。
(ライフルでは威力不足? たった数日の間にどれほど強化されているというんだ!?)
 敵の改造具合が相当のものと理解した真司は、危険を承知で接近戦を試みる。ビームシールドの出力をブレードに回し、高出力とした上で接近、刈り取らんと振るわれた前足が機体に触れる直前、機体を瞬間移動させ女性像の背後に出現、首筋を狙ってブレードを振るう。
『――――!!』
 生物が発する悲鳴を上げ、女性像の首を落とされた巨大生物が喚く。攻撃方法の一つを潰したと思った矢先、真司はもう一つの攻撃方法を目の当たりにする。
「うわっ!」
 巨大生物の3対の羽が分離したかと思うと、その先端から先程放たれたビームが飛んでくる。一発の威力こそ先程のビームを下回っているが、全方向から飛んでくるビームを避けきるのは不可能に近かった。
『グラビティコントロールシステム、さらに出力低下。このままでは維持が不可能になります。
 真司、こちらもレーザービットによる敵のオールレンジ攻撃への対抗を提案します』
 ヴェルリアの意見に、一瞬、『こちらの手の内を見せ過ぎては、デュプリケーターに学ばれる可能性があるのでは』と思い至る。
(……いや、既に十分な教育を受けている可能性が高い。それにここで出し惜しんで、排除できる相手でもない)
 判断を下し、ヴェルリアにレーザービットの射出を指示する。ヴェルリアの意思で宙を舞う4機のレーザービットは、数の上では不利ながら敵の分離する羽を抑え込んでいった。