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フューチャー・ファインダーズ(第1回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第1回/全3回)

リアクション


【9】


 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の三人は、人目につかない空き地で、装備品と使える能力を確認していた。
 軍で訓練を積んでいるため、記憶を失う不測の事態にも、とりあえずは立ち止まらずにいられる。けれど確認の結果は散々だ。使用可能な装備と能力は、この困難を乗り越えるには随分と心許ない。
「……まるで忘却の川を渡ったかのようだわ」
「経験も無いのに言うな、ルカ」
「ジョークよ、ジョーク。場を和ませようと思って」
「この状況では、愛想笑いすらする気になれんな」
「いつも愛想笑いすらしない癖に……」
 三人は、次に都市の全景を確認することにした。
 ベルフラマントで身を隠してから、カルキノスの空飛ぶ魔法で飛ぶ。
 東には果てしなく広がる海と港が。南には更に大きな港とたくさんの倉庫が。北にはそびえ立つ大神殿が。西には第8地区と比べ、貧しい街並が見えた。
「……北と西は、更にその奥にも都市が広がってるようだな。随分とデカイ都だ。んで、ルカ。これからどうすんだ。どっちに向かう?」
 カルキノスが言うと、ルカルカは、カメラで都市を記録しながら答えた。
「西に……。西に行こう。勘だけど、あそこには何かある気がする」
 そのまま三人は、激しい戦闘の行われる跳ね橋を越え、空から第7地区を目指す。

 姫宮 和希(ひめみや・かずき)ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)カカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)は、クルセイダーの目から逃れながら、第7地区に通ずる跳ね橋に向かった。
「俺達が気を失っている間に、メルキオールが世界征服しちまったのか?」
 和希は、見たこともない町をきょろきょろと見回した。目が覚めてから、わけのわからない事ばっかりだ。
「……二人とも、あれを見るにゃ!」
 ミュウの肩に乗る猫又ゆる族のカカオが叫んだ。
 見れば、跳ね橋の前に、爆発と閃光が巻き起こっているではないか。
「うわわ。なんか、ドンパチがおっぱじまってるぜ。どうする、姫やん?」
「どうするっつったって、ここまで来ちまったら、先に進むしかねぇだろ。ちょうど跳ね橋も下り始めてるし、行くなら今しかねえ」
 そう言うと、和希はミュウをドラゴンアーツでお姫様抱っこした。
「……え? な、なに?」
 ミュウの頬が赤く染まった。
「面倒くせえから、このまま行くぜ。しっかり捕まってろよ」
 それから、軽身功を使って、乱戦状態の戦闘を飛び越え、一気に跳ね橋に近付く。
 その時、管制塔から真司に肩を貸してアレーティアが出てくるのが見えた。そして、彼らに襲い掛かろうとするクルセイダーの姿も。
「あ、あぶねえ! 逃げろ!」
「ちょっと寄り道するぜ、ミュウ」
 和希は、クルセイダーの頭を踏み付けて、襲撃を阻止する。
「……なっ?」
 驚くアレーティアと真司に、ミュウとカカオは親指をおっ立てた。
 そのまま三人は橋をこえて、第7地区に消えて行った。
「……なんだったんだ、今のは?」
「通りすがりの援軍と言うところかのぅ。助かった」
 そこに、4t仕様のアルミバントラックが現れた。
 桂輔が、逃走用に、町で調達してきたトラックだ。桂輔は助手席に。運転するのは、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)だ。
 管制塔の前に、横付けすると、桂輔は銃でクルセイダーを牽制しながら降りた。
「みんな、早く荷台に乗れ! とっととここからおさらばしようぜ!」
 アレーティアと真司が乗り込み、ヴェルリアとリーラも続く。それから舞香、美凜、綾乃、ミィナも乗り込んだ。
「あとは……」
「俺たちも乗せてくれ……!」
 川に落ちて、濡れ鼠になった宵一が言った。
「ああ。まとめて乗れ……って言うか、なんでビショビショなんだ?」
「後で説明する……ハーックション!」
 宵一、ヨルディア、リイムも乗り込んだ。
 その時、ドサクサに紛れて、レンも荷台に乗った。
「誰だ、あんた?」
「通りすがりの30代無職だ。俺も乗せてくれ」
「なんかよくわかんねーけど、セツナイな、あんた。いいぜ、乗れよ」
 そこに、陣と真奈が戻って来た。
「お、待ってたぜ……」
「桂輔くん! 早く車に乗るんや!」
 二人の後ろに、異様な気配を発する闇、ヌギルが迫っていた。
「……な、なんだあいつ……」
「ククク……」
 桂輔は慌てて助手席に。アルマはエンジンを全開にして、車を急発進させた。
「シートベルトをして下さい!」
 そして、そのまま跳ね橋に突っ込んだ。
「うええ!? アルマ、まだ橋が下りきってないぞ!」
 シートベルトを締めながら、桂輔は叫んだ。
「下りるのを待っていたら、追いつかれます。捕まっていて下さい!」
「うわっ!」
 斜めになった橋は発射台だ。爆走するトラックは、打ち上げられたロケットのように空を舞った。

 一足先に第7地区に渡った、和希とミュウは、市民から情報を集めようとしたのだが、寂れた通りには人っ子一人いなかった。
 街灯に付属する拡声器から、跳ね橋で戦闘が発生した事を知らせる放送が流れ、市民に外に出ないよう呼びかけているのだ。
「参ったな、これじゃ話を聞けないぜ」
「あ、あそこ!」
 ミュウは民家を指差した。カーテンの隙間から、様子を窺う人影が見えた。
 しかし話しかけようとした途端、ぴしゃんとカーテンを閉められた。
「あ……」
「あそこに、子どもがいるにゃ!」
 カカオが、柱の陰からこっちを見ている男の子を見つけた。
「なあ、ちょっと話を聞かせてくれよ。ほら、動物ビスケットもあるぜ」
「びすけっとー」
 男の子がお菓子に釣られそうになった時、お母さんらしき人が猛ダッシュで男の子をかっさらって去っていった。
「だ、ダメだ。全然、話を聞いてくれねえ」
 同じく一足先に第7地区に来たルカルカ達は、即空き家に身を隠した。
 二階の窓から外の様子を眺める。肩を落としてトボトボと通りを行く和希とミュウ。それから、橋のほうから、爆走してくるトラックが見えた。
 ダリルとカルキノスが、見張りをする中、ルカルカはテレパシーで、友人知人に手当たり次第に呼びかけてみた。もしかしたら、同じ境遇に置かれている仲間がいるかもしれない。
 すると、恭也と唯斗から反応があった。
「繋がった、やっぱり何人かはこの世界に来てるのね!」
『そのようだな。ルカも元気そうでなによりだ』
『ああ。とりあえず今、皆どういう状況だ?』
 二人と現状報告を交わし、唯斗から、彼の調べた都市の歴史について聞き、東のサルベージラグーンに向かう恭也とは、また後で連絡を取り合う事を約束した。
「……2046年。23年後の世界か。すると、手の数字はやはりここにいられる”滞在時間”を示しているのかもしれんな」
 ダリルは言った。
「滞在時間?」
「カルキ、お前の手の数字と、俺の手の数字は同じ数字だ。タイミングも同じく減っていく。今、9870になっているな」
「俺たちが気が付いた時は、確か、10060ぐらいだったか」
「ああ、約180減った事になる」
「180……って、あ、もしかして」
 ルカは気が付いた。
「そうだ。俺たちの目が覚めてから約3時間が経過している。つまり180分だ」
「1分で1、減ってるってわけか。と言うことは、ええと、最初が10060ってぇ事は……」
大体一週間だ。それが俺たちに与えられた猶予なのだろう」
「一週間の間に、私たちがここに送り込まれた目的を果たせってことか」
 その時だった。
 階段を上ってくる足音が聞こえ、複数の男達が部屋に入って来た。クルセイダーではないようだが、布で顔を隠し、それぞれ武装している。
 一瞬、緊張が走ったが、男達は敵意を持ってはいなかった。
「特務隊の方とお見受けする。ここに居ては危険だ。アジトに案内する、一緒に来てくれ」
「アジト?」
 彼らに連れられ、地区の奥の酒場に行くと、そこに他の仲間も集められていた。和希とミュウ。真司、陣、桂輔。舞香、宵一、レン。全員揃っている。
 みんなの前に立つ、リーダーらしき男は、痩せた壮年の男だった。けれど、その目は鷹のように鋭く、彼が幾多の修羅場をくぐり抜けて来た人物であることは、すぐにわかった。
「これで跳ね橋を突破してきた人間は全員揃ったな」
 男は、値踏みするように、みんなを見た。
「俺は、レジスタンスのリーダー・サマーブルーだ。第7地区へようこそ、特務隊の諸君」
「レジスタンス?」
「特務隊?」
 まったくわけがわからなかった。
「……諸君らは、日本が派遣した特殊工作員ではないのか?」
「……え? え?」
 サマーブルーも、なんだか様子が変なことに気が付いた。
 こちらの置かれている状況を説明すると、彼はますます困惑の表情になった。
「記憶喪失で……過去からやってきただと?」
「疑う気持ちはわかる。だが、おそらくそうなんだ」
 ダリルは言った。
「……諸君らの話はにわかには信じる事は出来ん。しかし、諸君らも教団と敵対している点では同志だ。ここはお互い、協力し合わないか」
「……右も左もわからねえし、断る理由はねえ」
「このおっさんも悪い奴じゃなさそうだしな」
 和希とミュウは言った。
「その申し出、ありがたく受ける。ただ、お前達のことも教えてくれないか」
 レンがそう言うと、サマーブルー含め、レジスタンスの一同は姿勢を正した。
 彼らは、新海京がグランツ教に接収された際に、教団に入信しなかった第7地区市民で、教団から新海京を取り戻すために反攻活動をしているレジスタンスだ。
 同じく元の領土である新海京を取り戻そうと躍起になっている日本と、彼らは協力体制にあり、日本が派遣してきた特務隊と反攻作戦を計画している。
 そのため、クルセイダーと戦闘を繰り広げたみんなを、特務隊のメンバーと間違えてしまったそうだ。
「反攻作戦と言うのは?」
 真司が尋ねた。
「君達は知らないと思うが、かつて海京では、ある超兵器の開発を行っていたのだ」
「ああ。”グランガクイン”やろ」
「違うぜ、陣さん。地球圏絶対防衛用超弩級決戦兵器グランガクイン、だよ」
 陣と桂輔の言葉に、サマーブルーが目を丸くした。
「な、何故知ってる!?」
「何故って……なあ?」
「うん。だから、俺達過去から来たんだって、おっさん」
 海京崩壊とともに消失したグランガクインだが、レジスタンスと派遣された特務隊の調査の結果、グランツミレニアムの地下に眠っている事がわかった。この都市は、海京の上に造られた人工島。ゆえに地下部分では、海京と繋がっているのだ。
「長年、調査に時間を費やした甲斐もあって、グランガクインがあると思しき場所は特定出来ている。我々の目的は、グランガクインの回収。及び、復活だ。この超兵器は、新海京を教団から取り戻すための大きな力になってくれるだろう」
 外では、警報が鳴っている。
 地区に入り込んだ異分子を炙りだすため、クルセイダーが動いているようだ。
「随分、派手に暴れてくれたな」
「不可抗力よ。好きで暴れたわけじゃなくて、しょーがなくなんだからねっ」
 舞香は言った。
「ここは大丈夫なのか?」
 宵一が尋ねると、サマーブルーは首を振った。
「いや、ここもすぐに見つかる。移動しよう」
 その時、壁にかかっている一枚の写真に、ルカルカはふと目をやった。
 古い写真だ。二人の男が映っている。一人はサマーブルーだ。今よりももっと痩せ、ひどく顔色が悪かった。
 もう一人は、ルカルカの知っている男だった。金髪に小麦色の肌。サングラスに、サーフボードを持った男。
「……サーファー刑事
 二人は、肩を組んで仲良く笑っていた。