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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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「龍族が手合わせを申し込んできただと?
 面白ぇ。俺とピヨの力、とくと見せつけてやるぜ! 行くぞ、ピヨ!」
『ピヨ!!』
「アワワ、急に走らないデ、落ちちゃうワ」

 龍族が契約者に手合わせを申し入れてきたという話を聞くやいなや、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)ジャイアントピヨと、指定された場所にすっ飛んでいってしまった。
「あやつら、手合わせはまだ当分先というに、何をするつもりじゃ」
「なんでしょうねぇ? 秘密の特訓とか、でしょうか」
「アキラがそんな性格か? どうせ『カッコ良く登場する方法』を練習しとるに違いないわ。
 そんな調子で、当日ケガでもされたらかなわん。わしの方で情報集めなど、必要なことはやっておくか」
 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が嘆息しつつ、手合わせに向けた準備を検討する。
「では私は、みんなのご飯を作りますね〜。育てていた作物が実りそうなんですよ〜」
「ほう、この世界でも作物はしっかり育つようじゃな。荷物の運搬はわしの小屋を使うといい」
 ルシェイメアに頷いて、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)は自分が世話している畑へと足を運ぶ。ちょうど隣の水田では、志方 綾乃(しかた・あやの)が二度目の米の収穫に勤しんでいた。通常考えられる米の成長の何十倍も速いのは、綾乃が使用している種モミが自然淘汰を繰り返して生き残った、いわばエリート中のエリートだからである、という意見があった。何せこの種モミは、パラ実の不毛の大地ですらしっかりと成長し、驚異的な速度で収穫可能となる代物である。もっとも、ただ種モミから米を収穫し、一部を種モミとして残し来年植える……では、いずれ普通の米に戻ってしまう。そこには種モミ剣士の『苗床』の存在が必要不可欠なのであるが……うっかり知ってしまうと明日からお米を食べられなくなってしまうのであえて触れないでおこう。とにかくこのお米は、二度や三度程度の収穫であれば通常の何十倍の速度で成長し、収穫可能なお米なのである。
「おや、セレスティアさん。今日も畑仕事に精が出ますねぇ」
 黄金の種籾戟を振るいながら、綾乃がセレスティアに挨拶をする。隣同士の縁ということもあり、普通に話をする程度には仲良くなっていた。
「はい、そろそろ収穫出来そうで、楽しみです。
 ……そういえば綾乃さんは、龍族が契約者に手合わせを申し入れてきた話を知っていますか?」
 セレスティアが尋ねれば、綾乃はええ、知っていますよ、と答える。
「当日はここで穫れた米を炊いて、おにぎりを作って持っていこうと思うんです。
 同じ釜の飯を食べることで、両者の間に新たな関係を築くことが出来ますからね」
 そう口にする綾乃、実はもう一つ、龍族の反応や感触を見、拠点で収穫できる食糧が取引に使えるかどうかを判断するという目的があったが、それはここでは口にしないでおく。
「素敵ですね〜。あの、私もお手伝いしてもいいでしょうか?」
「構いませんよ、作る人は一人でも多い方がいいですからね」
 こうして、当日に向けての準備が進められていく――。

「……くっ! ダメだダメだ、こんなんじゃ到底――!」
 地面に膝をつき、アキラが己の無力を嘆く。アリスとピヨが見守る中、ガバッ、と顔を上げたアキラが空に向かって叫ぶ。

「こんなんじゃ到底、カッコイイ登場の仕方が出来ねーじゃねーか!!」

 コケッ、という音が聞こえてきそうな素振りをピヨとアリスが見せる。
「いや、その葛藤はおかしいワ」
「なんでだよ!? どれだけカッコ良く登場出来るかは重要な要素だろ!?」
 真面目にどうでもいいことを主張するアキラに、アリスがふぅ、とため息をつく。わざわざ指定の場所に来た結果がこれとは、どうなんだろう、と思っていた。
「言っとくけどな、これも思いっきりやるための前準備なんだぞ。
 それくらいじゃないと、こっちの気持ちだって伝わらないんだ」
 しかし、アキラの言葉にアリスは考えを改める。確かにアキラの言う通りだし、思い切りやるためにこういうことが必要なら、いいんじゃないか、と思い始める。
「うし、次のが思いついた。行くぞピヨ、アリス」
『ピヨ!!』
 次の案を思いついたアキラが、アリスとピヨに乗る。
「……ま、このまま付き合ってあげるワ」

 ――こうして、三人(一人+一体+一匹、とも言う)の練習の日々が過ぎていき。
 いよいよ、手合わせ当日を迎えることとなった。


 ケレヌスが手合わせに指定した場所は、ポッシヴィから南東に向かった先にあった。
「ケレヌスさんが指定したのは……ここだね。それじゃ、始めようか」
 指定した場所を見渡せる小高い丘の上に立ち、赤城 花音(あかぎ・かのん)ウィンダム・プロミスリング(うぃんだむ・ぷろみすりんぐ)が音楽の結界『アヴァロン』の準備を行う。手合わせが行われるフィールドを結界で包み込み、外からの襲撃に備えると同時に内部でも、命の奪い合いにまで発展するような戦いが起きないようにするためであった。
「歌を歌い終わらないと織り成せないのは……まあ、仕方ないよね。
 でも、持続させるにも歌う必要があるのは、使い所が限られるよね。何か別の方法があるといいんだけど」
 花音たちがこれから展開予定の『アヴァロン』を始め、歌うことで何らかの効果を具現化させる、言うならば『詩魔法』は、当然ながら歌うことを必要とする。歌い手はその間、どうしても無防備になる。歌い手を守る十分な前衛がいればいいが、時には歌い手が単独で行動を起こさなければならない場面もあることを考えると、歌うことに代わる、詩魔法を発動・持続させる手段を編み出しておくことは有用であった。
「最近、光条兵器の新たな利用法が見出されたわよね。
 光条兵器に歌をインストールして起動させることで、歌うのと同じ効果を発揮出来ないかしら?」
 ウィンダムの言葉に、リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)も同様の可能性を口にしていたことを思い出す。今彼はイルミンスールに戻り、アーデルハイトにイコンレベルでの『アヴァロン』のような詩魔法の実用化のアイディアをもらいに行っていた。それは天秤世界での戦いを終わらせるための方法の一つでもあった。
「花音、準備出来たわよ。いつでもオッケー」
「うん、それじゃ、ミュージック……スタート!」

『♪〜〜〜』

 携帯プレーヤーから、今日のために創り上げた新曲が流れる。
(ボクは……決意を持って、敢えて武器を取り戦う事の全てを……否定できないと思う。
 戦いの中で分かり合うこと、通じるものを創り上げること……そういうのがあってもいいと、ボクは思いたい)
 そう思う一方で、人々が良く治まり、争い事のない世――『天下泰平』という言葉が花音の頭の中に浮かんだ――であってほしいとも思う。
(今、ボクがアヴァロンを使う願いは……そんな未来を切り開く力を確かなものにするため。
 ケレヌスさんたちに、伝わるといいな。ボクたちの想いが……願いが)
 花音の視線が、腕に付けられた『蒼十字』の腕章に行く。今日はメンバーはそれぞれ別行動という形ではあるが、きっとこの同じ空の下、同じ夢と願いを抱いて行動している、そんな気がした。
「それじゃ新曲、『ニルヴァーナ』、行くよ!」
 花音とウィンダムが息を吸い、声を空へ響かせる――。

 今、世界が色付き始める 輝く透明な太陽
 受け継がれた記憶を探し 遠い明日を目指す旅人
 終わらない、終わらせない 立ち上がる何度でも
 凍れる時を動かそう 断ち切ろう終末の宿命

 煌めくプリズム 七色のグラデーション
 隠れていた真実の扉 輪郭を取り戻すよ

 創世の絆、織り成す願い 幾重の夢を描く物語
 積み重ねた出会い 手のひらに伝わる想い
 創造の翼を広げて 沢山の笑顔を届けに行こう
 心の在り方は無限大 遥か彼方…

 未来はきっとエターナル



●イルミンスール:校長室

 リュートから『イコンレベルの聖歌結界の実用化』の話を持ちかけられたアーデルハイトが、難しい顔をして腕を組み、思案するような仕草を見せる。
「出力の規模をイコンレベルに引き上げることで、より広範囲に高出力の詩魔法を展開出来るはずです。
 ウルヌンガルを用いるのも選択ですが、機動力に難があります。防ぎ切るのが難しくなった現状、被弾しない事が何より重要だと思います」
 リュートの発言にあるように、イコンも様々な研究・開発が行われた結果、武器の威力がインフレーションを起こしていた。これに対して機体そのものの性能はそう向上していないため、結果として『万全の状態から一発直撃しただけで大破』という事態が見られるようになっていた。
「……とはいうものの、イルミンスールのイコンは魔法障壁による装甲補助型が主流。
 推進力に魔力を補助として用い、高機動を確保することも出来んことはないが、それでは詩魔法を用いるのに使用する魔力が確保できぬ」
 障壁に用いる魔力の消費と、推進に用いる魔力の消費とでは、後者の方が大きい。そういうこともあって、イルミンスールのイコンは機動力よりも防御力を重視している傾向にある。
「詩魔法の使用自体は、マギウスの支援兵装『マジックステッキ』に詩魔法をインストールすることで使用可能となろう。
 私としては、後はこのステッキを最大出力で上回るウルヌンガルに装備させ、行使するのが最も実用性が高いと思うのじゃがな。ステッキは装備しておくだけで良いのじゃ、自衛はウルヌンガルに装備した武器である程度は行える。裏を返せばそれが限界でもある。
 天御柱のイコン等なら機動性にも優れるが、詩魔法との相性もあるでな。私が言うのも何じゃが、魔力という如何様にでもなるエネルギーを効率的に使えるのは、『アルマイン』が一番じゃ。『ウヌルンガル』もまあ、十分ではあるがの」
「そうですか……。ではとりあえず、『マジックステッキ』への詩魔法のインストールという手段で、イコンレベルでの詩魔法、聖歌結界の実用化は可能になると思っていいのでしょうか」
「可能にするだけの基礎は、な。後はそれを行使する者の心次第、じゃよ」
 必要な作業はこちらで進めておこう、と告げたアーデルハイトに礼を言って、リュートが校長室を後にする。