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リアクション
二つの刀は、しかし、アルブムの細い喉を掻ききる前に止まった。
無論、それは甚五郎の意思ではない。
甚五郎の一撃を、東 朱鷺(あずま・とき)が八卦術で止めたのだ。
「邪魔する奴は、指先一つでダウンです!」
ラルウァの試験であり、久々に本気を出せる朱鷺は、かなりのハイテンション。
甚五郎は二人から距離を取るため、一度離れる。
朱鷺は甚五郎から視線を外してアルブムを見る。
アルブムは尻餅をついて、朱鷺を見上げていた。
その姿を見て、朱鷺はため息をついた。
「アルブム・ラルウァ……いえ、棺姫」
言い直し、アルブムを見つめる。
その目は真剣なものだった。
「朱鷺は覚悟を決めました。ラルウァ家として生きる覚悟を。
キミは覚悟したのではないですか? その道を歩むことを、キミは既にラルウァ家の一員なのです。朱鷺が今目指す者なのです」
「……お姉さん」
「朱鷺はキミとキミ達と共に歩く覚悟を決めました」
アルブムは彼女の名前だけを呟き、話に耳を傾ける。
「……朱鷺はキミの過去に何が有ったのかは知りません。
……興味はありますが、今はそれを知る時ではありません。今は、この試験を突破する事だけに集中したいのです。ですので、その過去を乗り越えて下さい。今すぐに! その場所で停まっては行けません」
「……でも」
「一歩前へ進みましょう、歩みましょう。先ほども言いました。
朱鷺はキミと、キミたちラルウァ家と共に歩く覚悟を持っていると……このまま……その過去と心中するのですか?」
「――っ!」
「そのまま停まっているのなら置いて行きますよ。そして、追い越していきますよ? 朱鷺は進みます。朱鷺の道の為に……さぁ、目覚めるのです」
朱鷺はアルブムに手を伸ばす。
アルブムは一瞬、躊躇うように視線を泳がせると再び朱鷺を見つめ、
「……追い越すなんて、お姉さん、生意気。あたいは……アルブム・ラルウァなんだから」
彼女の手を取り、立ち上がった。
朱鷺はアルブムの姿に微笑みを返すと、二人は互いに背中を合わせた。
いつの間にか挟撃される形になっていて、アルブムの前には御凪 真人(みなぎ・まこと)とセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)の二人組が立っていた。
「話は終わったみたいですね。不意打ちで倒してはこちらも気分が悪いですからね」
真人の言葉にアルブムはハッと鼻で笑ってみせる。
「……お兄さんは、最大のチャンスを逃した。もう二度と、そのチャンスはこない」
アルブムの言葉に朱鷺は嬉しそうな顔をする。
「その調子なら大丈夫そうですね。そちらはお任せします」
「……生きてたら、また会おう」
二人は短く言葉を交わすと、互いに正面へ向けて走り出した。
「悪いですけど、その体を返して頂きますよ。
舞台を降りた俳優を無理やり舞台に上げるのは道理に反しますよ。彼の幕はもう下りました。最後の幕を引いた者として貴女の行為は無視できません」
「……偉そうにっ」
アルブムは正面に立っている真人たちに向かってストゥルトゥスをけしかけた。
「そうはさせないわ!」
セルファは真人の前に立つと、ストゥルトゥスと切り結んだ。
「あなたの相手は私がしてあげる」
「……お姉さんじゃ、役者不足!」
アルブムは鋼糸を操り、ストゥルトゥスでセルファに攻撃を仕掛ける。
セルファは法と秩序のレイピアでストゥルトゥスの攻撃をいなすと、相手の攻撃の隙をついてソードプレイの斬撃を見舞った。
セルファが集中しているのを見て、アルブムは魔法ので応戦しようとする。
「魔法戦なら俺が相手をするよ」
真人は雷術でアルブムを直接狙った。
「……ちぃ!」
アルブムはセルファから真人へと向き直って雷術に応戦した。
「こっちがお留守になってるわよ!」
セルファは動きは鈍くなったストゥルトゥスに斬撃を加える。
防戦状態になったアルブムに真人は挑発の意味も込めて言葉を送る。
「いくら、その体が優秀でも括り手が二流では遠く及びませんよ」
「……っっ」
アルブムは一瞬押し黙ると──魔法の位置を下に下げて真人の足下を爆破した。
真人が体勢を崩すのを確認して、アルブムはストゥルトゥスを操りセルファに反撃を加える。
「きゃっ!」
不意に動きが鋭くなったストゥルトゥスに面食らったセルファは真人の傍へと飛び退り、正面を見据えながら真人に声をかける。
「大丈夫?」
「なんとか……。どうも、挑発は効きそうにないですね。この短い間に、成長したようです」
「なら……正攻法でいくしかないわね」
「そうしましょう」
真人が立ち上がると、セルファは再びストゥルトゥスに斬りかかり、真人はアルブムに向けて雷術を放つ。
精神的に成長を遂げたアルブムは見事なコンビネーションの二人組と対等の戦いを繰り広げた。