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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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第2章 ホーティ義賊団のファーストミッション 2

「こっち、ですね……」
「こっちかい?」
 レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)とホーティが先頭にたち、中央コンピュータ室を目指していた。
「……あった! ここだね!」
「そうみたいですね」
 ホーティの声にレジーヌが答える。中央コンピュータ室に到着したのだ。
「よーし、それじゃ乗り込んで……」
「ホーティさん、これどうぞ」
 共に来ていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がホーティに一輪の赤い薔薇を手渡す。
「なんだい、これは?」
「緊張がほぐれるかなと。大丈夫、きっとなんとかなる。一緒に無転砲を止めよう」
 エースはいつもと違う空気を感じ、ホーティの体が少しだけ強張っていることを見抜いたのだ。
「……ふん。まあ、ここまで来たら一緒にやるしかないんだ。少しくらい、頼りにさせてもらうさ」
「光栄だよ」
「さあ野郎共! きばるんだよ!」
 己の恐怖心を薔薇に託し、中央コンピュータ室の扉を開ける。刹那、熱波がホーティたちに襲い掛かる。
「な、なんだい!?」
「ホーティさん!」
 レジーヌがホーティを抱えて横に飛び退く。
 他の契約者たちも扉から離れたため、大事はなかった。
「あーらら、『先手必勝一網打尽作戦』は失敗ですかい。っち」
 ガラの悪い、猫背の騎士が一人。“赤き風”、ザラン。
「いきなりご挨拶だね。レディに対して不躾すぎないかい?」
 エースの言葉に、ザランはあざけ笑いながら答える。
「は〜? 下劣で、下等なお前らに何なーんで礼なんざ尽くすんだ? ハーッハッハッハ!」
 どこまでも、どこまでも相手を見下した言い方をするザラン。
 これにはエースもため息をこぼした。
「話し合う気は毛頭なかったけれど、まさかここまでとはね……まあかえってやりやすいかな?」
「ちょいとそこの赤いの! 危ないじゃないのさ!」
 レジーヌに助けられたホーティが起き上がりザランを指差す。
 レジーヌに小声で「ありがとう」と言っていたことは内密にしておこう。
「あーあーぴーちくぱーちくうるせぇよこの露出狂が。今の一撃で消し炭になりゃよかったものをよぉ。ったく、生命力だけは一人前にありやがるよなあ?」
「だーれが露出狂さね! あんたこそ、天上人の割にはあったまの悪そうな顔と姿勢して、みっともないったらありゃしないよ!」
「あんだとぉ!?」
「なにさ!?」
 どうやら、ザランとホーティの相性は最悪のようだ。が、ホーティ以上に短気なザランが即座に行動に移る。
「あったまきたぜ。お前らなんざ一秒で消し炭だ!」
 自慢の風、全てを焼き尽くす炎の風をホーティに差し向ける。
「同じ手を二度も使うなんて、二流だよ!」
 ホーティはどこに隠し持っていたのか、鞭を取り出して部屋の外壁のでっぱりを掴み、思い切り引っ張る。
 ホーティの体は壁側へと移動し、ザランの攻撃は酸素を燃やすだけとなった。
「私も、できることをしなきゃ……」
「うん。俺たちも全力でフォローするよ。……倒しちゃうかも、だけどね」
 レジーヌの決意を前にエースが協力の意を示す。と、同時に『ホワイトアウト』を使用し、コンピュータ室に猛吹雪を巻き起こす。
「これで奴もそう簡単に動けないだろう」
 エースと一緒に『ホワイトアウト』を使用したメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がそう言う。
 しかし、その思惑は外れることとなる。
「もしかして、この猛吹雪なら奴の炎は何もできないだろう、とか思っちゃったりしてるわけぇ? そいつはさ、大間違いなんだよなああ!」
 荒れ狂う猛吹雪の中に真っ赤に燃え盛る風が見える。その風は、猛吹雪さえも溶かし、飲み込んでいき、ついには吹雪は赤き風に染まってしまう。
「……少し予想外、かな」
「ぶっちゃけさ、四騎士の中じゃ俺の攻撃、破壊力抜群なわけで。つまり最強ってこと、そこんとこ理解したか?」
 勝ち誇るように言い放つザラン。
「あなたが四騎士とは、嘆かわしいものね」
 隙だらけのザランの懐へリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が走っていた。
 その勢いのまま『シーリングランス』を発動し、ザランを強襲する。しかし、その攻撃は白騎士を貫いただけに終わる。
「はいざんーねーん! ナイトの回りにゃ代わりの駒のポーンがいくらでもあんだよばあああか」
「あなた、味方を駒呼ばわりするなんて」
「味方? ちげーよ、こいつらは俺の駒、好きに使っていい捨てキャラなんだよ。ハーッハッハ!」
 ザランはそう言いながら、一体の白騎士を自分の風で焼き殺した。
「……なんてことを」
「リリアさん! 一旦下がってください! いくら防御力が上がっていても、その風を受ければただではすみません!」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が『弾幕援護』を使い後退する時間を作る。
「弾遊びは下界でやれよ!」
 全ての銃弾を難なく焼き尽くしたザラン。その隙にリリアが一旦後退する。
「なんだなんだ? 全員臆病風に吹かれたってのか? なっさけないねぇ!」
 完全にホーティたちをなめきっているザラン。
 その成り行きを見守っていた、赤き髪を棚引かせるセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)と、冷蔵庫、ではない冷 蔵子(ひやの・くらこ)が動いた。
「お前のは余裕ではなく、油断と言うんだ」
 【潜在解放】を行い、ザランへの間合いを一気に詰める。
「援護しないとね」
「ああ」
 それを見たエースとメシエが再びホワイトアウトを、更にエースは『群青の覆い手』も使用する。
「っち! さっきより風の通りがわりぃ! おいそこの! なめたまねしてんじゃねぇ!」
「さて、誰のことやら」
「くそがあ!」
「行ったそばから余所見をするとはな。油断、というのもおこがましいか」
 冷静さを欠いたザランの眼前にセリスが、更にはリリアが立つ。
「今は時間が惜しいの、さっさと倒れてよね!」
「そんな攻撃、くらうかよ!」
 リリアの攻撃を後ろに跳んでよける。だが、それをセリスが見逃すはずはない。
「いいのか? 飛び退いてる間は無防備になるが……」
「はっ! 俺には最強の風があんだよ!」
「ならその風、斬らせて貰う」
 『古代の力・熾』で分身を出し、自身は【真空波】を叩き込む。ホワイトアウトや群青の覆い手の効果なども手伝い、ザランの風が一時的に霧散する。
「頼んだ」
「了解デス。弾幕、スタンバイ。……行きマス!」
「ついでに僕も参加しますね」
 蔵子とエオリアによる弐連奏の『弾幕援護』。その攻撃はザランに当たるものの、致命傷になる前にザランの風が復活する。
「くそ、気にいらねぇきにいらねぇきにいらねぇええええええええ! お前ら全員、灰も残さねぇぞおお!!」
 吼えるザラン。その背後に三人の影。
「キレるのはいいが」
「あなたの背後」
「ガラ空き、です」
 ザランの背後がお留守になったのを見たセリス、リリア、レジーヌが三人同時に背後からザランを攻撃。
「ぐ、あああ!! んの、ちょこまかとおっ!」
 赤き風を振るうも、既に三人の姿はなく空を焼くだけに終わる。
「くそどもが! 蠅なら蠅らしく、虫ケラらしく死ねばいいんだよ!!」
「一寸の虫にも五分の魂、フフフ……」
 どこからともなくそんな呟きが聞こえてくる。
 声のするほうを見れば、招き猫のシルエットが浮かび上がっていた。
「我の名はマネキ・ング(まねき・んぐ)。フフフ……さあ、貴様の力で焼きアワビが無限に作るのだ! 我の軍門に下り、非正規労働者として一生を過ごすがいい!」
 妄言を言うマネキ。その横には自称・愛の戦士マイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)も立っていた。
「やぁ、兄弟! キミもボクと同じく【愛の炎】の持ち主なんだね! グゥレイト! さあ、手を取り合おう!! ボクたちの出会いを祝して【愛の炎】を燃やそう!」
「……何なんだ何なンだお前らはあああああああ!!」
 訳のわからない二人の言動に完全に理性をぶっとばしたザランが燃え盛る。
「ああ、お前たち。その調子で引き付けておいてくれ」
「焼きバナナ、焼きおにぎり……フフフ……これで財は思うがまま……!」
「愛の火は、炎となり、さらに火炎となる! さあアガペーを燃やし続けよう!」
「……言うまでも、なさそうだな」
 ザランが二人に気を取られている間にセリスと蔵子が制御コンピュータへと向かう。
「……任務とはいえ、気が引けマスね」
「というか、本当に入ってたんだな。そっちのほうが動きやすいんじゃないか?」
「ああ、早く中に戻りたい……」
「……わからん」
 話しているうちに制御コンピュータを視認する。が、その前に白騎士が立ちはだかる。
「まったく、おりこうなことだ」
「お母様は囮になっていマスが、これは予想外デスね」
「それに、ザランの理性を飛ばしたのは早計だったか。攻撃が無造作すぎて下手に踏み込めんな……」
 ここにきて不測の事態。荒れ狂うザランの攻撃は敵味方関係なく、辺り一体を焼き尽くしていく。
「何か、打開策を……そうだ。……ホーティさん!」
「その声は、レジーヌかい!」
 声のするほうへ走り、レジーヌの所へ駆けつけるホーティ。そこにエースたちも合流する。
「私に、案があります」
 レジーヌが思いついた案を手短に皆に話す。話を聞いて、真っ先に口を開いたのはエースだった。
「それは、危険すぎるよ。レディに任せていい仕事じゃない。俺がやるよ」
「身軽さならあたいだろう? 口八丁なら任せときなって!」
 エースとホーティがレジーヌの代わりになろうとするが、レジーヌは首を横に振る。
「私も、皆さんと共に戦いたい。それに、エースさんも、ホーティさんも信じてます」
 レジーヌの強い意志を前にし、エースもホーティも何も言えなくなった。
 そして、レジーヌ発案の作戦が決行される。
「ったく、あんたは燃えるだけしか能がないのかい? あっ! いっつも燃えてるから脳みそまで燃えちまったんだね? そりゃ脳がないさね!」
「なるほど。道理で頭が悪いわけだ。いや、頭がない、かな?」
「ざけたことをっ……!?」
 ザランの炎が更に紅蓮に染まる。だが、挑発は止まらない。
「まったく、あなたに仕えられているアダムも大変ね。アダムも所詮過去の亡霊だけれど。そんな相手を主君にするとは、哀れね」
「そんな敵を相手に弾幕援護だなんて、弾薬のムダ使いでしたね」
 リリアとエオリアも挑発をする。
「くそったれ、てめーら全員みなごろ……あっ?」
 ザランが止まる。何故か。メシエが攻撃したからだ。……ザランに対し、『ファイアストーム』で。
「てめぇ、何のつもりだ?」
「いやなに、お前の炎が存外弱いから、こちらも炎を使ってやろうかと思ってな」
「俺に、炎で、挑む、だ?」
「ああ。……と、今までのことは全て、あっちに制御コンピュータを破壊しに走っている彼女が言ったことだ」
 ザランの目がぎょろりと動く。その目にレジーヌを映した瞬間、気が触れたように燃え盛る。
「上等だああぁぁぁぁぁぁああこんのおおおくそアマがあああああああああ!? お前も、お前らも、全員! 魂まで燃やしてやるよおおおおお!!」
「そちらのお二方、攻撃が来ます! 退避を!」
「……そういうことか。了解した」
「無茶な作戦デスね。が、悪くはありません。退避を開始しマス!」
 そして、制御コンピュータ前でレジーヌが止まり、ザランへと振り返る。
 今まで以上の熱気をはらんだザランが、レジーヌを焼き殺さんとしていた。
 レジーヌは少しだけ震える。それでも、声を、勇気を振り絞り、ザランを挑発する。
「ザランさん。……あなたの、負けです!」
「黙れええエエーーーーーッッッ!!!」
 最大級の熱と破壊をはらんだ風がレジーヌに襲い掛かる。
「ホーティさん!」
「はいよーっ!」
 攻撃を確認したホーティが即座に鞭をしならせて、レジーヌへと。
 その鞭はレジーヌの体に巻きつき、レジーヌもがっちりと鞭を掴む。
「野郎共! 全力でひっぱりな!」
 ホーティやエースたちが力を込めて鞭を引っ張る。当然、レジーヌの体もホーティたちのもとへと向かう。
「な、に……!?」
「だから、あなたの負けと言ったはずです」
 既に攻撃は放たれた。
 全てを焼き尽くす風は、白騎士たちも巻き込み、制御コンピュータを破壊する。
 それが、レジーヌの作戦。ザランは、その作戦に見事にはまったのだ。
「ちょちょ! 強く引っ張りすぎだよってああああ!」
 制御コンピュータは破壊された。ついでに勢い余ってレジーヌがホーティへと衝突。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、なんとか。にしても、大手柄だね」
「……役に立てたでしょうか」
「もちろんさ。うちの義賊団に誘いたいくらいにね」
「……ふふ、考えておきます」
 レジーヌとホーティが話す中、ザランをただただ立ち尽くしていた。
「そんな、ばかな……」
「夢でも幻でもなく、これが現実だよ」
「がぁ!?」
 呆然とするザランを、エースやセリスたちが攻撃させ、撃沈させる。
「……これじゃハッキングのしようがないか」
 制御コンピュータの有様を見てハッキングを諦めるエース。
「す、すいません」
「なーに、まだコンピュータはあるんだ。次があるさ、おーっほっほっほ!」
 すまなさそうにするレジーヌと、高らかに笑うホーティ。
 それは、勝利の証だった。

 ホーティvsザラン ホーティの勝利!
 残り制御コンピュータ 1つ