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【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

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【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

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【鏡の国の戦争・決戦8】




「やはり、足りなかったか」
 ダルウィは一人腕を組み、目を閉じ佇んでいた。
 ザリス程ではないが、怪物達とは思念波でやりとりできる。契約者がテレパシーと呼ぶ能力と差異の無いものだが、言葉だけではなく映像や音も拾えるため僅かに利便性が高い。
 最初の砲撃の被害は、兵力を分散して配置していたためにある程度は防げたが、そこからの衝突は惨憺たるを極めたものだ。
 もともと、数は足りていなかった。先日は捕虜を使った陽動が功を奏し、戦場の敵巨大兵器の数を大幅に減らせたが、まともにかち合うのは無理があったようだ。
「勇ましい言葉で兵を鼓舞し死地に送り込む。中々、堂に入った悪人よな、我も」
 昨日のうちに決着できなかった時点で、雌雄は決していたのだ。ではなぜ戦うか、少しでもこの地に敵を引きとめ、僅かな手勢と共に千代田基地に乗り込んだザリスの為だ。
 自らの脅威を声だかに叫び、大地を踏みしめ進軍する。少しでも敵の注意を引きつける。あとは信じるだけだ。
「まぁしかし、負け戦は我の常ともいえること。思えば、一度足りとも勝利を掴む事などなかったが、まあ楽しめた」
 一つ気がかりがあるとすれば、愛々の事か。部下に任せて遠くに逃がしたが、あの娘はある意味我々以上に、我らが創造主が崇めたモノに近い。
 夢に見た、程度の光太郎とはそこが決定的に違う。
 最も死に逝く者が、生きる者の今後を憂うなどというのは贅沢が過ぎる。
「今はただ、この身を武に捧げるのみ。なぁ、オリジンの戦士よ!」

 ここまで駆け抜けてきた桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は、敵の配置が外に厚く、内側に進む程緩くなっていることに気が付いていた。
 そして、ついにダルウィを補足した時、周囲には全く怪物の姿が無かった。その理由を、彼はすぐに知る事になる。
「なぁ、オリジンの戦士よ!」
 振り下ろされたハルバートが、地面をクラッカーのように砕く。
「見つけたぞ!」
 煉は最初の一撃を回避すると、ホワイトアウトをダルウィを中心に放った。吹雪がダルウィの視界を奪う。
(敵本陣への奇襲に成功!)
 エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)は、自軍奥のアナザー・コリマのテレパシーを送信する。返答は待たない。
 吹雪の中心に向かって、ヴァイス・フリューゲル(う゛ぁいす・ふりゅーげる)の機晶ガトリングレールガンと六連ミサイルポッドが打ち込まれた。
「まずは、私が、いきます」
 ユル=カタブレードを構えたヴァイスは、吹雪と爆煙の中に舞い込む。金属が発する悲鳴が響く。そして、暴風のような銃声を合図に、エヴァが飛び込んだ。
「悪いが、このまま終わらせてもらうぞ」
 ポイントシフトで間合いに入り一撃、ミラージュを展開し間合いを話しつつアクセルギアを機動、助走に必要な距離を稼いだところで疾風突きを叩き込んだ。
「まだまだ、終わりじゃないよ!」
 エヴァと入れ替わるようにして、エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)が薔薇の細剣によるランスバレストをダルウィに打ち込む。そのまま光条兵器を抜き、立ち止まる事なく二刀によるグレイシャルハザードへと繋げた。
 流れるような連携が次々と決まり、その最後。
「これで―――」
 滅殺の構えのまま接近した煉の抜刀術『青龍』、そのまま刀を上段に構え、魔力による身体強化に念力による動きの加速を乗せた一撃必殺の技、零之太刀をダルヴィに放った。
「終わりだ」
 ここまで、ダルウィはハルバートを振り下ろした格好のまま、一歩も動かなかった。
「良い、見事な技よ」
 そのダルウィは最初の敵をそう讃えた。
「少しばかり、痛かったぞ?」
 次の瞬間、ダルウィの全身から血が噴出した。
 その場に居た全員の視界が、真っ白に染る。初手のホワイトアウトの吹雪の粒が一瞬にして水蒸気に変わったのだ。それはもはや爆発だった。
 全身を打ちのめされた四人は、それぞれ吹き飛ばされる。エリスは近くの瓦礫に背中を打ち付けて咳き込む、彼女が一番ザリスに近い位置に居た。
 ファイアプロテクトのおかげで、高温の水蒸気からのダメージはかなり軽減されたが、衝撃までは殺せていない。
「やれやれ、まだ何もしていないのだがな」
 やっとダルウィはハルバートを地面から引き抜き、肩に担いだ。
 その獲物も、かの怪物を包んでいる黄金だったはずの鎧も、どちらも今は真っ白になって光を湛えていた。
 ハルバートを引き抜かれた地面からは、まずは細い、しかしすぐに太く力強い炎が吹き上がり、それは炎の花となって形を作った。周囲には火の粉の雨が降り注ぐ。
 ザリスは一度、ちらりとエリスを見たが、とどめを刺しに近づきはしなかった。理由は至極単純だ。
 こちらに向かって近づく巨大なものが二つ、こちらに向かって来ていたからだ。

「む、それは」
 巨大な影が二つ、マッキンリーアルマイン・ハーミットを視界に捉えた時、ダルウィは思わず声を漏らした。
「いってやらあ!」
 炎の花に向かって進んだ先で、ダルウィを確認したシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)は声を張った。と同時に、ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)を射出した。
 地上に無事降り立ったナオキは、既にかなり上昇している気温に汗が浮かぶ。カプセルから出した神獣の子と一緒に行動してみるが、周囲に敵影は無かった。代わりに、煉達と彼らの部下を発見した。煉達は負傷していたがそこまでではないものの、彼の部下達はこれ以上この付近に居るのは危険だと避難させる事になった。
 ここから先は、イコンの戦いなのだ。
 ダルウィは瓦礫のビルを跳ね返るように蹴ってマッキンリーと視線を合わせる。
「やはり、それは―――くくく、そうか、既に本丸は落ちていたか。だが!」
「自分からこいつの前に出てくるのかよ!」
 マッキンリーはインテグラルアックスを振り下ろす。ダルウィもハルバートでそれを迎え撃った。インテグラルアックスと比べると、玩具のように相手は小さい。
「んな、ばかな」
 押し負けたのは、マッキンリーだ。
 インテグラルアックスはかち上げられる。ダルウィは空中で小さな爆発を起こし、一番近くのビルに一旦足をつけると、そこから真っ直ぐマッキンリーに向かって飛翔した。
 再びインテグラルアックスを振り下ろすが、当たらない。ダルウィはそのまま、マッキンリーの頭部に組み付いた。
「なるほど……随分と強引な手法だな。これならば!」
 ダルウィはハルバートを口に咥え、左腕をマッキンリーに突き立てた。手首ほどまで埋まる手刀は、マッキンリーにとっては蚊に刺された程度のダメージでしかない。
 本当に致命的なのは、ここからだ。
「オリジンの戦士よ、相手が悪かったな」
 その声を、シャウラははっきりと聞いた。外の音としてではなく、内側の音として。
 大本を辿れば、ダエーヴァもインテグラルも同じものだ。祖先を同じくする、という方がニュアンスは近いかもしれない。そして、インテグラルは遠い昔に完成した技術であり、当時から生存し続けまたその一端でもある彼らは、その全てを知り尽くしている。
「なっ!」
 マッキンリーはシャウラを強制排除し、自らの意思があるかのように動き出した。それは限りなく暴走に近い何かだった。
「サルヴァがいれば、もっと上手くやれるだろうがな」
 手を引き抜き、苦笑を浮かべつつダルウィはマッキンリーから離れた。
 誰の命令も受け付けなくなったマッキンリーは、振り返り獲物を見据える。アルマイン・ハーミットだ。
「一体何が……」
「知るかっ、来るぞ!」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)強盗 ヘル(ごうとう・へる)は状況を理解できないまま、迫り来るマッキンリーへの対処を求められた。
 上空では、ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)が空に射出されたシャウラを回収したところだった。
「何が、あったのです?」
「わかんねぇ」
 ユーシスの問いに、シャウラはそう答えるしかなかった。

 ゴスホークのパイロット、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が炎の花のふもとにたどり着いた時には、既にナオキの手によってマッキンリーは爆破処理され、アルマイン・ハーミットは片腕を失っていた。
「どうなってんだよ」
 アルマイン・ハーミットの腕は切り落とされたのでもなく、叩きおられたのでもなく、溶け落ちたかのようだった。
「敵は一体、司令級ダルウィ、来ます」
 ヴェルリアのディメンションサイトが、敵の存在と位置を浮き彫りにする。咄嗟に真司は回避動作を取るが、ヴェルリアの見立てでは間に合うか五分五分だった。
「させません」
 アブソリュート・ゼロの氷壁を機体の前に張る、これで速度を落として、だめだ、これでも三分で回避しきれない。今からのミラージュでは幻惑効果は与えられない。
「レーザービット、お願いします」
 レーザーを連射しながら、向かいくる敵を迎撃を行う。レーザーはダルウィに何発も直撃したが、勢いは止まらずに氷壁とレーザービットを貫通した。二重の防御策のおかげで、ゴスホークはこれを回避するのに成功する。
「体当たり、なのか?」
 アブソリュート・ゼロとレーザービットをものともしない熱量と勢いは、自由自在に飛び回る隕石のようなインチキさだ。イコンの装甲も易々と貫通するのは想像に難くない。
 アルマイン・ハーミットの腕は、紙一重で避けつつ反撃しようとした結果なのだろう。
「もう一度、来ます」
 今度は真司の反応が早く、余裕を持って回避した。
 ダルウィは近くのビルに綺麗な円形の穴を開けつつ、何度かの自爆で速度を落として地面に着地する。速度は完全に殺しきれていないので、地面には小さなクレーターができる。
 その穴からは少しすると炎の柱が伸びてゆき、やがて炎の花になって火の粉を撒き散らす。
「さっきから危険温度のアラームが鳴りっ放しだ。次の一回で、全部の手札を使い切るぞ」
「はい!」