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リアクション
【鏡の国の戦争・空港2】
先日の戦いで半壊した飛行機などを集めてつくったバリケードの前で、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)はスレイプニルに跨り失踪していた。
「隙間を縫ってどんどん来るな」
アルダの軍勢は、砲撃を受け、イコンの迎撃を受け、しかし進軍速度はあいも変わらないまま進む。イコンに群がると言っても、全部が全部イコンに向かうような事はなく、彼らの中で必要と思われる数が割かれているといった様子だ。全体の目的は、あくまで空港の破壊か占拠なのだろう。
「はいやっ!」
宵一はバリケードの隙間を縫って、一旦内側に戻った。ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)とリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が出迎える。
「どうでふ?」
「あの身体能力は厄介だな。このバリケードも飛び越えてくるかもな」
イコンとの戦いで、その身長を飛び超えるぐらいの跳躍を当たり前にしてみせるアルダに対して、資材の関係でデコボコのバリケードがどこまで通用するだろうか。
「俺達はできる限り向こう側で動こう」
「気分は乗りませんけど、仕方ありませんわね」
イコンと砲撃で、綺麗な横一列ではなくなってきたアルダの軍団の正面にスレイプニルと共に宵一は躍り出た。
「さて、地上戦の一番槍はもらったかな」
神狩りの剣を構え、スレイプニルを疾走させる。真正面のアルダが立ち止まるが、それ以外のアルダはそのまま前進を続けた。
「俺相手なら一人でいいってか!」
スレイプニルの突進力を合わせた剣戟、アルダは腕を交差させつつ後ろに飛び、その一撃の威力を大きく削ごうとする。
「なめるなぁっ!」
スレイプニルが主人に応え、ここでさらに強く踏み出す。交差させた腕を飛ばし、アルダの胸部を神狩りの剣が走り抜ける。
だが、敵を倒した満足感に浸る暇はない。すぐさま横合いから、別のアルダが馬上の宵一にとび蹴りを仕掛けてくる。
「また、一人かっ」
神狩りの剣で受け止め、アルダとの距離が離れるも、他のアルダは手出ししない。弾かれたアルダが仲間の肩を足場に再び接近を試みる。スレイプニルの上の、宵一と視線が交差する。
「徹底的に一対一に拘ろうってわけか、こりゃ、陽動は難しいか」
アルダの肩の上を疾走するアルダと、並走しながら間合いを詰める。正面のアルダ達は綺麗に分かれ、スレイプニルに接触しない。
「だったら、一人じゃ相手にならないって事を教えてやる!」
駆ける宵一を、バリケード近くで待機しているヨルディアとリイムとコアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)は遠くを見るような目で見つめていた。
「熱くなってるでふね」
「みゅ〜」
「仕方ないですわね。私たちでうまくやるしかありませんわ」
「はいでふ。ラビドリーハウンド、アイアンハンター、おねがいしまふ」
バリケードの壊れたジャンボジェット機の上にて出番を待っていた二機がリイムの声に応える。
「いきまふよー」
二機のマシンガンが地面を舐めるようにして、アルダの正面へと向かう。アルダは当然回避行動を取るが、突然動きが鈍くなり、回避しきれずに銃弾が直撃した。
「レプリカシャドウレイヤー、効果抜群でふ」
一方のアルダ側も、原理はわからないが味方の動きでレプリカシャドウレイヤーの効果範囲を見切ったようで、その効果範囲を綺麗に避けて進軍する。
「いけますわね」
ヨルディアがほくそ笑む。
次の瞬間、アルダは突然彼女達の視界から消えた。だが、誰も驚かない。彼女達が仕掛けた落とし穴に引っかかったからだ。
この落とし穴は、三人がそれぞれ知恵と技術を、そしてアナザーの兵士二十人と施工管理技士の手によって作られた、大掛かりなものだ。
「今ですわ!」
落とし穴の中には、コアトーの罠作りのススメによる工夫と、ゴアドースパイダーの糸によるトラップが仕掛けられ、そう易々とは出られない。
「手加減なんて、してられませんことよ」
まずはヨルディアが、カタストロフィを落とし穴の中に向かって叩き込む。糸に絡め取られ蠢いていたザリス達の動きが変わる、だが細かい変化を読み取る暇はない。
「まだまだ続くでふ」
リイムが終焉剣アブソリュートを地面に突き立てる。絶対零度にまで達するという冷気が、落とし穴に充満していく。この冷気にアルダの手足の先から氷つき、崩れていく。
「これは、サービスですわ」
ダメ押しのクライオクラズム。淀んだ冷気が、まだわずかに動いていたアルダを完全に停止させた。全部で二十体近いアルダが穴の中で活動を停止した事になる。
「みゅー!」
この落とし穴は、実に一割近いアルダを葬ったのだ。
アルダ・ザリス達は、空港に向かう最中に砲撃を受け、イコンと対峙し、バリケードの壁を前にこうして数を減らしていった。
それでも彼らの足は止まらず、淡々と進む。足元に、まだ息のあるアルダが倒れていても、それを視界に入れようともせず、淡々と、淡々と。
同じく罠によってアルダの数を減らす事に貢献しているのが、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だった。
「うじゃうじゃと湧いて来やがって、テメェ等は台所の黒い悪魔かってんだ!」
星喰は忙しく戦場を駆け抜ける。アルダの群れに飛び込むよりも、やるべき事があるからだ。
「ちっ、やっぱ車はシカトするか」
宵一達が築いたバリケードの向こう側には、恭也が仕掛けておいた罠がいくつかあった。使い物にならない車や装甲車、あるいは先日の戦いで破損し修理の手間から放置されたイコンなどに、手製の即席爆発装置を設置したものだ。
車にしてもイコンにしても、一見攻撃ができそうな偽装も施してある。アルダが脅威を感じるものに攻撃を仕掛けるのなら、どちらも攻撃の対象になるはずだ。
「何か、何かあんのか、攻撃を集中する理由が」
同じような装甲車でも、攻撃を受けるものと受けないものがある。佇む無人のイコンはほぼ攻撃対象になっていた。攻撃される車とされない車の違いは何かあるはずだ。
ともあれ、餌として使い物にならない車をただ置いておくのも勿体無い。星喰はそれを掴み上げると、アルダが集まってる地点―――恭也が即席爆発装置を仕掛けた無人イコンに向かって投げつけた。
「発破!」
手製の爆発物は、砲弾の火薬を抜いたものや、航空機の燃料を元にしたもので、その威力はまちまちだ。だが、たった今投げつけたのは実質二倍の爆発力、効果大だ。
集まっていたアルダのほとんどは爆発のその瞬間までイコンから離れなかった。至近距離で二つの爆発。取り付いていた六体前後のアルダは爆発に飲み込まれ、破壊される。
この時、幸運と不幸が交差した。
アルダの中の一体が、その爆発に巻き込まれる前にそのイコンから離れた。そのアルダは、何かを抱えていた。これが不幸。幸運は、恭也がその一部始終を目撃した事だ。
「あれは、機晶石か」
アルダが抱えていたのは、イコンの動力源である機晶石だ。
「おいおい、まじかよ」
星喰は足を止め、その光景に目を奪われる。
機晶石を抱えたアルダは、完全に爆発から逃れられたわけではなく、片足を失い肩から地面に叩きつけられていた。問題はその後だ。そのアルダを中心に、黒い泥が広がったかと思うと、そこから、次々と新たなアルダがはえてきたのだ。
その数は十、いや二十を超えている。
「そうか、そういう事か。狙われる車とそうじゃない車の違い。あいつらはイコンが脅威だから襲ってるんじゃねえ」
ふと気が付くと、星喰にもアルダが集まってきているのに気付いた。まだ距離が僅かにあるうちに、星滅のカルタリで地形ごと叩き潰す。
「こいつらにとって、機晶石が餌。ますます害虫染みてんな」
恭也は記憶を辿る。残っているイコン爆弾の数は、オリジン製の車両は、いくつある。残りの機晶石で、一体あと何体アルダは増える?
「道理で、随分叩き潰したはずなのに減った気がしないわけだ」
アルダの数が報告されたのは、昨日の夜。それまでに、アルダは教導団のイコンを何体も撃破して向かっている。そこで増えた。そしてこの戦場に、オリジン由来の設備はどれぐらいあっただろう。
誰も気に留めてはいないはずだ。
機晶石がある限り、アルダの行進は止まらない。だが、機晶石は同時にアルダの行動を制御する事も可能だったろう。アルダは敵を倒すよりも、優先して機晶石を手にしようとしているのだ。
「今更どうこうできねぇが、みんなに伝えてやるか。増えた分は、ま、全部叩き潰しちまえば問題ないだろ」
再び星喰は走り出す。
目指すのは自分が設置したイコン爆弾だ。アルダを増やさないためには、まずこれらを処置する必要がある。
もちろん、アルダも巻き添えだ。
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