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【アナザー北米戦役】大統領救出作戦

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【アナザー北米戦役】大統領救出作戦

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01 パーティの開幕




「さあ、レッツ、パーティーでありんす!」
 アナザーハイナのその言葉が、開戦の燧となった。

 先陣を切ったのは牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)とその一党であった。
 アルコリアは魔鎧のラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を身にまといつつ、ちぎのたくらみによって5歳位の女の子の姿に変化していた。
 アルコリアは開戦前に、こんな演説をしている。
「ぜーいん、けいちゅー」
 多くの契約者が見知ったアルコリアが変身してそんな姿になっている以上、注目するのはある意味必然だったといえる。
「なまみのこんとらくたぁが、しんせだいのいこんせんとーにまじれるか、れぽーとしましょー」
 そんなアルコリアに、一部の契約者からツッコミが入る。
「そうびやへんせーがなめてる? ええと、ほら、ほんきすぎるとほかのひとたちのさんこうにならないからですよ」
 そう。アルコリアは契約者の中でもかなり高位の存在で、そのアルコリアが本気で挑んだ結果では、平均的なレベルの契約者の参考にはならないと考えたので、あえてお遊びのような装備と編成で挑んだのであった。
 アルコリアはパートナーのシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が調律改造を施した輪ゴムピストルを受け取る。
 輪ゴムピストルはたいした攻撃力も持たない、対人用に脅かすぐらいにしか使えないシロモノだが、それでも調律改造を施せば一度だけではあるがイコンに通用するようになるのではないか。アルコリアはそう考えているようだった。兎にも角にも、あまり本気を出さないでの小手調べ、という意味では逆に徹底しているのが、ある意味での面白みを与えていた。
「さーて、いきますか」
「お伴しますわ、マスター」
 そう言って宙に浮かび上がったのは、アルコリアを主と慕う魔導書、ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)である。
 最古の魔導書たるナコト写本。その原本たる魔導書の化身ナコトを伴い、5歳の幼女の姿のアルコリアもまた宙を舞う。
 そして、シーマも引き連れてギガース――サルヴァが開発した対イコン用巨人型汎用兵器――や米軍の兵器にダェーヴァが融合したコープス《死体》の群れ、そして様々な伝承・伝説を元に生み出された怪物たちの群れなす戦場へと飛んでいったのだった。

「シャロン、お願い」
 そんなアルコリアや戦場を眺めながら、旗艦BB‐75 マサチューセッツの艦長トーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)が、オペレーターのキャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)に指示を飛ばす。
「アイ、マム。こちらディスティニーランド・イースト。全部隊、進軍開始。目標はアメリカ合衆国現大統領アイザック・ウィルソンおよびダェーヴァに捕らえられている人々の救出、及び基地の奪還です。各員の奮戦に期待します。土佐
伊勢、およびウィスタリアの各艦はイコンを発艦させたあと当艦を中心として輪形陣を敷いてください」
「こちら土佐、了解」
「ウィスタリア、了解。米軍の統合戦術無線システム【リンク29】の起動を確認。R&Dとのリンク開始……戦術データの統合と旗艦への転送を開始します」
 ウィスタリアはアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)のR&Dを経由して米軍の戦術リンクシステムとデータの共有を行う。
 これによって四隻の戦闘艦とイコンや生身の契約者のリーダー格、そして米軍の指揮官はそこに居ながらにして戦場全体の様子を把握することが可能になった。
 無論、敵もコープスを通じて同様のシステムを利用しているのだろうが、AIの独自判断ならばともかく、システムの運用に慣れていないサルヴァなどのダェーヴァ上層部が利用する分には自分たちのほうが有利だろうと、米軍は考えていた。
「こちら伊勢、了解。全兵装稼働開始。情報収集も始めるであります」
 伊勢の艦長葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、そう言いながら出撃したイコンからの情報の収集を始める。伊勢にはR&Dがない代わりに、イコンからの情報を収集してそれらを旗艦に送る役割を負っていた。

「旗艦より各艦へ。一斉斉射準備。その後は取り決めの通りに行動してください」
 マサチューセッツからの通信とともに、各艦は主砲の射撃体勢に入る。
「荷電粒子砲スタンバイ……発射準備よし」
 アルマが、準備の完了を告げる。
「R&Dよし。荷電粒子砲発射準備完了。……それにしても、アメリカ本土上空に土佐と伊勢が存在する日が来るとはなぁ。世が世なら大騒ぎじゃ済まない所だよな」
 そう呟くのは土佐の艦長である湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)だ。土佐と伊勢はかつて旧日本軍の軍艦の名前を受け継いでおり、マサチューセッツも米海軍の船の名を受け継いでいる。したがって、これはある意味歴史的な出来事であるかもしれなかった。
「土佐もそうだが、コイツらが名前を貰った艦は本来ならお互いを敵として殴り合いをする為に計画されたんだよなぁ」
「そうですね……亮一様、射線上の味方の退避、終了しています」
 亮一に同意しつつそう告げるのはオペレーター席に座るパートナーの高嶋 梓(たかしま・あずさ)だ。
「了解。マサチューセッツの合図で発射。総員対ショック対閃光防御!」
 亮一は凛々しくそう宣告しつつ、モニターに映る敵の群れを見つめていた。
「伊勢、荷電粒子砲発射準備完了。先行偵察機からの情報確認。敵布陣のデータを更新します!」
 そう叫ぶのは伊勢のオペレーターであるコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)だった。
 伊勢は笠置 生駒(かさぎ・いこま)およびシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)の操るイコンジェファルコン特務仕様が観測して送られてくる敵のデータをリンクされた情報と比較、参照しつつ更新し、旗艦のマサチューセッツにアップロードする。すると、発射の諸元情報がマサチューセッツから送られてくるので、土佐、伊勢、及びウィスタリアは照準を修正するのだ。
「一斉発射……撃て!!」
 トーマスの声が、通信回線を経由して響く。
 それとともに4隻の船から艦載用大型荷電粒子砲が発射され、前方に布陣する多数のダェーヴァの怪物たちを焼き払う。
 だが、敵にも米軍の兵器を流用しているために各種観測機器や戦術リンクシステムが存在する。当然ことながら荷電粒子砲の発射の兆候は敵からも捕らえられており、ダェーヴァたちはすぐさま回避行動をとり始めたために、契約者が期待しているほどの戦果を上げることは出来なかった。
 とはいえ、それ自体が敵の対応能力として評価されるデータになるので、決して無駄なことではなかった。

「グルーム・リーダー。こちらディスティニーランド・イースト。陽動は継続中。パッケージ(大統領)を確保されたし」
 キャロラインからのコールが、【H部隊】【α分遣隊】のリーダーローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)に届く。
「グルーム・リーダー、了解。行動に移る」
 そして、ローザマリアは部隊に告げる。
「出撃許可が下りた。グルーム・リーダーより各員。“ネズミ”の排除を行う。分断し各個に無力化――戦闘開始」
 そして、基地への突入が始まるのだった。