天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

リアクション公開中!

古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

リアクション

 
「よう。……まさかここに誰かが来るなんて、思ってもみなかったかもしれねぇ。
 けど、どうしても気に入らなくてな。……ぶっ壊しに来たぜ」

 契約者の目に遠くに見えていた神殿のような建物の中、枯れた泉に浮かぶ球体の前に竜造が姿を現した。
「お前が、この世界の管理者か? まあ、それが本当の姿ってんならそれでいい。
 お前の言い分、俺は概ね正しいと思う。生き物に闘争本能がある限り争いはなくならねえし、あるのが自然だ。それを否定できる奴はそもそもこの世界に存在しない。
 口では対話すると言ってる奴らだって、腰には得物を持ち、肉体と脳髄には戦うための技術が練りこまれてる。つまりはそういうこったろ」
 泉の周りをブラブラと歩きながら口にして、竜造は相手の反応を見る。相手からの反応は特に何も無い。
「だからそこは構わねえが、それを管理? 一体何様のつもりだ。
 闘争は本能の赴くまま、己か敵のどちらかが死ぬまで続けるもんであって、管理するもんじゃねえ。管理された闘争なんて闘技場の見世物と変わりねえ。
 そういうんじゃねーんだよ」

 ――闘争は管理されるものではない。
 管理を拒んで死を選んだ魔神のことは関係ない、元々そういうものだからだ――

「……この世界に来てから、このゲームみてえな世界のあり方が心底気に入らなかった。
 ……だから、全てぶっ壊す」

 大剣を、弱々しく明滅する球体へ向ける。
 ――実はこの時既に、天秤宮の力は概ねイルミンスールへ送られており(枯れた泉はそれを示唆していた)、竜造の問いに答えられるような状態になかったのだが、それを竜造が知るすべはない。

 一刀のもとに、球体が音を立てて粉砕される。
 すると地響きが起こり、神殿のような建物にヒビが入り、崩れ出す。

 地響きは天秤宮全体に広がり、少しずつ崩壊を始めていった――。


 『天秤宮』が崩壊を始めても、レイナとノワールはまだそこに居た。
「……行かないんですか? このままでは崩落に巻き込まれてしまいます」
「……そうね」
 言いつつも、ノワールは動こうとしない。レイナが待っていると、背を向けていたノワールが振り返って尋ねる。
 その顔は彼女にしては珍しく、何かを迷っているように見えた。
「私は、どうありたいのかしらね。
 もうあなたの“影”として生きるのはうんざりしてる。でも、“私”として生きるのを躊躇している私が居る。
 ……下らないわね。あなたに話した所で、どうにかなるわけでも無いのに」
 諦めの表情を浮かべ、再び背を向けようとしたノワールへ、レイナが一歩進み出て口を開く。
「……私が、言える資格は無いのかもしれません。
 でも……私は、あなたに居て欲しい、と思います」
「…………。
 その通りよ、あなたが言う台詞じゃないわ」
 ノワールの声に、レイナが顔を伏せる。

「……でも、あなたが言うからこそ、意味があるのよね」

 次に聞こえた声にレイナが顔を上げれば、振り返ったノワールがこちらを見ていた。
「言っておくけど、私はあなたのように大人しくもないし、物静かでもないわ」
「……私も……あなたのように表情豊かでも、ハッキリと自分の意見を口に出来るわけでもありません」
 ノワールの足が一歩、レイナへ歩み寄る。
「一緒に居ない方が、あなたにとって幸せかもしれないわよ?」
「……幸せであることと、あなたが居ることは別です。
 あなたが居ても幸せかもしれないし、あなたが居なくても幸せじゃないかもしれない」
「……じゃあ、どうして私を望むの?」
 足を止めたノワールの問いに、レイナが一歩進んで答える。

「……私が、あなたを望んでいるから」
「…………そう」

 さらに互いに一歩足を進め、手を伸ばせば触れ合える距離まで近付いた所で、二人を分かつように地面が割れ始める。
「「!」」
 慌てて手を伸ばすものの、僅かの所で指は空を切り――。

「『レイナ』ぁぁぁ!!」

 二人の名を呼びながら駆けつけたウルフィオナが腕を伸ばし、二人の手を掴む。
「跳べ!」
 ウルフィオナの声に従い、二人は地面を蹴る。三人を繋いだ手は離れることなく、三人は台になっている地点へ着地を果たす。
「大丈夫か!?」
「……ウルさん……は、はい、大丈夫です」
「腕が千切れるかと思ったわ」
「二人とも大丈夫そうだな。ここはじき崩れる、行くぞ」
 ウルフィオナの言葉に二人が頷き、一行は契約者の拠点を目指して駆け出す。少し前に拠点への脱出路が確立されており、そこへ向かえば崩落に巻き込まれる心配は無くなる。
「……ねえ、教えて頂戴。
 私の手を取ったのは、私を助けたのは……あの子のついで?」
 隣を並走しながら、ノワールがレイナを示しつつ、ウルフィオナに尋ねる。
「ついでなわけねぇだろ。
 あたしは、『レイナ』を助けに来た。それだけだ」
 ウルフィオナが出した答えは、『天秤を傾かせない』だった。ウルフィオナにとってレイナもノワールも、等しく大切なものだから。
「……なんというのかしらね。あなた達、似てる気がするわ。
 正直、羨ましい」

「あぁ? なんだって?」
「ふふ、何でもないわ。何でも、ね」

 ノワールの、まるで悪戯を思いついたような笑顔の裏には――。


 契約者は見る、『天秤宮』が崩壊していくのを。そして、契約者の拠点が崩壊する『天秤宮』から離れ、元の位置にゆっくりと降りていくのを。
 その光景は、この戦いに参加した者たち全てに“勝利”の二文字を意識させた。

 しかし、『天秤宮』が崩壊したことで『天秤世界』もまた、崩壊の時を迎えようとしていた。

 戦いに勝利した者たちは、これからどの道を歩むのか。
 残された時間の中で、彼らは最後の選択を行う――。

古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』 完

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

ねこみやは しんでしまった!
「おぉ しんでしまうとは なさけない!」

(……聞こえますか、猫宮です。
 今あなたの脳裏に直接話しかけています)

(『古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』』リアクションをお届けします)

(期間だけは無駄に長いこのシリーズも、次が最終回ですね)
(公開は生き返った時に行いたいと思います)

(それでは、また)