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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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 ポッシヴィ付近までやって来た『Cヴォカロ族』の集団は、前方に一人の少年と思しき姿を認める。彼を排除すれば『ポッシヴィ』まで一直線と判断し、先頭の少女がメガホンを構えた所で、少年がスッ、と顔を上げた。

『……君たちに紡ぐ音楽は無い。
 君たちの声は、音は――私が止める』


 瞬間、凄まじい気の流れが『Cヴォカロ族』を包み込んだ。それまで無表情であった『Cヴォカロ族』に明らかな恐怖の色が浮かび、頭を抱えて塞ぎ込んでしまう。
 たとえ彼女らが『天秤宮』によって生み出された存在だったとしても、世界に存在している限りは『生物』の区分に類する。それら生物にとって、生を脅かす存在――それこそが、魔神。
 魔神としての力を解放したアムドゥスキアスの放った気は、『Cヴォカロ族』に根底からの恐怖を呼び起こさせていた。

「うぅぅ、アムくんこわ〜い。いまのアムくんのかおは、ぜ〜ったいみたくないっ」
「ゆめにでてきそうだよね。ナナた〜ん、って」
「やだやだやめてー、よるおといれにいけなくなるからー!」
 アムドゥスキアスの背後で、ナベリウス達は身を寄せ合ってカタカタと震えていた。実際気温は下がっており、それはアムドゥスキアスの放った気がそうさせているのだと三月は感じた。
(柚……こんな時でも君は、歌おうとするのかな?)
 視線の先、背を向け立つ柚を見ていた三月は、背中がスッ、と動くのを捉えた。

「♪〜〜〜」

 やがて、歌声が響き渡る。『ポッシヴィ』で借りてきたスピーカーを通して、アムドゥスキアスが作り出した恐怖の空間に歌が、止まることなく届いていく。
(上手くなくてもいい、気持ちが大切。
 私はあなたとも、繋がりたい。笑顔でありたい――)
 そんな想いを歌に込め、柚は歌う。そしてその歌を聞いた『Cヴォカロ族』は、それまで悲しみに沈んでいた表情をほんの僅か、笑顔のようなものに変えたかと思うと、幻のようにフッ、と姿を消した。
 彼女たちは死の間際、確かに笑顔だった――。


 ナベリウスとアムドゥスキアスが防衛線に加わっている最中、空の上では無限 大吾(むげん・だいご)西表 アリカ(いりおもて・ありか)の搭乗するアペイリアー・ヘーリオスがマガメ族のコピー、『Cマガメ族』と交戦していた。既に『うさみん星』から来た者たちから情報と弾薬を受け取っており、今は実際の交戦データをアリカが解析し、より詳細なCマガメ族のデータを採取している段階であった。
(天秤宮……この世界の核。そして、この世界での争いの元凶。
 何が「我々は争いを管理する」だ。お前の勝手な理屈で、龍族や鉄族、それ以外の種族は戦いを強いられ、滅んだ種族もあったんだ。
 ゲームの駒にして神様気取りなんて……ふざけるな。人は、龍族や鉄族はお前の盤上の駒でないことを、証明してやる!)
 聞こえて来た『天秤宮』の声に対しての反論を思い描いた所で、アリカが解析の終了を告げ、サブモニターにCマガメ族の詳細なデータが映し出される。機体の性能、及びメイン武器としているビーム銃の威力はこちらの『アペイリアー・ヘーリオス』より低く、単騎で突出せずに的確に迎撃をしていけば、危機に陥ることはないと判断出来た。
『大吾の憤慨する気持ちも、分かるよ。ボクだって『天秤宮』の、管理なんていう勝手な理屈を許せない、って怒ってるもん。
 でも、怒ったまま戦ったらいけないって思う。それこそ『天秤宮』の思うツボだって。
 戦いは起きるけど、ボク達が諦めなければ、絶対に仲良くなれる。龍族と鉄族がそうだったように』
 アリカの声に、大吾はあぁそうだ、と思い出す。龍族と鉄族は長きに渡る戦いを一時的に止め、共闘の姿勢を取った。
「そうだ、龍族と鉄族が手を取った……絆は繋がったんだ。
 だから、俺はその絆を守る! 守ってみせる! この絆、断ち切らせはしないぞ!」
『うん! ボクもボクに出来る事を、頑張るよ! 行こう、大吾!』
 アリカの通信の後、レーダーが敵影反応をキャッチした。これまでは機体の装置を起動させ――いわゆるステルスモード――、データ収集のために交戦は最小限としていたが、今からは全力全開である。
「俺が、俺たちが、最終防衛ラインだ!!」
 早速、ステルスモードを解除すると同時に、肩部と脚部に装填されたミサイルを一斉に放つ。突然見舞われたミサイルを『Cマガメ族』の機体、『フライヤー』は回避することが出来ず、次々と被弾し戦場を離脱していく。
『10時の方向、輸送艦多数! 爆弾輸送型も居るよ!』
 アリカの言葉通り、やや左方向からポッシヴィへ向け、『ボムキャリアー』が『フライヤー』を直掩機に飛んでいた。積み込まれた爆弾が『ポッシヴィ』に降り注げば、多大な被害を受けるだろう。
「やらせるか! 弱点を撃ち抜いてやる!」
 『ボムキャリアー』を照準に定め、『ノヴァブラスター』の発射準備に入る。一部の『フライヤー』が『アペイリアー・ヘーリオス』の狙いに気付いて迎撃に向かおうとするが、一足早く『ノヴァブラスター』のチャージが完了した。
「ノヴァブラスター、ぶち抜けえぇぇ!!」
 『アペイリアー・ヘーリオス』の胴部から放たれた極太のビームが、『フライヤー』を巻き込んで『ボムキャリアー』を撃つ。爆発物を満載していた『ボムキャリアー』はその衝撃で誘爆を引き起こされ、大量の爆弾とともに火の海に沈んだ。そしてキャリアーを援護していたフライヤーは弔いをするように、『アペイリアー・ヘーリオス』へビーム銃を撃ってきた。
「『アペイリアー・ヘーリオス』の機動力を甘く見るな!」
 向けられる複数のビームを、大吾は機体の性能を加味しながら避け、あるいはシールドで防ぐ。そして反撃にと『エルブレイカー』から発射されたビームは『うさみん星』より届けられた弾薬によって威力が引き上げられており、通常なら小破の所を中破に、中破なら大破へと追い込んでいった。

 空の上で大吾とアリカが奮闘している間、地上付近ではセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)廿日 千結(はつか・ちゆ)がヴォカロ族のコピー、『Cヴォカロ族』と交戦していた。こちらもミュージン族から得られた情報を受け取っており、Cヴォカロ族の音楽攻撃に対抗出来ていた。
(天秤宮、何が争いを管理するですか……くだらない!
 あなたのやり方は、争いを悲しいスポーツにして他人を弄んでるだけです!)
 心の中で『天秤宮』へ憤慨の意思を叩き付け、セイルは目前の『巡りのるか』を相手にする。彼女が操作する遠隔ユニットから放たれる音楽を、セイルは高速移動で回避する。
「お前に私は、捉えられない!」
 急上昇から急降下へ、まるで金切り音のような音を立て、セイルは手に『金剛嘴烏・殺戮乃宴』を構え、『巡りのるか』を捉える。4枚の刃と無数の棘、そして棍棒によってその身体は4辺以上の欠片となって粉砕し、音楽を奏でるのを止めた。
「どこまでも追ってきて、しつこいですねぇ〜。
 でも、あたいを撃墜するにはまだまだ腕が足りないですよぅ」
 千結の背後を『鏡のりん・れん』の放った音楽が追尾していたが、千結は巧みな操縦技術でもって音楽を地面に激突させ、追尾を振り切る。
(確かに、生き物に争いは絶えないんだよ〜。でも、それ以外にも生き物には色々あるんだよ〜。
 争いだけで勝手な理決めて強制執行? ……天秤宮ちゃん、それはエゴだよ!)
 空にそびえる『天秤宮』を一瞥して、千結は付近の『Cヴォカロ族』へ魔法による攻撃を行う。一発一発の威力は小さい――それでもCヴォカロ族に対しては、直撃さえすれば沈黙させられる程度の威力――炎や氷、雷や光、闇の属性を持った弾を浴びせ、『Cヴォカロ族』を退けていく。これだけの魔法を行使すればいずれ息切れするかと思われたが、千結は事前に最小限の消費で魔法を行使できる準備を整えており、継戦能力はズバ抜けていた。……そして何より、空では大吾とアリカが戦っているし、龍族と鉄族も同様に戦っている。
(あたいたちは、独りじゃないんですよ〜)
 疲れるまでは頑張ろう、そんな思いで戦闘を続ける――。


(ナナ達を戦わせるわけにはいかない……ならば俺が多少無理をしてでも、こいつらを仕留める!)
 神条 和麻(しんじょう・かずま)のそんな意思が乗った斬撃が、『鏡のりん』を捉える。しかし『鏡のりん』は間際に音楽を奏で、それは残る『鏡のれん』の誘導により彼の死角、ほぼ真後ろから襲ってきた。
「うっ! ……く、大丈夫か、エリス?」
 その攻撃は、彼が纏っていたエリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)によって防がれ、彼には多少の振動のみで伝わる。
『問題ないのです。このくらい、何とも無いのです』
 そう答えるエリスだったが、やはりそれなりのダメージがあったのは隠しきれるものではない。さらには突出してきたため、和麻は単独で孤立する格好になってしまった。
(これ以上はマズイか……? いや、ここで俺が退くような事があっては――)
 意思だけは折れるわけにはいかないと、和麻は気持ちを奮い立たせ『Cヴォカロ族』と向き合う――。

 その時、一陣の風が吹いた。
 いや、それは風ではなく、三つの疾走する影。影は『Cヴォカロ族』の奏でる音楽よりも速く駆け、瞬く間に『Cヴォカロ族』を駆逐すると和麻の元へ戻ってきた。
「ただいまー!」
「ナナ……! それにモモ、サクラ、お前たち……」
「かずまのところにいってあげてっていわれた!」
「かずま、だいじょうぶ? けがしてない?」
 助けに来たナナ、モモ、サクラの顔を順に見て、和麻は感謝の思いを抱きつつも、彼女たちが戦場に出てほしくないからこその言葉を口にする。
「どうして来たんだ! お前たちが戦えば――」
 またあの時のように暴走してしまうのではないか――そう続けられようとした言葉はナナによって遮られる。
「アムくんがいってたよ。『ボク達は決して独りで戦っているわけじゃないんだ、みんなで戦っていいんだ』って。
 かずまも、ひとりでたたかうの、よくない! それでかずまがけがしたら、わたしないちゃうよ!?」
 モモとサクラも脇で、そうだそうだー、とナナの意見を応援する。
『カズ兄、ここまで言われたらカズ兄の負けなのです。
 ナナちゃん達はとっても強くて頼りになります、だから今回は頼っちゃいましょ?』
「…………そう、だな。俺は少し、背負い過ぎていたのかもしれないな」
 和麻がフッ、と肩の力を抜くように息を吐いて、そして改めてナナ達に向き直る。
「一緒に、戦ってくれるか」
「「「うん!!」」」
 頷いたナベリウスは早速、その俊足ぶりを生かして『Cヴォカロ族』を圧倒する。瞬間的には音速より速く駆ける彼女たちを、音楽は捉え切れない。
「俺も負けていられない、行くぞ、エリス!」
『うん、カズ兄!』
 和麻とエリスも彼女たちに遅れること無く、『Cヴォカロ族』の迎撃に当たった――。


(『Cマガメ族』に『Cヴォカロ族』……それぞれ『マガメ族』『ヴォカロ族』のコピー、ね……。
 まあ、どちらを相手するかは、そりゃ『Cマガメ族』だな……『マクーパ』などというデカブツもいるようだし……)
 『天秤宮』から降りてきた『敵』と思しき存在のデータに目を通して、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が方針を決めようとしていた矢先。
「……歌が聞こえる」
 横で招き猫の姿を取っていたマネキ・ング(まねき・んぐ)がそう口にした。
「ん? ……あぁ、『Cヴォカロ族』とやらの攻撃だそうだ」
「ヴォカロだのと……Cを付けておけばどうにかなるなどと思いおって……。
 まぁいい……決めたぞ、我は『Cヴォカロ族』を相手にする」
「いつからお前に決定権が……それより本気か? 彼らは人型、対してこちらはイコン、対抗するのは困難と思うが」
 セリスの問いに、マネキングはフフフ……とどこから声を出しているのか分からない声で笑って言う。
「奴らへの対抗手段? そんなものは決まっておろう。

 歌には歌を、だ!!」

 マネキングの目がカッ! と光ったその瞬間、どういう原理かマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)粘土板原本 ルルイエ異本(ねんどばんげんぼん・るるいえいほん)が呼び出され、さらには決して広いとは言えない空間を突如占拠して七色に光るパネルが敷き詰められ、天井をミラーボールが回るステージが出現した。
「マイキー! ルイエよ! さぁ、お前たちの出番だ!」
「アウッ! ようやくボクらのコンサートの時間だねっ! きっと、ヴォカロ族もボクらの歌に待ちきれずにやってきたんだね!」
 キリッ、とポーズを決めたマイキーが準備体操代わりにムーンウォークを決める横で、ルルイエは寝ていたらしく寝ぼけ眼で辺りを見回して、
「……歌っていい、って言われた気がした。歌っていいの?」
 そう、マイキーとマネキング、セリスに尋ねる。
「いいよいいよー! 歌っちゃいな!」
「お前の素晴らしい歌を、あのバッタモンに聞かせるのだ。音響の調整は我に任せよ」
 マイキーとマネキングは即答し、ルルイエの視線がセリスへ向く。
「…………好きにしろ」
 まさかこの空気で止めろとも言えず、大きなため息を吐きながら了承する。
「……うん……分かった」
 無表情な彼女にしては珍しく嬉しそうな顔をして、ルルイエがステージに立つ。
「ポウッ! ミュージック、カモゥン!」
 マイキーの指示で音楽が流れ始め、それをマネキングが『カイザー・ガン・ブツ』の音響設備を調整しながら外部へ響かせる。そしてルルイエが息を吸い、『Cヴォカロ族』に対抗する歌を響かせる――。

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うが=なぐる ふたぐん )キラッ★」

 ……とまあ、実際に流れたのは歌詞として書き起こすだけでもSAN値直葬間違いなし(だからコピペでしか書けなかった)の、歌? だった。
「あぁ……いい。実にいい……。
 我はこの上ない幸せに包まれている」
「イエァ! ルイエちゃんもノッてきたねー!! ここからが本番だよね!?」
 だというのにマネキングは恍惚といった様子で全身を震わせ、マイキーはさらにダンスを加速させている。
(……Cヴォカロ族よりもむしろ、Cマガメ族にダメージを与えているようだな……。
 契約者の方は……一部の者に頭痛や吐き気を訴える様子が見られる、か……。……まあ……楽しそうだから、いいか……)
 セリスが冷静に戦況を分析する中、ステージ上のルルイエはとても生き生きとした様子で、くるりと回ってポーズを決めた。
「♪」